「ねぇねぇ、キミ背が高くて可愛いね。今から俺達とお茶でも飲まない?」


「・・・・・・。」



あ、最初に言っておくけど、俺のセリフじゃねぇぞ?


逆に俺が言われてるんだからな?



「ハハ、緊張してるのかな?大丈夫だよ。怖くなんか無いから。ね?」



只今、男二人組みにナンパされるという、生きてきた中で最大の屈辱を味わって

いる最中である。


その理由が俺が女装をしているからだと。



・・・・・・。

死んでいいですか・・・?




::第11話 - story1::




─8時間前。



「痴漢?」


「そう、最近ウチの学院の生徒をターゲットに電車とかで頻繁に出没してるの」



美香が朝からややこしい話を持ってくる。



「そりゃひでぇな」



隣で話を聞いていた蓮也が相槌をうつ。


「警察とかに被害届けとか出してねえの?」



なるべく俺に火の粉が飛んでこないように回避する。



「と言う訳で、カワラっちにレン。あんた達に協力して貰うわ」



つもりだった・・・ 


何が、『と言う訳で』だ。

どういう訳だよ。


俺は大体の見当は付いていたが、蓮也は相当予想外だったようだ。

未だに信じられないような顔をしている。


気持ちは分からんでもないが・・・



「何で俺な訳?魅堂でもいいじゃねぇか」



あからさま不満そうな声で蓮也が文句を言う。



「ミッ君は無理よ。完全な武士タイプだもん。女装したらただの変態よ?」


「お前・・・ それはフォローのつもりか・・・?」



青筋をピクピクと立てて、今にも爆発しそうな怒りを必死に抑えている零次。



「まぁ、そう怒るな零次。チャンスはまだある」



「耀獅ウん?」


「冗談だ」


「マジでシャレになりませんから勘弁して下さいよ」



素で焦った表情を浮かべる零次。



それにしても、最近のオヤジはやる事が違うね。

毎日の鬱憤を猥褻行為で晴らすとは頭がイカレたとしか思えない。


本でも出版してみろ。

同じような事考えてる変態中年が集結する事必然だ。


ま、捕まるのがオチだけどな。


・・・っと、世の中皮肉ってる場合じゃねえ。


それにしても、『女装したらただの変態』 か・・・ 



「「ん?」」



・・・・・・。



「「女装!!?」」



俺と蓮也が同時に声を上げる。



『リ〜ンゴロ〜ン リ〜ンゴロ〜ン』



間の悪い事に、核を聞く前に1限目の鐘が鳴った。



「あら。んじゃ、詳しい話は後でね」



美香はそう言い残し、鼻歌交じりの歌を歌いながら自分の席に帰っていった。



「「・・・・・・。」」



ポツンと残された俺たち2人のその時の顔は、相当マヌケな顔をしてたと思う。


とりあえず、悪い予感しかしなかった。



こういう日に限って時間という物は異常なほど早く流れるものである。


あっという間に今日の授業が終わってしまった。



─校門前。



「─で・・・ 話の整理をさせて貰うと、俺と蓮也がこの学院の女子制服を着て、痴

漢が出没するという例の電車に乗り込み、俺達が痴漢に襲われた所を捕まえる。

と・・・」


「そ!」



美香に自信満々な顔で面と向かって言われる。



「「・・・・・・。」」



無茶苦茶だ・・・ 



「ってな訳で、早速いくわよー!!」


「おーーっ!!」



何故かノリノリなルミナ。


その後にこれ以上にない程テンションの下がった俺達が続く。



「「はぁ・・・」」



海溝よりも深いため息が自然と出てくる。


トコトコと美香の後を付いていくと、なんだか見覚えのある景色が・・・ 

って、この道ルミナの家への道じゃねえか。



「美香」



思わず呼び止める。



「なぁに?」


「もしかしてルミナの家に向かってんじゃ・・・」


「そうよ。まずは準備しないとね」



準備って・・・


やがて、ルミナ宅に到着する。



「ただいま〜」



まずはルミナがドアを開けて家に入っていく。


当然の事だけど・・・


それに続いて美香、俺、蓮也、そして零次の順で入る。



「お帰り恵ちゃん。あら?美香ちゃんじゃない!」


「こんちわー。しっかし、相変わらず美しいですなぁ」



中年親父のようなセリフを吐きながら幸田さんの全身をまじまじと見る美香。



「変態だな」


「ああ、変態だ」



俺と蓮也の意見が合致する。



「あら!甓尖君、お久しぶり」


「ご無沙汰してます」



俺は軽く会釈をする。



「ちょっと見ない間にまた男前になったんじゃない?」


「ハハハ・・・」



2・3ヶ月でそう簡単に変わられては本人が困る。



「恵ちゃん、そちらの方達は?」


「あ、紹介するね。ヨウライ君のお友達の車岳蓮也君と、ヨウライ君のお弟子さん

で良かったんだっけ?魅堂零次君」


「ちあーす」


「どうも」


「2人とも女学院に新しく編入する事になったの」


「あら、そうなの。初めまして、私、恵子の母で幸田美子と申します」



幸田さんは深々と頭を下げる。



「幸田美子・・・って・・・ あのデザイナーのですか?」



意外な事に、蓮也が喰らい付いた。



「ええ」


「名前は雑誌などで拝見してます。その独創的なセンスで、20代から30代の女

性をターゲットに、最近では10代のファンも増やしているとか」


「あらまぁ、光栄ですわ。貴方の様な人にも知って頂いて・・・」



これに、その場にいた俺達が驚いた。

ルミナも同様だ。


恐らく、当の娘ですら知らなかった事だろう。



「それで・・・ 今日はどうしたの?」


「あぁ、ちょいとコレ共に化粧などを施してもらおうと思いまして」



肩越しに親指で俺達を指す美香。


せめて人間として扱え。



「お化粧?」


「ええ、女でも惚れるぐらいでお願いします」



おいおい・・・



「まさか甓尖君、そっちの─」


「ないです!!!」



即否定しておいた。



「警察の協力なんだって」



巧くフォローするルミナ。


俺の味方はお前と零次だけだよ。



「ハックション!」



後ろで零次のくしゃみが聞こえたが、放っておこう。



「そういう事なら私も協力させて貰うわ。さぁさ、上がって上がって」



俺達は靴を脱いで家に上がる。



「お母さん、デザイナーの他にメイクの仕事もしてるの」



ルミナが俺に耳打ちをする。

多才だなぁ、とつくづく思った。



「ここよ」



幸田さんに案内され、とある一室に入る。


そこには大きな三面鏡を備えたメイク台が置かれている部屋だった。

どうやらメイク室らしい。


三面鏡の周りには、ファンデーションやフレグランス。マスカラにカーラー、リップ

などの小物類が所狭しと並べられている。



「じゃぁ、甓尖君。ここに座って」


「あ、はい」



俺はメイク台の前に座らされる。



「甓尖君の場合はメイクしなくても十分キレイなんだけど・・・」


「はは・・・」



嬉しくない。



「より一層、キレイにしてあげるわね」



笑顔で言う幸田さんと、物凄いテンションが下がった俺との温度差が激しい。


その間に、俺の顔は幸田さんの手によってメイクされていく。




10分後─。



「後は、このウィッグ(カツラ)を被せて・・・ はい、出来たわ」



俺のメイクが仕上がった。


鏡に映ったのは、全くの別人になってしまった俺だった。



「これが・・・俺・・・?」



悪夢なら覚めてくれ。



「いいね〜、いいわねカワラっち。思わず涎が出そうになったわ」



美香がジュルリと音をたてながら、手の甲で口元を拭う。


どこまでが冗談なのか分からないから怖い。



「うわ・・・ 本当に耀獅ゥ・・・?」



長年の付き合いの蓮也ですら驚嘆の声をあげた。



「耀獅ウん・・・ それはマズイっスよ・・・?」



零次まで・・・



「どう?恵ちゃん」



幸田さんがルミナに訊ねる。



「えっ!あっ!あの・・・ その・・・ す、凄く・・・ キレイ・・・」



段々と小さくなる声が俯きながら言うので更に小さくなる。


勇気を出して言った事は認めるが、そこまで言われる俺は男として問題が無い

か?



「さぁて、次はレンの番ね」



美香が厭らしい顔つきで蓮也の方に振り返る。



「ううぇっっ!!?」



目の前であんなのを見せられては、普通男なら誰でも嫌がるだろう。


が、美香はそんな事はお構いなしに、蓮也を羽交い絞めにして無理矢理三面鏡

の前に座らせた。




更に10分後─。



「ううぅ・・・」



完璧なほどのメイクが仕上がった蓮也はべそを掻いている。



「泣いたらせっかくのメイクが落ちちゃうでしょ?」



美香がハンカチで蓮也の涙を拭っている。



「何の因果でこんな目に・・・」



それは同感だ。



「泣き止みなさいよ」


「ううう・・・」



未だ泣き止もうとしない蓮也。



「ホラ、飴あげるから」



と、美香が制服のポケットから飴玉を取り出した。



「あ、ありがと」



途端に泣き止んだ。



最近、美香の蓮也に対する扱い方が慣れてきたんじゃないかと思う。

うん。



「じゃ、後はこれに着替えてね」



と、美香達は俺達に女子の制服を渡して部屋から出て行った。



「はぁ・・・」


「────・・・」



ふと横を見ると、口の中に含んだ飴玉を無我夢中に舐める蓮也の姿。



「何味?」


「むぐ・・・ マスカット」



蓮也の好きな味だった。



「良かったな」


「ムグ・・・」



コイツはいつ成長するのか・・・

それだけが心配だ。



「に、しても・・・ 耀獅ウん、体ほっそいですね・・・」


「やかましい」



上半身裸になった瞬間、零次に言われた。



「だろ?筋肉質の割には痩せ型なんだよな」



飴を噛み砕いてまで話に寄って来る蓮也。



「女性の敵だな」


「そうそう」



2人揃って・・・



「俺だってもっと(筋肉が)盛り上がって欲しい─」


「贅沢だ」


「諦めて下さい」



なんか怒られた。


今日は厄日だな。

うん、そうしよう。



着替え終わってルミナ達の待つリビングに向かう。



『ガチャ』


「お〜〜〜!!!」



部屋に入った瞬間、美香が叫ぶ。

叫ぶ要素あったか?



「カワラっち、レン!あんた達天才!ちょっと惚れちゃった!」



凄みのある顔で迫られる。

お前は単なる変態だろ。



「惚れちゃダメだよ」



後ろから、ルミナがふて腐れた顔での美香への文句が聞こえる。


最近、ルミナの積極性が増してきたと感じるのは気のせいだろうか・・・?



「あ〜、ゴメンねルミナっち。心配しなくてもカワラっちはあんたのモンよ」



だから俺は物か。


そしてルミナはまた顔を赤くしてそっぽ向くのだった。



「よし!それじゃぁ、行きますか!」



かくして、痴漢撲滅作戦はスタートするのだった。