零次の生徒証明書が送られた翌々日。
零次は正式に聖クライアンヌ女学院の生徒ととして、この日から通う事になった。
挨拶も無事に終わり、取り囲まれた零次を救出した後の昼食時間。
例の様にいつものメンバーが集まっている訳だ。
::第10話 - story3::
「ようらいーー!!!誰だよソイツーーーーーー!!!??」
喚き騒ぐ蓮也。
「さっき言ったろ?魅堂零次君だ。てか、この間(第9話・#2)、お前も付いて来た
ろ」
「いや、相手が野郎だったから帰ったんだよ」
「知るか!」
「んな事よりも、俺に黙って浮気してーーー!!!」
蓮也が俺の背中に飛びついてきて、頬をこすり付けてくる。
周りにいる一同は全員引き気味だ。
『ベゴッ!!』
鬱陶しかったので、蓮也の顔面にエルボーを喰らわした。
『ドテーン!』
蓮也は顔の中心部を凹ませて倒れる。
尤も、心配する素振りを見せるものは一人も居ない。
「見苦しい物を見せたな」
「い、いえ・・・」
「今倒れてんのが、俺の(一応)中学からのツレの車岳 蓮也。無闇に近づくと噛
まれるから気を付けろ」
「は、はぁ・・・」
零次はどう対処していいか分からない様子である。
「紹介しとくな。手前からまず幸田」
「こんにちは」
「あ、こりゃどうも・・・」
ルミナを見て、零次が気まずそうな顔をした。
「零次、心配するな。話はつけてあるからよ」
多分、こんな事が起こるだろうと思って、昨日ルミナに話をしておいた。
弟子入りの事、改心の事、編入の事等等。
本人は何も言わなかったが、あの様子だと恐らく大丈夫だろう。
「ヨウライ君のお弟子さんになったんだってね。ヨロシクね♪」
零次はその言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべた。
内心、相当焦っていたようだ。
「栗橋に米谷」
「チース」
「どもー」
「後、おまけ」
「「「「「ちょっとーー!!!」」」」」
おまけ集団になった赤井率いる悪レンジャーが5人揃ってつっこんで来る。
「赤井、羽川、青田、摩黄、桃野・・・」
「「「「「何で嫌そうなの!!?」」」」」
「面倒だから赤、緑、青、黄、ピンクでいいぞ」
「「「「「もう、色!!?」」」」」
ピッタリと声が揃うのは素晴らしい。
でもうるさい。
「てか、何であんた達がいるのよ?」
美香がとっとと追い払いたいのか、邪険に扱う。
「だって、私達だって魅堂君の事、もっと知りたいもん」
「「「「「ねーーー」」」」」
うるさい。
「零次、コイツ等がいるときには一瞬たりとも油断を見せんな。気を集中させとけ」
「え?何でですか?」
「コイツ等に隙を見せるが最期、一気に豹変するからな」
途端、5人が気まずそうに顔をそむける。
「まさか・・・」
「いや、本当だから。俺もこの間コイツ等に喰われそうになったからな(第6話・#5)」
「えっ!?耀獅ウんがですか!?」
零次は至極驚いている。
「まぁ、本人が一番驚いたんだがな・・・」
俺はジト〜と5人に視線を送る。
「そういや、そんな事もあったわよねぇ・・・」
同じ被害を受けた美香も軽蔑の眼差しになっている。
「だから、さっきから気を発してたんすね」
「そう。疲れるが、死ぬよりマシだ」
「死ぬよりって・・・ 一体何されたんですか?」
「いや、かく言う俺もあんまり覚えてはいないんだな、コレが」
「フフン。そして、俺が耀獅フ兄貴分のく──」
「あ、コイツの言う事は全部無視していいからな」
「えぇっ!?せっかくキめようとしたのに!!?」
復活したバカが目に涙を浮かべる。
「はははっ!」
零次が初めて声を出して笑った。
少し意外だった。
あの日(第9話・#3)からたまに柔らかい表情は見せていたが、こんな『楽』の表
情は見せなかった。
「そういや、焔は?」
先程から姿を見ない。
「あ、脩子ちゃんなら、今日当番だからって図書室に行ったよ」
「そうか、焔にも紹介しときたかったんだが・・・」
「そんなに気を遣って貰わなくてもいいですよ?」
意外と謙虚だな。
「とりあえず、移動すっか?6人じゃ、狭いだろ」
「「「「「あたし達は!!?」」」」」
「奢ってやるから大食堂にでも行ってろ」
「やったやった!念願のフカヒレ定食食べよー!」
「あたし、懐石御前!」
「あたしね、あたし──・・・!!」
ドダドダと足音を立てて走り去っていく悪レンジャー。
気品さの欠片もないのか。
どうやら、花より団子が座右の銘らしい。
まぁ、いい。
うるさいのが5人もいなくなったから気兼ねしなくていい。
「って言うか、あの子達お金も貰ってないのに、何を食べる気かしら・・・」
「放っとけ」
そういや、金渡していない。
誰か気付けよ。
「あ、そうそう。校舎の裏側に日当たりいい所あるんだけど?」
「じゃぁ、そこ行くか」
美香の提案により、校舎から少し離れた所にある、小さな坂になっている所に場
所を移した。
「梅雨ももう明けるな」
「やっとね。鬱陶しくてしょうがなかったわ」
木陰で涼しい風を浴びながら他愛の無い話で昼休みは過ぎていった。
「と・・・ そろそろ戻らねぇと5限目間に合わないぜ?」
蓮也が腕時計を見ながら言う。
「そうか、んじゃ戻るか」
俺は立ち上がって大きく背伸びをする。
「あ、図書室に脩子ちゃん迎えにいかないと・・・」
ルミナはカバンに小さなバスケットをしまいながら言う。
「よし、じゃぁそのルートで」
結局、図書室廻りのルートで教室に戻る事になった。
「しっかし、カワラっちも男運が良いと言うかなんと言うか・・・」
「あのな、俺が男運あったって仕方ないだろ?」
我ながら正論だと思った。
「あら?じゃぁ、女運の方がいいのかしらぁ?」
待ってましたと言わんばかりの厭らしい目になる美香。
「・・・・・・。」
クソッ、ヤられた・・・
「ヒヒヒヒ・・・」
「ッッ!!!??」
今、何処からか魔女の笑い声が聞こえたんだけど!?
終始、美香に猜疑の目を向けたまま図書室に到着した。
「脩子ちゃん、迎えに来たよ」
「お待ちしてました・・・」
焔は既に待機済みだった。
「遅れて悪いな、焔」
「いえ・・・」
「零次、紹介しとくな。焔だ」
「・・・・・・。」
「零次?」
「えっ!あっ、ハイ。ども・・・」
あん?どうした、急にそわそわして・・・
・・・・・・。
はっはーん・・・
さては・・・
蓮也以外の全員が零次の心中を察した。
皆が零次の方に気をとられている中、ルミナが焔の異変に気付く。
「脩子ちゃん?」
焔も零次から目を離さない。
「クスッ」
ルミナは焔の心中までも察したようだ。
「さ、教室に戻ろ♪ヨウライ君」
ルミナが俺の腕に絡んできて小走りで俺を引っ張る。
「わわわ!ど、どうしたんだよ!?」
バランスを崩してこけそうになった。
「いいからいいから♪」
俺は訳の分からないまま教室までルミナに引っ張られていった。
午後の授業もHRも終了し、残すは帰宅だけとなったのだが・・・
「零次。零次?」
気付けば焔の方ばかりを見ている零次。
やれやれ・・・
「零次!」
「おわっ!」
椅子から転び落ちそうになる零次。
「帰んぞ」
「えっ!あっ、ハイ」
さっきも同じセリフを聞いた様な聞いてないような・・・
「今日は稽古は休みな。和貴にも伝えておいてくれ」
「分かりました」
零次と2人並んで玄関に向かう。
「ごきげんよう、甓尖君」
「どうも」
「こんにちは、甓尖君」
「こんにちは」
「あら、甓尖さん。そちらの方は新しく編入なされた?」
「そうです、以後お見知りおきを」
俺は、次々と声をかけてくる先輩方と挨拶を交わして足をすすめる。
「耀獅ウん、以前男子校でしたよね?」
「何の確認だ」
その話を持ち出してくるのはやめて欲しい。
「の、割には大分慣れてません?」
「そりゃぁ、もう3ヶ月・・・ って、短いか・・・」
まだ7月前だよな。
「そうですよ」
「いや、お袋や妹は当たり前だけど、他に女性のお手伝いさん達が結構いるから
な」
慣れるなって言う方が無茶だ。
「そういや、屋敷でしたもんね」
「そそ。第一、道場なんかつい先日まで無かったんだからな」
「えっ?もしかしてわざわざ建てたんスか!?」
意外そうに驚く零次。
「当たり前だ。一応、師匠はいるけど既に免許皆伝を貰ってるからな」
「かなりの飛び級ですね・・・」
「部活はやってなかったし、暇だったから、毎日5・6時間ぐらい稽古して、それを
3年間だからな」
「妥当ですね」
「まぁな」
そんな話をしながら、靴に履き替えて玄関を出る。
「あ!ヨウライ君、やっと来た〜」
と、ルミナが怒った様子で腰に手を当てて頬を膨らませながら立っていた。
「あぁ、ゴメン。悪かったなルミナ」
俺は少しニヤつきながらルミナの頬をプニプニとつつく。
「反省してない〜」
ルミナは更に頬を膨らます。
「イチャついてる所お邪魔しますけど、カワラっちにお客よ」
隣に居た美香が校門の方を指す。
「「ん?」」
と、和貴が校門に凭れて待っていた。
「和貴じゃん」
「ほんとだ」
校門まで駆けて行く。
「どうしたんだ和貴」
「あ、耀獅ウん。お疲れさんです」
「お前、バイトじゃなかったのかよ?」
零次が尋ねる。
「え?今日、稽古だろ?」
「いや、今日は馬術があるから休みにしようと思ってたんだが」
「あ、そうなんスか」
「今から連絡入れようとしたんだけどよ」
「そっか。どうしようかな・・・ 7時まで時間空けちゃってるしなぁ・・・」
和貴が頭をボリボリと掻く。
「なんなら、今から俺ん─」
「ようら〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!!!!!
何処行った〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
と、今の今までほったらかしにしていた蓮也が屋上に姿を現し、叫び声を学院中
に響かせた。
「ヤベッッ!!蓮也のことすっかり忘れてた!!」
「どうしたのよ?別にレンぐらい・・・」
美香が不思議そうに言う。
「違うんだって!あいつは俺があいつの事を忘れたまま他のヤツと話しをしてると
異常なほどの嫉妬心を覚えるんだよ!」
蓮也の照準が耀獅ノロックオンした。
「そ〜〜〜〜こか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」
蓮也は、俺の姿を捉えるや否や、そのまま屋上から飛び降りた。
「んなっっ!!?」
「キャーーッッ!!?」
零次やルミナ、下校する生徒が悲鳴をあげた。
生身の人間が、屋上から飛び降りるなど、まずもってして考えられない。
『ドスン!!!』
鈍い音が地面の揺れと共に響く。
皆は思っただろう。
『死んだ』と・・・
が、そうは旨くいかないのが現実である。
「フハハハハハハハ!!!!」
奇声をあげて、物凄い勢いで走ってくるのはご存知、車岳 蓮也。
「クソッ!!」
耀獅ヘ一目散に逃げ出した。
「耀氏`〜!!体育『10』を舐めんなよーー!!」
続いて、トップスピードで校門を駆け抜ける蓮也。
クラ女の生徒は、ただ唖然とその光景を見送るしかなかった。
「耀氏[ーーー!!!」
「来んなーーーー!!!!」
結局、蓮也が力尽きた3時間26分間、俺は時速60kmで走り続けた。
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