『ミ〜〜〜ンミンミンミンミ〜〜〜〜ン!!』



学院の至る所で、この時期の代名詞であるセミが鳴き始めた。



「あ゛〜〜・・・」



元気よく鳴くセミとはうって変わって、机に突っ伏して唸るバカが約一名。



「あのなぁ、『あ゛〜あ゛〜』言うなよ。こっちまで暑くなるだろ」



かく言う俺も、大分バテがきている。


下敷きで扇ぎながら活発化する太陽を少し恨めしく思った。




::第12話 - story1::




「それにしても、元の教室に戻れて良かったね」



ルミナの言うとおり、ようやく修理が完了した1−Cの教室に昨日、多目的教室から戻

ってきたのだ。



「そーそー。誰かさんのせいでね〜」


「言われてるぞ、蓮也」


「何で俺だよ?」



面倒なものは蓮也に流す。



「あ〜、あっついあっつい・・・ 上を脱ぎたい位だわ・・・」



夏服に手をかけ、脱ぎだそうとする美香。



「ついでに交番行くか?即、猥褻物陳列罪で捕まえて貰えるぞ?」



制止と皮肉を込めて、俺は美香に言った。



「あたしが何を陳列したのよ」


「まぁ、おまえ自身が猥褻物なのは当たってるけどな」



蓮也が苦笑しながら核を突いた。


アホ・・・



「ほっほーぅ・・・ あたしに楯突くとはいい度胸ね、レン・・・」


「あ゛・・・」



蓮也が身の危険を察知した時にはもう遅かった。



『スコーン!』



「いっっっっっってーーーーーーーーー!!!!!」



美香によって、容赦なく縦に振り下ろされた下敷きが蓮也の脳天を直撃していた。


相変わらず騒がしいが、やはりこいつらといると和むなぁと最近深く思うようになってき

た。



その頃、不気味なオーラを纏いながら、1−Cに近づいてくる3つの影があった。



「奏、麻美。行きますわよ」


「はい」


「はい・・・」



その内の一人はあの夜叉小路 麻美である。



「あの・・・ 会長・・・」


「何かしら?麻美」


「私・・・ あまり気が乗りませんの・・・」



ハの字に下がった眉が更に下がる。



「ここまで来て何を言っているの!今日こそ言っておくべきなのよ!」


「はい・・・」



そんな麻美を見兼ねたのか、隣に並んで歩いていた1人の女子生徒が、麻美に耳打

ちをした。



「麻美、安心しなさい」


「奏さん・・・」


「私がなんとかするから。ね?」


「は、はい・・・」



『奏』と呼ばれた女生徒は前に向きかえると、口の端をニヤリと吊り上げた。


その顔はまるで悪戯を思いついた子悪魔のようだった。



─再び教室。



「あ、そうそう。例の痴漢事件(第11話・#3)の時の事、新聞に載ってたわよ」



美香が鞄の中から新聞を取り出した。


『整備ミス? 開かない扉』と、一面に大きく書かれていた。



「うわ、一面じゃん」



机の上に置かれた新聞に俺達は食い入るように見入る。



「どれどれ。『一昨日の午後6時半頃、東京行き下り電車7両編成の電車の5両目の

前方扉が、駅に到着しても開かないと言うトラブルが起こった。「1つ前の駅では開い

たのに」と車掌は語る。調べてみると、内側には何かがぶつかった痕が残っており、む

りやり何者かによって開閉させられたと見られる事が分かった。その時間帯は帰宅ラッ

シュで、ほぼ満員電車に近い状態であったにも関わらず、目撃証言は出ていない。』 

へ〜・・・」



記事を読み終えた蓮也が溜息の混じった声を出した。



「全部、アンタの事よ?カワラっち」


「知らね」


「うわっ、責任逃避!?」



蓮也が更に俺を突付く。



「でも、乗ってた人、何にも言わなかったんだね」



ルミナが不思議そうに口添えした。


確かに、あの出来事を目の当たりにして『忘れていた』だなんてあり得ないだろう。


だとすれば、黙秘して置きたい事だったのだろうか・・・?


まぁいい、正体が割れなかっただけでも命拾いしたってモンだろう。



『ガラガラ』



零次と焔が揃って教室に入ってきた。



「あ、零次君、脩子ちゃん。オハヨ」


「おはようございますルミナさん、耀獅ウん」


「あぁ、おはよう」


『ペコリ』



相変わらず貴女は無口なのな・・・ 



「あんた達、最近一緒に居ること多いわね」


「お前が車と一緒にいるのと同じだが?」


「うっ・・・」



図星を言い当てられ、美香が怯む。



「それはいいとして、零次。例の件、どうなった?」


「あぁ、耀獅ウんの言う通り、OKでしたよ」


「そうか、なら良かった」


「何の話?」



ルミナが首を傾けて俺と零次の間に入ってきた。



「零次の国際護身空手の師範代許可の話」


「???」



眉を寄せて怪訝そうな表情をするルミナ。



「えっとな、師範代になるには18歳以上が条件で、18歳以下の場合は親の承諾が要

るんだけど、色々あって零次の所はそれが出来ないんだよ」


「へぇ〜」


「それで、俺の方から師範に頼み込んで俺と俺の師範の推薦状で師範代になれるよう

に手続きしたんだけど、本人確認と手続きがいるから、昨日、本部に承認させに行かせ

たって話」


「じゃぁ、零次君も師範代になれるって事?」


「そう」


「よかったね。おめでとう、零次君」


「いえ、まだそうと決まった訳じゃ・・・」



零次が苦笑する。



「許可を取りに行っただけで、まだなれた訳じゃないんだよ」


「そうなんだ。じゃぁ、今度お稽古見に行っていい?」


「あぁ、構わないよ」



ついでに、家も紹介しときたいしな。


って、よく考えたらまだルミナに家教えてないな・・・


あ、そうか。


百合華がいるからか・・・



「あ、脩子ちゃんも一緒に行かない?」


「えっ!?」



それに零次が反応した。



「なんでお前が驚くんだよ」


「あっ、いや・・・」



蓮也に言われて苦い顔をする零次。



「ね、脩子ちゃんどうする?」


「あの・・・ その・・・」



焔がチラチラと零次の顔を窺いながら返答に迷っている。


両者とも、薄っすらだが顔が赤い。



「じゃ、じゃぁ・・・ 行きます・・・」



俯きながらそう答える焔。


零次も苦笑いで顎を掻いている。


分かり易い性格なこった。



『ザワザワ』



「脩子ちゃんもうぶねー」



余計な事を言うな。



『ザワザワザワ』



「なぁ、何か騒いでね?」



確かに、先程からこのクラスの前で騒ぐ声が鬱陶しい。


と、前の扉からヨネが入ってきた。



「あ、由子ー!」



美香が間髪いれずに呼び止める。



「何騒いでるのー!?」



「今ねー、生徒会長さんが来てるのー」



生徒会長・・・?



「珍しいね、このフロアに居るなんて」


「そうそう、いつも生徒会長室に座ってるって話よね」



ルミナと美香が顔を見合わせながら話す。



「後ね、書記の人と副会長さんも来てるよー」



おいおい・・・ 


嫌な予感するぞ・・・?



「あ、用件言うの忘れてた。甓尖君と車岳君と魅堂君に話があるんだって」



・・・・・・。


ますます嫌な予感が・・・ 



『ガラガラッ!』



後の扉が勢いよく開く。


いや、開けられた。


このパターンは・・・



「いざ、尋常に!」



日本語の使い方にいささか疑問が残ったが、二度目は会長直々か・・・ 



「蓮也、零次・・・」


「んん?」


「何でしょう」



関わりたくない感が声となって表れている。



「嫌だろうが、ここをしのがないと後がだるいぞ」


「だろうな・・・」


「はぁ・・・」



俺達は重い腰を上げ、扉の方へと足を引きずるようにして歩み寄った。



「なんでしょうか・・・」



『ズッ』



「?」



なんで後ずさりされるんだ?



「あの・・・?」



『ズズズ』



「???」



俺が一歩近づけば、会長は顔を引きつらせながら三歩下がる。


全く持って訳が分からん。



「会長、私が・・・」


「頼みます、奏・・・」



会長と入れ違うかのように、後ろから長身の人が出てきた。


美香より高い・・・?


その人はコホンと咳払いをしてから、俺の目を見据えて喋りだした。



「お初にお目にかかります。私、生徒会書記の流頴娃 奏(るえい かなで)と申します。

そして、こちらの方が会長、勾野 明美。どうぞ、お見知りおきを」


「はぁ・・・」



と、視界の隅で小さくすぼんでいる夜叉小路先輩を見つけた。


別に気にはならないが。



「それで、今日は朝から何の用でしょうか?」


「はい、それは会長の方からお話しさせていただきます」


「!!?」



後方で信じられない顔で驚いてるんですが・・・



「な、な、な・・・!奏!?」


「会長、先程の意気込みはどこにいかれましたか?」



流頴娃さんは勾野さんの反応を愉しむかのようにほくそ笑む。



「クッ・・・」


「・・・・・・。」



あの〜・・・ 


俺はどうすれば・・・?



周りの野次馬も、事の成り行きを固唾を呑んで見ている。



勾野さんは諦めたのか、俺の前に立った。



「わ、わ、わ、わ・・・!」



わ?



「き、きききき・・・!!」



き?



「きょきょきょ・・・!!!」



頼むから落ち着いて欲しい。



「きょ、今日は生徒会長として挨拶に来ただけです・・・」



途中からモゴモゴしながら喋るから全く聞き取れない。



「プッ・・・」



後ろで流頴娃さんがふき出して笑っていた。



「甓尖耀氏A車岳蓮也、魅堂零次の御三方・・・ ま、又御会いしましょう・・・ 帰ります」



勾野さんは180度回転してスタスタと早足で去って行った。



「それでは私達も失礼します。ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」



いや、本当に。



「それからこれを・・・」


「?」



流頴娃さんは小声で小さな紙を俺に手渡す。



「誰にも見せないで下さい」



尚も、そう小さく言いながら夜叉小路先輩を引き連れて勾野さんの後を追いかけてい

った。


つか結局、夜叉小路先輩は何にもしなかったな。



「一体、何なのよ・・・」



美香が呆れた顔で言う。



「とりあえず、皆の気分を落としたのは間違いないな・・・」



蓮也も流れが掴めずのようだった。



「戻ろ・・・」



俺のその一言で、C組の前にたかっていた野次馬は、一斉に散らばっていった。