─昼休み。



「確か・・・ 丘の麓にあるって聞いたんだけど・・・」



昼食をとった後、俺達は例の飼育小屋に向かっていた。


蓮也は言っていた通り付いては来ず、零次も興味がないという事で2人揃って教室で

待っている。



「あ、あったあった。あれよあれ」



美香が指をさした所に、赤い半円の屋根の消しゴムみたいな形の建物があった。




::第12話 - story3::




が、ウサギや小鳥の前に、飼育小屋の前でうずくまっている女子生徒が先に目に飛び

込んできた。


とりあえず、飼育小屋の前まで近付いてみる。

何をしているのだろうかと覗いてみると、彼女は胸に1羽の子ウサギを抱きながら俯い

ていた。



「あの〜、どうしたんですか?」



ルミナが彼女に訊ねる。


バッと上がった彼女の顔は、何故か今にも泣き出しそうな表情だった。



「ど、どうしたんですか?」



いきなり泣きべそをかかれるとは思わなかったルミナの声が、少々焦ったようになった。



「この子・・・ 足・・・ ケガで・・・ 早く・・・」



うえっ、うえっと嗚咽づく。


俺達は困り果てて、お手上げ状態だった。



「瑞穂ちゃ〜ん!」



と、校舎から救急箱を抱えた人がこっちに走ってきた。



「とってきたよ、動物用の救急箱」



彼女が救急箱を差し出すと、今まで泣き顔だった彼女の表情が明るくなった。



「さ、見せて。何処が怪我してるの?」



なるほど、会話の様子からするとこの子ウサギが怪我しているのをこの人が見つけて、

彼女が救急箱を取りに行っている間に俺達がやって来たという所か。


そんな間に、こっちでは処置が行われている。


抱えられていた子ウサギはそっと地面におろされる。


どうやら、腿肉を怪我したらしい。


雪の様に白い毛が鮮血に染まっている。



「うっ・・・」


「「「え?」」」



『ドテーン!』



救急箱を持ってきた人が目眩を起こして倒れてしまった。



「「「え!?ええ!!?」」」



この状況は一体どうなっているんだ!?



「あ、酉乃ちゃん!」



彼女が何度呼びかけても、倒れた彼女は起きなかった。


目をグルグル回していることから、まぁ、無理な話だろう。



「ど、どうしよう・・・ う、うえっ、うええ・・・」



やっと子ウサギを治療して貰えるのかと思っていたのだろうか。


彼女が、再び泣き始める。


あぁ、もう見ていられん。

美香とルミナは揃いに揃って慌ててるし・・・


こうなったら出来る者がしないと終わらない。



「すいません、この子を押さえておいて貰えますか?」


「ふえ?」



涙を拭きながら俺を見る。



「今から、この子の傷を消毒しますから。暴れるかもしれないので押さえておいて下さ

い」


「は、はい・・・」



俺は救急箱の中から消毒液と止血剤、塗り薬と包帯を取り出した。


幸丸の世話もあったので、こういうのには慣れていた。



「後は包帯を巻いて・・・ これでよしっと」



これで何とか大丈夫だろう。



「あ、ありがとうございます」


「いえいえ」


「う、う〜〜ん・・・」



目眩を起こして倒れてた人が気がついたようだ。



「あ、また倒れちゃった?」


「うん」



“また?”


またって事は今回が初めてじゃないのか・・・ 



「ごめんなさいね、迷惑かけちゃって・・・」



そう思うなら何とかしろよ。



「私、古谷 酉乃(ふるたに とりの)。彼女は兎三田 瑞穂(とみた みずほ)。生徒会で

保健と飼育をそれぞれ担当してるの」



あ、あなた達もですか・・・



「でも、血を見ただけで目眩を起こしてたら、大変じゃないですか?保健部なのに・・・」



ルミナが不思議そうに問いかけた。



「そうなのよね。私もそれは思ってるんだけどね・・・」



古谷さんは自分でも困った仕草を見せる。


今朝出会った汰城沢さんとはえらい違いだな・・・ 


俺達の会話を余所に、兎三田さんは一人楽しそうにウサギを眺めていた。


人よりウサギのクチらしい。


おっと、本来ここに来た目的を忘れていたが・・・ 


まぁ、いいだろう。





「・・・─ねぇ、夕菜。あの子どう思う?」


「どう思うって?」



そこに、2階の窓から耀獅スちを窺っている2人組みの姿があった。



「ホラ、何か体から異常なオーラとか出てない?」


「待って・・・」



『夕菜』と呼ばれた竹刀を片手にしている女子生徒は目の神経を集中させて、耀獅

凝視する。



「あぁ、とんでもないほどの集中力ね・・・」



特に感情もこもらない表情で言葉を返す。



「あそ。ありがと」


「あの子に何か用でもある訳?緑虎」


「ううん。久々に面白い遊び相手になるかと思って」



『緑虎』と呼び返された背の高い女子生徒は、踵を返し両手を頭の後で組みながら歩

き出した。



「あんた、何考えてるの?」


「ちょっとね・・・ 後でついて来てくれる?面白い事するけど」


「いいよ」



そんな会話をしながら、2人は不敵な笑みを浮かばせて長い廊下を歩いていった。



『リ〜ンゴロ〜ン リ〜ンゴロ〜ン』



「や〜〜・・・ 終わった終わった・・・」



蓮也が首の骨を鳴らしながら背伸びをする。


7限目まである木曜日の授業が終わり、ジュースを飲みに、皆で1階の掲示板前にあ

る自販機まで行く最中だ。


非常に神経を削られるので稽古よりも疲れる。



「ハァ・・・ コレで明日もまだあるってんだからたまったもんじゃないわよね〜」


「全くだ」




刹那──



“殺気─!”



俺は無意識で咄嗟に両腕を頭上に構えた。



『ゴッ!』



骨の髄まで響くような衝撃が両腕を襲う。


何とか持ちこたえ、顔を起こして見てみると、クロスさせた腕の中に足があった。


あ、足?



「ふーん、いい反応してるんだね」



その足の持ち主だろうか、そんな声が聞こえた。



「完璧な辻斬りだったのに、よく受け止めれたね」



平然と言うその人は、腕組みをしながら片足を俺の頭上まで上げていた。



「見た所、3院生の先輩かと思いますが・・・ 16年間生きてきて、いきなり踵落としで挨

拶とは初めてですよ・・・」


「君も凄いね。今だって一般人じゃ耐え切れないぐらい圧力かけてるのに」



いや、むしろ今も全力で押し返そうとしているのだが、逆にこっちが気圧されているぐら

いだ。


その人は諦めたのか、すっと足を下ろした。


それに伴って、ようやく俺も解放された。


その光景に、周りの人達は唖然としていた。


俺は彼女を目の当たりにして更に驚いた。

この人も大きかった。


流頴娃さんと同じ・・・ 

いや、それよりも少し高い・・・



「フフフ、気に入った」


「は?」


「君の事気に入った。く〜!これで当分は楽しめるわよ〜!!」



クックックと一人笑う。



「何を一人で笑ってるのよ。気持ちの悪い」



と、彼女の後ろから竹刀を片手にした人がやって来た。


しかし、気にする素振りも見せず、その人は笑い続けていた。



「緑虎、あんた名乗りもしない内からそんな事言ってると、イタイ目見るわよ」



竹刀の人は横目で辻斬りの人を睨むと、一瞬、辻斬りの人の体がビクッと跳ねた。


それは直接睨まれた訳でもないのに、俺にも伝わってきた。


この人、相当の眼力の持ち主だ・・・



「分かったわよ・・・ それはいいとして、その眼で睨むのやめてって言わなかったっけ?」


「時と場合によるでしょ。それに、武闘家の端くれともあろう人間が己の欲望に丸め込ま

れるとは堕ちたものね・・・」



武闘家・・・?



「え〜と、それじゃ自己紹介するね。私は実真 緑虎(さねまさ えんこ)。んで、この子

は巳島 夕菜(みしま ゆうな)。これでもいちおー生徒会で風紀部長と監察部長してん

の。ヨロシクね」



・・・・・・。


もしかしてアレか?

一気に未登場キャラを出してしまおうって魂胆か?


って、自分でも何言ってるのか分からないんだけど・・・ 



「うちの実家が道場をやっててね。強い人間は見ただけで分かるのよ。なんかオーラ的

なものが出てるのよね」



聞いてもいないのに余計な事まで喋りだした。



・・・・・・。


あ〜・・・ 

あの人に似てるよな・・・ 


実真さんは、大食堂のオバちゃんを彷彿とさせた。



「あ、ちなみにそこのパツ金の君も相当大したものよ。甓尖君とは別にお手合わせ願

いたいなぁ」



遊び道具を見つけたかのような実真さんの厭らしい顔に、零次が怯む。



「ウフフフ・・・ ぐえっ!!」



急に奇声を発したかと思ったら、首根っこを巳島さんにホールドされていた。



「とまぁ、そういう事だから。急にお邪魔して悪かったね。あたい達はこれで失礼するよ」



腕の中で、もがき苦しむ実真さんを完全無視し、淡々と話す巳島さん。



「ちょ!夕菜!マジで苦しいんだから!」



抗議の声をも無視して、巳島さんは実真さんの首をがっちりとホールドしたまま引きず

るようにして俺達の前から去っていった。



「「「・・・・・・。」」」



どうしようもない沈黙が俺達を包む。



「今後一切、関わりたくないよな・・・」



ポツリと呟いた零次の言葉に、皆同じように首を縦に振るのだった。