本当に懐かしそうに話すなぁと、つくづく思う。


顔が違うもんな。


認めたくないが、俺と蓮也の時もそうだった気がする。




::第10話 - story2::




「ところで、c・d はどうなった?」


「c・d ??」



零次が目を丸くした。



あ、そっか。

俺にしか分からないのか。



「ホラ、肩の関節とあばら骨を俺が折ったやつらだよ」


「ああ、そんな事もありましたっけね」



零次が遠い目をする。



「つか、あれが耀獅ウんと初めてだったよな?」


「印象はクソ悪かったけどな」



俺はフッと鼻であしらう様に笑う。



「いや、あん時は本当にご迷惑をお掛けしました」



和貴が苦笑いをしながら人差し指で横顎をポリポリと掻く。



「今更だろ?気にすんな」


「そう言って頂くと本当にありがたい。なぁ?」


「ああ。思い出すだけでも情けねえ」


「全くだ」



零次と和貴が顔を見合わせて笑う。


こいつらも相当仲良いんだろうな・・・ 



「結局、あの後、『もう、ゴメンだ!』って言いながら離れていきましたよ」


「そうそう。『お前らと居るとロクな事がねぇ』とも言われましたしね」



大袈裟だろ。



「なかなか慌しいな学校生活だったみたいだが、卒業とかしてんだろ?」


「名義上はしてますよ」


「そうそう」


「名義上?」



なんだそのとりあえずみたいな言い方は。



「俺ら、卒業式に出ないでくれって言われたんですよ」


「・・・・・・。」



は?



「親に言われたのか?」


「いえ、親には強く『出席しろ』って言われましたよ?」


「んじゃぁ、誰に言われたんだ?」


「学校側にです」



「・・・・・・。」



はぁっ!?



「普通、学校が出ろって言わね?」


「その頃、俺達むちゃくちゃしてましたから・・・」



零次がばつが悪そうな顔をする。



「窓ガラスは割るわ、授業中にタバコは吸うわ、職員室にスモークボールやロケッ

ト花火を打ち込んでたし、あ、そうそう。原付に二人乗りで校庭走り回ったりもした

な」



「・・・・・・。」



「そうそう、トイレにタランチュラばら撒いたり、自販機ぶっ壊して中のジュースや売

上金盗んだり、理科室から盗んだ異常にリアルな人体模型に制服着せて木から吊

るして自殺騒動も起こしたりしたしな」



「・・・・・・。」



「教師の車の鍵穴にガム詰めたり、学校の裏山に密輸で仕入れたダイナマイト仕掛

けて土砂崩れ起こしたりな」


「あん時は四車線道路が土砂で埋まったよな」


「その事件、新聞にも載ったしな」


「新聞沙汰っつったら、信号機に細工して、全部黒色に変えたよな」


「あ〜、あったあった。発光ダイオードの上から油性マジックで塗りたくったんだよな」



「・・・・・・。」



「プールにエラブウミヘビ(コブラ科)放さなかったっけ?20匹ほど」


「したした。沖縄から裏ルートで買収(いれ)たヤツな」


「懐かしいよな」


「ああ」



「・・・・・・。」



懐かしんで話すような内容じゃない事に気付いて欲しい。


今だから言えるような事を・・・ 


聞いてて背筋が凍るわ。



中学生が密輸でダイナマイトやウミヘビなんか仕入れるなよ。


零次達の学校の先生の泣く姿が想像できる所が更に怖い。


加減を知れ。

本当に。



「結局、卒業式には名前だけ出て、体は出ませんでしたよ」


「俺ら、立入禁止令出てましたし」


「もういい。なんか情けなくて泣けてくるわ」


「まぁ、そんな過去です」


「あのなぁ・・・」



俺は深いため息をつくだけだった。



「高校にしても、親が頭下げて入った学校も即刻問題起こして強制退学させられ

ましたし・・・」


「荒れてたよな?」


「違いねえ」



とても平然と話せる昔話じゃないだろ。



「でも、今は耀獅ウんにこうやって手ほどきを受けてますから、そんな事は金輪際

しませんよ」


「当たり前だ。そんな事したら、体の全関節を逆に曲げるからな」



途端に2人の体が硬直した。



「実行できそうなところが怖ぇ・・・」


「しかも、軽々とやれそうな気がする・・・」


「あのな・・・」 



鉄腕ア○ムじゃねぇんだぞ。



「ところで、零次、和貴。お前達に大事な話がある」


「はい」


「何スか」



2人の表情がさっきまでとはうって変わり、真剣な表情になる。



「今、俺が通っている聖クライアンヌ女学院に編入する気は無いか・・・?」


「えっ!?」


「ま、マジですか!?」



2人は驚きの様子を隠せない。



「冗談でも何でもない。話を聞く限り、まともな学校生活は送っていないと思って

な」


「男子校から女子高に変わった耀獅ウんも相当複雑なんじゃ・・・」


「和貴・・・ それは言わないでくれ・・・」



急所を突かれた・・・



「あ!すんません、耀獅ウん。コイツ、思った事を直ぐ口に出すタイプの奴で・・・」



尚悪いわ。



「それはともかく、俺はお前達に、もう一度学生としての姿を取り戻して欲しい。特

に零次」


「俺ッスか?」


「ああ」


「急に言われましても・・・」



零次が眉を寄せて悩む。



「どうやら、親との確執がありそうだしな・・・」



その時、僅かに零次の体がピクッと反応した。



「和貴はどうだ?」



話を和貴にふってみる。



「あ、いや。俺は遠慮させて頂きます」



えらくキッパリと断られた。



「ワケありか?」


「ワケありですね」


「零次以上か?」


「そんな事はないですね。俺ん所はそこまでは行かないですよ」


「いくら何でもそんな家庭じゃないよな」


「いやね、親がね・・・ 働かないんですよ」



・・・・・・。


複雑だ!!!



「2年程前から急に仕事しなくなりましてね。」


「親である前に人間失格だな・・・」


「言ってしまえばそうですね」



ケラケラと笑う和貴。


いや、笑う所ないぞ!?


すっごい深刻だぞ!?



「3つ下に、弟るんですけどね。中学入ったばっかで何かと金がかかるんですよ」


「はー・・・」



唖然とするしかなかった。



「それで、なんとかバイトの稼ぎで弟の学費払ってるんで、俺の分までは余裕無

いんスよ」


「苦労してんだな・・・」



本気で泣きそうになった。


「いや、無理言って悪かったな」



本当に。



「気にしないで下さいよ。ま、その点、零次ん家は掃いて捨てるほどの金は持って

ますけどね」



和貴が肩越しにビシッと零次を指差す。


当の零次は・・・ 


いつにも増して真剣な顔付きになっている。


真に受けたかな・・・?



「分かりました耀獅ウん。耀獅ウんの通う学院、俺、入らせて貰います」


「本当か!」


「ええ、他ならぬ耀獅ウんの頼みです。喜んで引き受けましょう」



グラッツェ・零次!



俺の頭の中のくす玉から『零次ありがとう!』の垂れ幕とともに、色とりどりの紙ふ

ぶきが舞い降りてきた。



「分かった零次。後の事は全て俺に任せておけ」


「よろしくお願いします」



とりあえず、後は理事長の説得だけとなった。






─翌日。


放課後に俺は理事長室で理事長と対峙していた。



「─と、言う訳で、私の推薦する魅堂零次の編入を認めて頂きたい」


「けどねぇ、甓尖君・・・」



言いにくそうに話す理事長。



「先日、車岳蓮也君を編入させたばかり・・・ しかも、この時期での編入者は例

をみないわ。貴方達の場合は仕方がなかったとしても・・・」



「お言葉ですが理事長!たかが私や車岳の二人だけで、とても女子生徒の男子

に対する不安や恐怖心が取れるとは思えません!しかも、車岳に関しては女子

生徒には見向きもしない状況。それでは車岳を編入させた意味がありません!」



「確かに・・・ 先生からの報告によればその事は正しいようです。ですが、元来こ

こは神聖なる女学院です。理事会を通して、生徒認定の手続きをするだけにでも、

早くて2ヶ月。且つ、理事会への説得が無いと到底無理な話なのですよ?」



「それは百も承知です。ですが、魅堂は私の絶対の信頼を置いている人物。それ

に、私達とは全く別のタイプである彼は女子生徒にとっても、心を入れ替えようと

している彼にとっても、どちらにも利益があるのは目に見えています!」



俺はここで絶対に引く気はなかった。



「・・・・・・。」



理事長が口を閉ざす。



「理事長!これから、聖クライアンヌ女学院が目覚しい発展を遂げるために、ど

うかお聞き入れ下さい!この件に関する全責任は私が取ります!」


「分かりました・・・」



理事長がスッと立ち上がり、窓の外に目を向ける。



「甓尖君、今この学院にとって大事なモノって何だと思うかしら」


「・・・・・・。」


「それはね・・・ 貴方のような強い意志を持った人なのよ」



理事長が穏やかな表情で振り返る。



「理事長・・・」


「貴方のその強い精神は他の誰にも負けないわ。だから・・・ もっと見せてくれな

いかしら?計り知れない貴方のその力」


「理事長・・・ 貴女はまさか・・・」



理事長は俺が言う前に俺の言葉を遮った。



「理事会の方には私から言っておきましょう。許可が下り次第、魅堂零次君を我

が学院の生徒として迎え入れます」



この人は・・・ 侮れねえ。


全身がゾクッと震えた。



「失礼します」



俺は理事長室を後にする。



理事長は全て判っていながらあんな返答を・・・ 


俺としたことが・・・ 


まんまと理事長の思惑通りにハマっちまったって訳か・・・ 



に、しても・・・ 


理事長も相当のやり手だな・・・ 


改めて理事長の器の凄さを思い知らされた。



1週間後、学院の方から零次の生徒証明書と共に、魅堂零次の学院編入許可

書が送られてきた。


予め用意してたな・・・ 



まぁいい。


コレでとりあえず零次の編入が決定したんだし、良かった良かった。


俺は一安心して零次の携帯に連絡を入れた。