─放課後。


俺は中庭のベンチに座っていた。


何故かって?

朝、流頴娃さんから渡された紙にそう書いてあったからだ。


文句あるか?


って、誰に言ってんだ俺は・・・ 




::第12話 - story2::




「お待たせしました」


「ん?」



今、確かに流頴娃さんの声が・・・



「ここです」


「え?」



俺は辺りを入念に見渡した。


しかし、人影すら見当たらない。



「45度下、150度右です」



言われた通りに目をやると─



「うわっ!!」



ベンチの背もたれに顔1つ分開いた穴から流頴娃さんが顔を覗かせていた。


何してんだ、あんた・・・ 



「待たれましたでしょうか」


「い、いえ・・・」



流頴娃さんは穴から顔を出して、そのままベンチに座った。



「何せ、会長を撒かねばなりませんので・・・ どうぞ、お座り下さい」


「あ、どうも・・・」



勧められるがまま、俺は流頴娃さんの隣に座った。



「まず、何から話せば良いのか分からないのですが、会長は単なる男性恐怖症なの

で、今朝の事は気にしないで下さい」



またさらりとヘビーな話を・・・ 



「更に運の悪い事に、これから先、会長はあなたに執拗な攻撃を仕掛けて来るでしょう」



またさらりとアグレッシブな話を・・・

って何でだよ!



「ですが、ご心配なされる事はありません。そのような事が起きないように私がサポー

トさせて頂きますので」


「はぁ・・・」


「では、私もこれ以上は会長を騙せませんので・・・」


「あ、はい・・・」



流頴娃さんは失礼と言い残して立ち去っていった。



「・・・・・・。」



俺はやり切れない思いで、頭を掻きながらその場を後にした。


その後、本屋に小説と参考書を買いに行ってから帰宅した。



「お帰りなさいませ、耀似l」


「お帰りなさいませ」


「ただいま。ん?」



と、親父の靴の他に、見慣れない革靴が一足並んでいた。



「誰か来てるの?」



気になったので古軒さんに訊ねた。



「はい、夜叉小路コーポレーションの社長、夜叉小路智光(ともみつ)様がお見えになっ

ております」



夜叉小路・・・

夜叉小路?



「どうかなされましたか?」



硬直している俺に古軒さんが声をかけた。



「あっ、いや。別に・・・」


「それと、旦那様より帰宅なされましたら部屋に呼ぶようにと申されております」


「俺が?」


「はい」


「分かった。すぐ行く」


「畏まりました。お荷物は部屋まで運んでおきましょう」


「あぁ、よろしく」



俺は荷物を鴨川さんに預けて、そのまま応接間に向かった。


部屋の前まで来ると、中から時折、笑い声も聞こえてくる。


俺は2・3回扉を叩いて中に入った。



「失礼」


「おお、耀氏B待っておったぞ。夜叉小路さん、わしの息子の耀獅ナす」


「初めまして。夜叉小路智光と申します」



夜叉小路さんの声が顔とマッチして、独特の渋さをかもし出している。


何て言うの?

ダンディーって言うか、いぶし銀って言うか・・・


親父とは比べるべくもない。



「初めまして」



俺は軽く頭を下げた。



「ふふふ・・・ 学院では娘の麻美がお世話になっているみたいだね」



やっぱり、あの人の父親か・・・



「何だ、面識があったのか」


「あぁ・・・」


「全く、我が娘ながら手を焼いていましてね。話を聞く限り、甓尖君にはさぞかし迷惑が

かかっているのだろうね」


「いや、全くです」



俺は遠慮なしに言った。



「はっはっは!素直で良い。甓尖さんはよい息子さんをお持ちのようで・・・」


「いや、わしも鼻が高い」



親父、あんたが威張ってどうすんだよ。



「それでは、私はそろそろお暇させて頂こう。甓尖君、麻美が卒業するまでは迷惑をか

けると思うけど、よろしく頼むよ」



俺は、何も言わずにただ頭を下げた。


親父は夜叉小路さんを見送るため、一緒に応接間から出て行った。



「・・・・・・。」



父親は賢人か・・・ 


小さなため息をついて、俺は自室に戻った。



翌日─ 



「おはようございます甓尖君」


「おはようございます」


「ごきげんよう、甓尖君」


「おはようございます」



覚悟していた勾野さんの朝の襲来は無く、ほっと胸を撫で下ろしていた。



『ドンッ』



「うわっ!」


「きゃあっ!」



ほっとしてたのがマズかった。


曲がり角で誰かとぶつかってしまっていた。


二人とも尻餅をついてしまっている。



「イテテ・・・ すみません」


「い、いえ。私こそ急いでて・・・」



ぶつかった際に落とした書類を、急いで拾いながら彼女は謝った。


いや、つかこっちも悪いんだけど。


そんな罪悪感が芽生え、俺も廊下に散らばる書類を拾う。



「どうぞ」


「あ、すみません。手伝って貰っちゃって・・・」


「いえ、いいんです。俺の方こそ前方不注意で・・・」


「あれ?甓尖君ですか?」


「え?ええ?あ、はい」



そんな聞かれ方は初めてだったから聞き返してしまった。



「話は麻美さんや明美さんに聞いてますよ」



え?って事は・・・?



「あ、初めまして。私、汰城沢 神子(たきざわ みこ)って言います。生徒会、総務担

当です」



あ、やっぱりねー。

そうだと思ったよー。



「ど、どうも・・・」



言葉とは裏腹に俺の表情はひどく濁っていた。



「明美さんがお手数かけますけど、よろしくお願いしますね」



彼女はニッコリと笑いながら言った。でも、置き換えると俺に勾野さんの面倒を見ろと

言われた気がしてならない。


この人も苦労してたのだろうか・・・



「じゃぁ、事務室まで用があるのでこれで失礼します」


「あ、はい・・・」



汰城沢さんは、そう言い残して小走りで走っていった。


なんだかなぁ・・・ 


最近振り回されっぱなしだなと思いつつ、俺は教室に向かった。



「おはよ、ヨウライ・・・君・・・?」



教室に入った俺にルミナが声を掛けた。


けど、尻すぼみみたいになったのは何故だ?



「顔・・・曇ってるよ?」


「えっ?」


「何かあったの?」


「いや、何でもない。最近、疲れてるんだろうと思う・・・」



なんて言い訳だ・・・



「大丈夫?」


「ああ」


「あ、それと・・・」



急に言いにくそうな顔になった。



「どうかした?」


「あのね・・・」



ますます言いにくそうな顔になるルミナ。



「この間、お母さんにメイクしてもらったでしょ?(第11話・#1)」


「あ、あぁ。そんな事もあったっけな・・・」



思い出したくもない。



「それでね、お母さんメイクしたヨウライ君にぴったりの服をデザインしたみたいで・・・」


「へぇ・・・」


「モデルをやって欲しいって・・・」


「断る!断固断る!」



いくらルミナだろうと幸田さんだろうと小池さんだろうと、それだけは完全拒否させていた

だく。



・・・・・・。


小池さん・・・?

誰だよ小池さんって。


・・・・・・。



???


ダメだ、頭が混乱してきた。



「断られるのは分かってるんだけど、どうしてもヨウライ君じゃなきゃダメなんだって」



上目遣いで人差し指をチョンチョンとくっつけながら言うのはやめてくれ。


意志が揺れるだろ。



「考えとくよ・・・」



ルミナの顔がニパァッと明るくなった。



「うん」



・・・自己嫌悪。



「お母さん、珍しくヤル気まんまんなんだって」


「あぁ、そぅ・・・」



いいよね、貴女は。

気楽で・・・ 



「朝から何シケた顔してんだよっ」



追い討ちをかけるかのようにテンションMAXの蓮也が俺の背中に飛びついてきた。



「悪いが、今はお前に構ってやれる程の元気は無い・・・」


「なっ!どうしたんだよ耀氏Iいつものお前なら最低、『えーいっ!朝から鬱陶しい!』

ぐらいは言ってくれる筈だ!」


「お前、俺を何だと思ってる・・・」


「でも、それは当たってるわよね」



と、美香がやって来た。



「あ、美香ちゃんおはよ」


「どうしたのルミナっち。何かいい事でもあったの?」



人一倍嬉しそうな顔をしているルミナを見たのは久々なのだろうか、珍しげに美香が訊

ねた。



「ううん、何でもないよ」



ウソつけ。


顔、緩みっぱなしじゃねぇか。



「ふーん・・・ まぁ、いいわ。それより、この学院に飼育小屋があるって知ってる?」


「飼育小屋?」



飼育小屋って、ウサギとかインコとかか?



「そう、小さな小屋なんだけどね。今日、行ってみない?」


「いくいく、ウサギとかいるのかな〜?」



ルミナが目を輝かせる。



「俺パス。小動物とか苦手なんだよね」



ルミナとは対照的に、蓮也が手を横に振って話を流そうとする。



「あれ?そうだっけ?」



長い付き合いだが、初耳だ。



「大型は好きなのか?」


「無理無理。特にトラとか一生無理!」


「何だ、まだあの事(番外編)がトラウマになってるのか?」



幸丸は大きな猫みたいなモンだろう。



「レンがトラと何か関係あるの?」


「耀氏Aトラ飼ってんだよ」


「「ええっ!?」」



おいおい・・・ 



「危険物所持法違反?」


「何でだよ」



動物の何処が危険物なんだよ。



「私、見てみたいな〜」


「やめときなさいって。喰われるわよ?本気で」


「おい、野生と一緒にするな」


「そうそう、耀獅ェ手塩にかけて育てた自慢の息子みたいなものだもんな」



その通り。



「やっぱりカワラっちって、何か変」


「余計なお世話だ」


「お前ら、仲が良いのか悪いのかハッキリしろよな」



見かねた蓮也が呆れ顔で横槍をさした。



「『けんかする程仲がいい』って言うけど、仲良くなりすぎたら美香ちゃんでも許さない

からね?」



ルミナが笑顔で美香にそう言った。

その冗談にならない笑顔は、俺達を凍りつかせた。



『リ〜ンゴロ〜ン リ〜ンゴロ〜ン』



始業を告げる鐘が無常に鳴り響いていた。