『ゴオオォォオ!!



幾多の飛行機のけたたましいエンジン音が飛び交うここ千葉にある新東京国際

空港。


正月とあって旅行者がほとんどを占めていた。


場内アナウンスがかき消されるほどの声がザワザワと音をたてている。



『カタカタカタ』



人混みの中でもその端麗な顔付きと180近くある身長で一際目立つ、ある一人

の青年がトランクを引きながら半年間の留学を経て、ドイツから日本に帰ってき

た。



「耀氏I」



一人の女性が周りにボディーガードらしき人を数人置いて耀獅ニ言う名の青年に

声をかける。



「ん?ああ、お袋」



彼女はどうやら彼の母親らしい。


耀獅ニ呼ばれた青年は笑って彼女の元へ歩いていく。



「あらあら・・・ また見ない間に立派になって・・・」



彼女は目頭に涙を溜めている。



「な、泣かなくてもいいだろ?」



彼は少しだけ焦る。



「それもそうね。とにかく家に帰りましょう」


「ああ」



二人は並んで歩き出す。



「あ、そうだわ」



彼女が立ち止まって振り返る。



「何?」



彼が尋ねると、彼女はとても優しそうな顔をして告げた。



「おかえりなさい・・・」



彼は少しの間無言のまま固まっていたが、柔らかい笑顔で答えた。



「・・・ただいま」



これが彼、甓尖耀獅フ今から始まる長い長いお話のプロローグ・・・ 




::第1話 - story1::




俺の名は甓尖 耀氏iかわらさき ようらい)。


ごく平凡な16歳だ。


外見の特徴からすると、両親は二人とも日本人なのに軽く銀髪がかかったシャ

ギーと言ったところか。


あと、シルバーフレームのメガネをかけている。


物心付いたときには既にかけてたし、相当目悪いんだろうな。


でも、大して見えないと言う訳ではないので、勉強する時以外はつけない様にし

ている。



先日、留学先のドイツから帰ってきた。


いわば帰国子女ってやつだな。


ドイツから帰って、2・3日は家族と会話する以前にかなりの時差ぼけと不眠症の

せいで、「う゛〜〜〜ん・・・」と唸りながらベッドに倒れ、寝込んでいた。



普通なら、もうそろそろ高校決めて受験勉強しないといけないのだが・・・ 


俺の親父ときたら俺のいない間に勝手に学校まで決めちまいやがった。


俺にだって学校を決める権利ぐらいあるはずだ。


しかし親父は、


「お前の行く学校はわしが決めておいたからな。あ、入学試験とかはいらんらしい。

だから全然気にする事は無い」


なんて言いやがる。


気になるっつーの。



あ〜あ、こんな事なら先に決めとけば良かった。


ま、今更ごちゃごちゃ言ったって何にもならねぇしな。


勉強しなくてもいいって言ってるんだし、まぁよしとするか。



それにしても俺の親父はどこにでも顔が利くんだよな。


俺の親父の名前は甓尖 羹蕨(かわらさき かんげつ)。


日本有数の貿易会社、甓尖グループの総帥で総資産日本第三位まで一世代で上り

詰めたって言うからたいしたもんだ。


そこは俺も見習わなければいけないのだが、後先考えずになんでも実行するのが悪

いクセだ。


たまには真剣に十秒でも考えてみろってんだ。



そんなこんなで3ヶ月が過ぎた春、4月下旬。


手続きやら何やらで入学が遅れてしまったものの、俺は親父の決めた学校へと通う事

になった。


「どんな所だろう・・・ まぁ、親父に限って男子校と言うのは有り得ないだろうな。ハハ・・・」



『コンコン』



「はい?」


「坊ちゃま。お目覚めでしょうか」


「ああ、鴨川さん。入ってください。


「失礼致します」



と、入ってきたのは俺の執事の鴨川(かもがわ)さん。


年は既に60を超え、立派な白髪と髭を蓄えている。


ここまで来ると完璧なもんだ。



「坊ちゃま。制服をお持ちいたしました」


「あぁ、すいません」


「では、失礼致します」


「ありがとう」



とりあえず受け取った制服を着てみると、どうやら男子校の制服ではなさそうだ。


薄茶色のブレザーに薄青のネクタイと校章であろうか、マークの入ったネクタイピ

ンに肩から掛ける黒のバッグと革靴。


いそいそと制服に身を包み、朝食をとりに下へと降りる。



「耀似l。おはようございます」



元気よく俺に声をかけて来たのはお手伝いの古軒(ふるのき)さん。


少しぽっちゃりとはしているが愛嬌があって、年下のお手伝いからは慕われている

甓尖家のやり手お手伝いさんである。


この人には俺が生まれた時からずっと専属として面倒を見てきて貰っている。

ありがたいことだ。



「おはようございます古軒さん。い
つも言ってるけど、『様』はいらないよ」


「いえいえ、そのような恐れ多い事はできません」


「何言ってるんですか。
本来ならば俺のほうが古軒さんに敬語使わなければいけな

いのに・・・」


「そのお気持ちだけで結構でございます。さぁさ、朝食の支度ができておりますよ」


「ああ、ありがとう」



本当に古軒さんには頭が下がる。


まるで母親のような人だ。


そんなことを考えながら大広間へと向かう。


大広間に入ると、3人の人影が見えた。



向かって中央、堂々と座っているのが先に説明したとおり日本有数の貿易会社の総

帥で、最近増えてきた白髪と少々太り気味の体に悩んでいる俺の親父。



向かって左側、ブロンズのサラサラストレートを背中まで伸ばして静かにコーヒーを

口に運んでいるのがお袋の甓尖 菊音(かわらさき きくね)。


有名私立大出身でその魅力に惹き寄せられた人間は数知れず・・・ 


正に容姿端麗、博学美人とはこの人の事であろう。



最後に向かって右側、ピンク色の髪で肩まであるセミロングヘアーをツインテールに仕

上げて貰いながらクロワッサンをほお張る、趣味がヌイグルミ集めの妹の百合華(ゆり

か)である。


3人とも既に朝食をとっていた。



「おはよう。耀氏v


「おはよう。親父」


「あら、おはよう」


「おはよう。お袋」


「お兄ちゃん。オハヨー!」


「おはよ。百合華」



俺は早々と席に着く。



「よく似合うじゃないか」


「おかげさまでな」


「本当。よく似合うわ」


「お兄ちゃんカッコイー♪」


「ハハ、ありがとう」


「今日からお前も高校生だな」


「まぁな。ってかさぁ親父」


「なんだ?」


「俺の行く学校ってどんな所だ?」


「そうですよあなた。私達にも教えて下さらないんですもの」


「お父さんずるい」



家族が口々に親父に問い詰める。



「ハッハッハ!それは行ってのお楽しみだな。ワッハッハッハ!」



一体何を企んでいるんだこの親父は・・・



「さぁさ。百合華、耀氏B早く食べなさい。時間がないわ」


「ああ」


「ハ〜イ」



急いで朝食を片し、百合華は都内の私立中学校へ、親父は会社へ。


俺はその新しい学校へとそれぞれ用意されたリムジン乗って向かった。