『3番ホームに16時28分発の上り電車が入ります。危険ですので、白線より前
に出ないで下さい─』
アナウンスが流れる中、独りプラットホームに立ってます。
それにしても、気が滅入る・・・
痴漢を捕まえるのは構わないのだが、痴漢に遭ったと想像するだけで身の毛が
よだつ。
ほら見ろ、鳥肌が立ってきた。
::第11話 - story3::
耀獅フ立つ乗り場を1つ奥に行った場所に、4人が待機していた。
「う〜・・・」
ルミナが心配からの唸り声をあげる。
「落ち着きなさいよ、ルミナっち」
美香はやれやれといった様子でルミナをなだめる。
「でも、さっき一瞬、髪の毛が逆立ったよな」
「後ろの人むちゃくちゃ驚いてたしな」
零次と和貴が連動して言う。
「どうせ、大方痴漢に遭った時の事でも考えたんでしょ」
「あ、くしゃみした・・・」
「分かりやすい性格ね・・・」
そうは言う物の、美香も多少なり不安に思っていた。
「カワラっち一人だけだと、いざという時に分からないわよね・・・」
「もう1人付いててあげた方がいいのかな?」
同時進行で耀獅フ元に行こうとしたルミナの襟を掴んで止める美香。
「あのね、あんたが行けば余計に被害に遭うでしょうが!」
「え〜〜!?」
ルミナは本気で行きたかったようだ。
「『え〜!?』じゃないの。自ら進んで猛獣の檻の中に肉塊ぶら下げて入る奴が
何処にいるのよ?」
「ぷ〜〜」
頬をプクーっと膨らまして無言の抗議をするルミナ。
3人は頬を膨らませたルミナに少々見入っていた。
「素で可愛いよな」
「同感だ」
零次が腕を組んで頷く。
「あたしでも時々襲いたくなるのよ?」
美香の発言に一同が硬直した。
「それは変態」
「同感だ・・・」
「えっ!?ならない!?」
「意外そうに言うのはやめろ」
「なる訳ねぇだろ」
2人から非難の言葉を浴びせられる美香。
「じゃぁ、誰が行くの?」
「ん」
美香が自分を指さす。
「俺行ってきますよ」
「そうだね」
「妥当だな」
「おーい」
キレイな連携に怒ってもいい筈なのに怒れない。
「お前が痴漢になるだろ」
「さっきも言ってたし・・・」
零次とルミナに猜疑の目で見られる美香。
「あのね、あたしだって立場ぐらいわきまえるわよ」
猜疑の目が更に強まる。
「う・・・」
行き場が無くなり、たじろぐ美香。
「と、とにかく大丈夫だって。誓約書を書いても構わないもん」
「そこまで言うなら・・・」
「ルミナさんが言うなら・・・」
ルミナと零次は必死に弁解する美香に少々の哀れみを感じた。
和貴に至っては話しに付いて行けてないので、いつの間にか買った缶コーヒーを
啜っている。
「じゃぁ、美香ちゃんにお願いするね。私達も見てるから」
「了〜解」
美香はグッと親指を立てると耀獅フ元に小走りで走っていった。
「ホントに大丈夫かな・・・」
とは言ったものの、心配な顔をするルミナ。
「まぁ、耀獅ウんの事ですから大丈夫でしょう」
「そだね」
時に楽観的になる2人。
「カ〜ワラっち!」
「ん?ぬおっ!」
「何で叫ぶのよ」
「急に顔を30cmまで近づけるな!誰でも驚くわ!」
「あんまり喋らないの!周りにバレるでしょ?」
俺はバッと口に手を当てた。
「全く・・・ あ、あたしもカワラっちと一緒にいる事にするから」
「え?」
こいつも蓮也と同じく予測不能だから怖い。
「だって、いざ痴漢を捕まえた時、なんて言うつもり?」
「そういや・・・」
そこまで考えてなかったな・・・
「ね?だから、いざって時にはあたしが捕まえた事にするから」
珍しく正意見を言う奴だな。
手柄の横取りに聞こえなくも無いが。
「別に構わないけど、ルミナは?」
「ミッ君と若峰君の2人がいるから大丈夫だと」
「ああ、なるほどな」
確かに、ルミナを任せるとしては美香よりはよっぽど安心する。
美香の名誉の為に言っておけば、二人とも痴漢に遭う可能性があると言うことだ。
こうやって、美香は俺が。
ルミナは零次と和貴の2人がそれぞれを護れば問題は無い。
「結果オーライか・・・」
「何?」
「いや、何でもない」
勝手に独り言が走ったようだ。
「あ、電車来たみたいね」
ホームに電車が入ってきた。
「乗ったらすぐにいる訳?」
「ううん、後で乗ってくるの」
「あ、そ」
電車の乗降客と共に車内に入る。
「すいてるな」
所々、空席が見られる。
「まだ、時間帯じゃないのよ。その内・・・」
「段々と・・・」
「増えて・・・」
満員になった。
なんでだ。
「き、急に増えたわね・・・」
美香の反応から、いつもはこんな感じじゃないらしい。
それから電車に揺られる事1時間40分。
「時間は?」
「被害時刻過ぎた」
「ふぅ・・・」
「今日はハズレかしらね?」
「かもしれないな。あと、20分だけ乗ってそれでも出なかったら今日は諦めよう」
「ちぇっ・・・」
美香はつまらなさそうにため息を漏らした。
一方、ルミナ達も依然2人の様子を窺っている。
「・・・なかなか動かないな」
「そろそろ足が痺れてきたんだけど・・・」
「文句言わないで」
「はい・・・」
しゅんと小さくなる和貴。
何故だかルミナには皆、頭が上がらない。
『ヴヴヴヴ!!』
零次の携帯のバイブが激しく振動する。
携帯を取り出して内容を確認する。
「あ、ルミナさん」
「何?」
「もう20分して現れなかったら、今日は諦めるって耀獅ウんから」
「そうなんだ。分かった」
零次は『了解しました』と打って返信する。
5人はフッと緊張を緩めた。
「つか、痴漢が現れるまで毎日この格好?」
「そうよ」
「うあ・・・」
と、その時、俺の背後で悪寒を感じた。
更に太ももや腰などに明らかな人間の手の感触がある。
まず間違いない。
とうとう、痴漢に遭ってしまった・・・
「き、キミ・・・ かか、可愛いね・・・」
息を荒げながら痴漢が耳元で呟いてくる。
とりあえず背中越しで分かったのは、口調や声の高低から秋葉原帰りだと言うこ
とか。
「ね、ねぇ・・・ 写真撮らせてよ・・・ いや、メイド服着せたいなぁ・・・」
その瞬間、体の全血管が切れたような気がした。
『ヒュッ』
「へ?」
『ドガシャッ!』
痴漢がマヌケな声を出したと思った時には、奴は扉まで吹き飛んでいて、ぐにゃ
りと扉を歪ませていた。
周りの乗客は一体何が起こったのかとざわめき出す。
久々に渾身の一撃が出た。
そして、痙攣する可愛らしい女の子のキャラのTシャツを着た痴漢を引っ張り上げ
ると走行中の扉を力ずくで開ける。
「死んでこい!!」
俺は捨て台詞と一緒に痴漢を車外に殴り飛ばした。
痴漢は、まるでソフトボールのように飛び、ヒューンと音をたてながら視界から消
えるように落ちていった。
『ギギギギギ!!』
むりやりこじ開けた扉を再び力ずくで閉めなおす。
振り返って顔を上げると、乗っていた人は気まずそうに皆顔を背ける。
中には鼾までかきながら寝たふりをする人も・・・
「ちょ、ちょっと!!」
我に返った美香が俺の手を強引に掴んで、ルミナの元まで引っ張っていく。
「あのね・・・!」
「何?」
煮え切らない顔をする美香。
「あたしが言った事覚えてる?」
「・・・?」
何か言ったっけ?
「騒ぎになるからあたしが捕まえる事にするって言ったわよね?」
「あ〜・・・」
言った言った。
「それを何!?扉を無理やりこじ開けて外に吹き飛ばしておきながら、歪みまくり
の扉を閉め直す清楚で可憐で華奢な女子高生が何処に居るのよ!?」
3つぐらい余計な単語が含んでいた気がしたが。
「わ、悪かったよ」
頭ごなしに叱られた事がなかったのでつい謝ってしまった。
何でかは知らんが・・・
「まぁまぁ、美香ちゃん。そんなに怒らなくたって」
ルミナが美香をなだめる。
「甘い!甘いわよルミナっち。元来捕まる方が逆の立場なのに」
「放っとけ!」
せっかく忘れようとした事をほじくり返しやがって。
「二人とも声デカイって」
「迷惑この上ないな」
ギャーギャー騒ぐ俺達の周りには、ぽっかりと空きスペースができていた。
関わりたくないのか前の車両に移動していく人が見受けられる。
「とりあえず次の駅で一旦降りない?傷害罪で補導でもされちゃったら敵わない
でしょ?」
トンデモ大胆発言をするルミナ。
彼女の言う事は無意味なほど妙にリアリティーに溢れている。
お陰でいつもビクビクしながら生きていかない破目に最近なりつつある。
『次は──。お降りの際はお忘れ物のないように─』
次の駅が近づいた事を知らせるアナウンスが車内に流れる。
「しかし、偶然ね」
美香が窓の外を見ながら呟く。
「何が」
「元の駅に着いたのよ」
「環状線だったか?」
「違うハズなんだけどね・・・」
腑に落ちない様子の美香。
だとすると奇妙な話だ。
そうこうする内に電車は駅に到着する。
『お出口右側です。足元にお気をつけ下さい─』
ゾロゾロと電車の乗降が行われる。
一応、痴漢は撃退したとの一致でこの作戦は今日をもって終了するらしい。
ホームの階段に向かう時、『グヴヴヴ』と、いかにも作動しない機会音を立ててい
る1つだけ開いていない扉を見つけた。
さっきから駅員さんが必死に開けようとしているがビクともしていない。
あ・・・ 犯人俺だ・・・
助太刀にやって来て総動員で扉を開けようとする駅員さん達を尻目に俺達は駅
を後にした。
その晩─
「ふぃー・・・ 疲れた・・・」
部屋のソファーにどっかと腰を下ろす。
久々に神経がすり減った気がする。
と、まだ気になっている事を思い出す。
「蓮也・・・どうなったんだ・・・?」
こんな時にこそ、ひょっこりと出現して欲しいんだけど、まぁ無理なこ──
「よっ!」
黒髭危機一髪の人形ばりの勢いで蓮也がバルコニーの柵の外から飛び出して
きた。
「・・・・・・。」
前言撤回。
さて今から何をしてやろうか。
突き落とそうか?
幸丸の餌にでもしようか?
「とりあえず殺すのは前提なのな」
「・・・・・・。」
「言っとくが別に心読んだわけじゃ無いからな?お前、普通に声に出して言って
たんだからな?」
「・・・・・・。」
「あのな、怪訝そうな目で見るのヤメぃ。無感情で突き落とすだの餌にするだのっ
て、言われる方の身にもなってみ?結構堪えるぜ?」
ああ、そういう事な。
「それはともかく、どうもないのか?」
「ん?あぁ、実はさ・・・ 親父じゃなくて伯父さんだったんだよね、コレが」
「・・・・・・。」
「あ、イヤ・・・ その何だ?」
「訊くな」
「手っ取り早い話が相手の言い間違いだよ」
ナハハと笑う蓮也。
「・・・それで良かったのか?」
すると、蓮也の顔から笑みが消えた。
「実際、決着つけるいい機会だと思ったんだけどな・・・」
そう言いながら、遠い目で顔を横に背ける。
「・・・入れよ。コーヒーぐらい出してやるよ」
「悪い・・・」
「こんな時ぐらい無理するな」
蓮也は・・・ 相当辛い経験をしてきた筈だ・・・
たった独りで・・・
だからこそ俺が蓮也の宿り木になってやりたいと強く思う。
蓮也・・・
俺は、お前をいつか救いたい─
お前が本当に心の底から笑っている日を見たい─
それは──
贅沢な事だろうか?
なぁ?蓮也・・・
ソファーで眠る蓮也に俺はそう囁いた。
夏の夜空には雲ひとつ無く、天の川がその無数の光をただ輝かせているだけだ
った。
「・・・って、何で寝てんだよ!!」
「んあ?」
こうして、夜はさらに更けていく。
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