「せあっ!」


「とあっ!」


「二人とも前がガラ空きだ!脇をしめろ!」


「「押忍!」」



『ドカッ!』


『ゲシッ!』



けたたましい音が甓尖家の一角にある道場から聞こえてくる。



「零次!もっと手を滑らせる様に使え!次に繰り出す手が分かってしまうだろ!」


「押忍!」


「和貴も狙う場所に目線を送るな!常に正面を向け!」


「押忍!」


「神経を集中させろ!!」


「「押忍!!」」



そんな訳で・・・ 


魅堂 零次、若峰 和貴を弟子入り(?)させてしまいました。




::第10話 - story1::




「よし、今日の練習はココまでにしてあがるとするか」


「うす」


「はい」



零次と和貴はスポーツタオルで汗を拭う。



「しっかしお前達、のみこみが早いな」



なんだかんだ言いながら、二人に教え始めて十余日経つが、まるでスポンジが

水を吸う如く覚えていく。


特に零次。



「そうっスか?」


「ああ、コレじゃ教える事が無くなってしまうぞ」


「俺はともかく零次が凄いっすよ。まるで追いつけねぇっスもん」



和貴が参った様に言う。



「零次は元から運動神経がいいんだよな?」


「そうですよ。中学の時にスポーツテストっつーのがあったんスけど、そん時はト

ップクラスにいましたからね」


「うるせぇや」



零次は吐き捨てるように言って顔をそっぽ向けたが、俺には照れ隠しをしている様

にしか見えなかった。



「零次、お前も素直じゃねぇな」



俺は一笑しながら言う。



「よ、耀獅ウん!」



零次の顔が一段と赤くなる。


どうやら感情が顔に出るタイプらしい。



「つか、『耀獅ウん』はやめろよ。『耀獅ウん』は」


「そう言う訳にはいきません。こっちが教えて貰う身なんスから」



和貴が頑固そうに言う。


どこまでも律儀だな。



「分かった分かった。ところで、お前達はどういった関係だ?」


「ああ、中学のツレなんスよ」



話が切り替わった事が嬉しいのか、パッと表情を変える零次。



「一から話すと長くなりますけど?」


「構わん」


「分かりました。もう、3年前になりますかね」



そう言いながら零次は語り始めた─── 




─公立、欄座(らんざ)中学校。


入学式も済み、新しい友達をつくるためにザワザワと賑わう教室。


初々しい光景である。


しかし、その光景とは反して、教室の一角で不機嫌そうな顔をして机に突っ伏して

いる1人の男子生徒がいる。


クラスの人間も、あまり関わりたくないのか、距離を置いている。


彼こそ、若き日の魅堂零次本人である。


入学早々、金髪の上に制服の第一ボタンを外しているので教師から目を付けら

れているのだ。



「・・・・・・。」



零次は騒がしいクラスを若干、煩わしく思っていた。



「ケッ、くだらねぇ」



実際、零次本人は学校生活だとか、勉強だとか、部活だとか、そのような事は一

切どうでも良かった。


何かの暇潰しにと思っているだけで、義務教育だからだとかは毛頭無いのである。



「クソッ・・・来るんじゃなかった・・・」



早くも零次はウンザリしていた。


母親に説得されて来たものの、これから三年間を過ごせるかと言うと、その可能

性はほぼ皆無に等しかった。



─昼休み。


零次は屋上でタバコをふかしていた。


器用にもタバコの煙をリング状にはいている。


零次は昨晩の事を思い出していた。



『─ふん、お前の様なおちこぼれが中学生か・・・ 世も末だな』


『あなた、そんな言い方はないでしょう』


『うっせえ!誰もテメェの為に行くんじゃねぇんだよ!』


『零次!お願い!やめて!!───



「はぁ・・・」



零次は大きなため息をついた。



『カッカッカッ』



誰かが階段を上がってきたようだ。



「マジかよ?ケッサクじゃん」


「だろ?ん?」



屋上に上がってきたのは、この学校の2年の不良生徒だった。



「あんだ?てめぇ。誰に許可とってココに来てんだよ」


「見ねぇツラだな・・・ 一年坊主か」


「うわっ、金髪じゃねぇか、調子のってんな」



勝手にごじゃごじゃ言い出す不良達。



「一度痛い目に遭わしておくか?これ以上舐めたマネできねぇようによ」


「おっけおっけ。しっかしコイツも準備周到だねぇ。わざわざボコられに来るなんて

よぉ」



中でも見るからに頭の悪そうな男が進み出てくる。



「それを言うなら『用意周到』だ、このボケ」



零次が人差し指と中指で挑発する。



「ふ、ふざけんじゃねぇー!!」



恥態を真顔で指摘されたバカの男が零次に殴りかかる。



が、あっという間に返り討ちにされた。


繰り出した手を止められ、腹にミドルキックを入れられたのだ。



「カ・・・ハッ・・・」



零次の後ろで悶絶する男。


唖然とする他の2人の不良。



「クッ・・・挟み撃ちだ・・・」


「ラジャ・・・」



と、2人が同時に零次の左右に回り込む。



「チッ!狡い真似を・・・」



1対1なら負ける気はしないのだが、2対1となると少々分が悪い。


同時に相手を警戒するとなると、どうしても隙が生じるからだ。



「と、なると・・・」



零次は急に自分の右側に居るピアスの不良に飛び掛った。



「なっ!!?」



不意を突かれたピアスは何も出来ないまま零時に投げ飛ばされていた。



「コホッ・・・!!」



背中を強く強打したのか上手く呼吸が出来ていない。



「残り一匹」



零次が最後に残ったボウズ頭の不良に目を向ける。



「ひっ・・・!!」



目の前で仲間が瞬殺されて怖気付くボウズ頭。


零次がとどめを刺す為にボウズ頭に近寄ろうとした時、最初に葬った筈のバカが

急に飛び起きて、零次を羽交い絞めにする。



「て、テメェ・・・!!」


「へ、ヘヘ・・・ 調子にのんなよ・・・」



まったく身動きがとれない零次にバカが言う。



「おい!早くやれ!この野郎、すんげぇ力だ!」


「分かった!死ねやぁ!」



ボウズ頭が懐から出したメリケンを装着して零次に襲いかかった。


零次は『ここまで!』と思いながら歯をくいしばった。



『ゴスッ!!』



「ぶべっ!?」



しかし、悲鳴を上げたのはボウズ頭の方だった。


ボウズ頭が零次を殴る瞬間、横から勢いよく拳大の石つぶてが飛んでき、ボウズ

頭の頬に直撃したのだ。


ボウズ頭は血ヘドを吐きながらピクピクと痙攣している。



「げっ!!?」



バカが驚嘆の声をあげる。



『ヒューン』



「ん?」



何かが飛んでくる音の方向にバカが向くと同時に、先程よりひと回り大きい石つぶ

てがバカの顔面を直撃した。



「げふっ!!」



バカの体が数秒間宙に舞い、ドスーンと音を立てて派手にノびてくれた。


ナイスなファンサービスである。



「いや〜・・・ 間一髪だったぁ〜ねぇ〜」



屋上の扉の影から、間の抜けた声とともに、1人の男子生徒が姿を現した。



「2年生にもなって、タイマンも出来ないとはやっぱり雑魚か・・・」



その男子生徒は痙攣している不良どもを見下ろしながら言う。



「悪いな、助かった」


「おぅ、気にすんな」



彼は、屈託の無い笑顔で振り返る。



「俺は魅堂 零次と言う。お前の名前は?」


「俺か?若峰 和貴ってんだ。よろしく」



これが、零次と和貴の出会いである。




─その頃の耀獅ニ蓮也。



「お前、頭固そうだな。友達いねぇだろ?」


「・・・・・・。」



「ぐわっ!」


「やめっ!」


「悪かった!!」



後は、例の如くの話である。



「─ってのが、俺たちの初対面ですかね」


「そういや、そんな事もあったなぁ」



2人は懐かしそうに話に花を咲かしている。


俺と蓮也の場合とはえらい違いだな・・・ 


と、俺は2人を少し羨ましく思うのだった。