「はぁあぁぁぁぁ・・・」
一瞬にして皆のテンションを下げかねないほどの溜め息を吐く俺。
肩の落ち具合が凄まじく激しい。
「ま、そうくよくよすんなよ」
あれ程までに文句・反対・不満の3拍子だらけだった蓮也がいつもの腑抜け顔に
戻っていた。
「何でそんなに前向きなんだよ」
「諦めようぜ?今更辞めれる訳ねぇだろ?ホラ」
蓮也が、後姿からでも判るほど相当楽しんでいる様子の美香を指差す。
しかし、何で俺達が女装してまでこんな事を・・・
・・・・・・。
待てよ・・・
「あいつがやればいいと思わねぇ?」
根本的な事に今気付いた。
「あ・・・」
蓮也も気付いた。
::第11話 - story2::
「でも無駄っぽいでしょ?」
零次が止めを刺すように言う。
「だよな・・・」
「返り討ち確定だよな・・・」
そんな事が無駄である事を悟った。
どちらにしろ、疲れるだけ損だ。
大人しくしてますよ。
「それにしても、耀氏Bお前、ロングヘアー似合うよな」
突拍子にそんな事言うな。
「あ、それはあたしも思った」
「そうか?」
ウィッグを褒められてもどうかと思うけどな。
「そうだよね。ヨウライ君、思い切って伸ばしてみたら?」
ルミナも賛成する。
「そ、そうか?」
ルミナにまで言われたらそんな気にならない事もない。
「あ〜ら、やだやだ。女が女に将来の想像図の告白ですかぁ?」
「しかも、片方の女は女装した男だって事にお気づきですかぁ?」
美香と蓮也がしらけた顔で嫌味を垂れてくる。
当然、俺とルミナに軽い敵意が芽生えたのは言うまでもない。
『♪♪♪♪!』
「とと、電話だ・・・」
蓮也の携帯に着信が入った。
「今はいいけど、後で切っててよ?」
「わぁーってるよ」
文句を垂れながら電話に出る蓮也。
「もしもし?」
『────・・・』
「えっ・・・?」
と、急に蓮也の顔が厳しくなった。
「はい・・・ はい・・・」
『────・・・』
「わ、分かりました・・・」
『ピッ』
携帯を下ろした蓮也の手は震えていた。
「どうしたのよ?」
美香が、蓮也の只ならぬ様子に思わず訊ねる。
「親父が・・・こっち(日本)に帰ってくる・・・」
「何だって!?」
俺は咄嗟に叫んでしまった。
「え?え?」
慌てふためく美香。
「今日の5時便で帰ってくるって・・・」
「マズイな・・・」
「くっ・・・」
「ここはもういい。早く帰れ」
「いいのか?」
この期に及んで、蓮也が罪悪感に駆られている。
「構うな、優先順位を考えろ!」
「分かった・・・ スマン!」
蓮也はそう言い残して元来た道を走って帰った。
「・・・・・・。」
俺は、只真剣な顔付きで蓮也の後姿を見送るだけだった。
「あ、あの〜・・・」
「ん?」
恐る恐る美香が声を掛けてきた。
「どしたの・・・?」
「いや、何でもない。とまぁ、見ての通り蓮也がいなくなったから俺一人でもやる
ぞ?」
「そ、それは構わないけど・・・」
美香も、あの重苦しい雰囲気に呑まれたようだった。
「時々、2人とも恐い顔つきになるね」
美香とは違い、ルミナが冷静につっ込む。
冷静なのはいいけど、つっ込み所を間違ってないか?
「あれ?零次じゃん」
ふと、全員が前に向き返ると和貴が立っていた。
「和貴、どうしたこんな所で」
「こんな所でって・・・ ルミナさん迎えに・・・って、あら?ご一緒でしたか」
一人で勝手に話を展開していく和貴。
「大統領も一緒か・・・」
「あたし《栗≒クリントン》の事?」
「おろ?そちらの方は・・・?」
和貴は話を振るだけ振っておきながら美香をスルーする。
いい光景だ。
「あ、えっとね・・・」
「ルミナさん、少々お待ち下さい!零次、こっち来い!」
和貴は今から説明するであろうと思われたルミナの言葉を遮って零次の首に腕
を回し、ズリズリと少し離れた所まで引きずっていく。
「誰だよあの人・・・!」
「あん?」
「まさか、ルミナさんのライバルじゃねぇだろうな・・・!?」
「アホか!」
そして今度は先程と逆の立場になって零次が和貴の首に腕を回してこっちに引
きずってくる。
「良く見ろ!」
「えっ?」
俺と和貴が見合う。
「いや、キレイだけど俺のタイプではない」
「誰がそんな事訊いた!」
コントをし始めたらしい。
「もしかしてお前のコレか?」
と、小指をピッと立てる和貴。
お前もリアクションがオヤジだな・・・
「何でそうなる」
「いや〜、趣味悪いなブッ!!」
先に俺の拳が和貴の頬を貫いた方が早かった。
「あがが・・・!!?」
全くの不意打ちで痙攣しながら頬を押さえる和貴。
「こ、この痛さはまさか・・・よ、耀獅ウん!!?」
「悪趣味で悪かったな」
俺の声が予想以上に低い。
「そ、そそそ、そそそそそ・・・!!!」
人間の言葉を話せ。
人間の言葉を。
「な、何でそんな格好してるんですか!?」
「あまり理由は訊かないで欲しい所だな」
「そっちの趣味が─」
「ねぇよ!!」
似たようなやりとりがさっきもあったようななかったような・・・?
「実はかくかくしかじかで・・・」
零次が分かり易く和貴に説明する。
「へぇ〜・・・ 災難ですね」
笑顔で言われた事に無性に腹が立って、いつの間にか和貴を殴っていた。
「今までで一番痛かった・・・」
「いや、今のはお前が悪いよ?」
腕を組んで歩く零次が憐みを込めた声で和貴に言う。
一行(パーティー)に和貴を加えた俺達は駅に向かって再び歩き出す。
「でも、そんな簡単にいきますかね?」
この異常な作戦に初めて理に適った発言が出た。
「いくに決まってるわよ。なんたってあたしの作戦よ?」
だから心配なんだよ。
「なんなら試してみる?」
口元がつり上がった不敵な笑みを浮かべる美香。
こういうパターンは大抵ろくな事が無い。
「カワラっち、この電柱の下で立っててくれる?」
美香がピッと足元を指す。
「理由は訊かないからな」
「今のカワラっちなら1人でいたら絶対に声掛けられるから」
だから訊かないって言っただろが・・・
「それじゃ、あたし達はそこの陰で見てるからね」
と、美香はルミナ・零次・和貴を強制的に引きずって行った。
「・・・・・・。」
独り残される俺。
『か〜のじょ』
お?何だ何だ?
今、21世紀だぞ?
そんな大胆に死語を使う奴が今時いるとは・・・
って、俺が言われてんじゃねえか!!
「ねぇねぇ、キミ背が高くて可愛いね。今から俺達とお茶でも飲まない?」
「・・・・・・。」
と、現在に至る訳である。
「この辺の学校の生徒?」
男2人組みは執拗に話し掛けてくる。
「黙ったままじゃ埒が明かないから、とりあえず喫茶店にでも行こうか」
訳の分からん事を言いながら、片方が俺の肩に手を回してくる。
『ガシッ!』
俺にも我慢の限界という物がある。
気付いたら俺の肩に手を回していた男の手を掴み、一本背負いをしていた。
『ドシーン!』
いい音だ。
「なっ!?」
もう片方のロン毛の男が次の言葉を言う前に中段蹴りを腹に喰らわせてやった。
ロン毛はそのまま吹き飛び、叩かれたゴキ○リのように塀にめり込んだ。
「ったく・・・ 零次」
「はい?」
「手伝え」
俺は塀にめり込んだロン毛の男を引っ張り出す。
パラパラと落ちる破片の音が生々しい。
「どうするんですか?」
「えとだな・・・」
俺は辺りを窺って、小さな路地裏の電柱の陰にある青のポリバケツを見つけた。
「あれがいいや」
男達をずるずると引きずって行くと、そのままポリバケツの中に押し込み、ガッチ
リと蓋をした。
オマケに蓋の上にはおもし代わりの石を置いておいた。
「これでよし・・・」
「いつ見つかりますかね?」
「さぁな。今日が水曜だから運良く行けば金曜のゴミの日にでも見つかるだろう」
何気に酷い事言ってると自分でも思った。
「ほーらね?直ぐに引っ掛かったでしょ?」
美香が予想通りに満足した顔付きで出てきた。
「言わなくても分かってたけどね」
ルミナが調子に乗り出した美香に『言葉』という、時に非情になる槍を突き刺した。
「・・・・・・。」
笑った顔のまま固まる美香。
力強く突き上げた手が虚しい。
途端、ズドンと美香のテンションが下がったのが分かった。
がっくりと頭が項垂れている。
どうやら、ルミナが弱点らしい。
俺はそんな美香を見て、軽くほくそ笑んだ。
「あ、着きましたよ」
俺達は痴漢の出没する例の電車の途中駅に到着した。
ほくそ笑んでる場合じゃなかった。
一番厄介な問題を残してたんだった。
「さぁ〜てと・・・」
いつの間にか蘇生した美香がパキポキと手を鳴らす。
皆が思った。
“お前がするんじゃないのに・・・”
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