─昼休み。



「ん?ルミナ、どこ行くんだ?」


「図書室だよ。脩子ちゃんを迎えに」


「あぁ、じゃぁ俺らも行くか。暇だしな」


「最後の言葉は余計だぞ蓮也」



そんな訳でぞろぞろと図書室に向かう一行。


すると、前方からカートに乗せられ、6段に積み上げられた段ボールがやってきた。


しかも結構なスピードだぞ?


俺たちは左右に避け、道をあける。



「だ、誰か!と、止めて欲しいのだ〜〜!!」



カートが猛スピードで俺達の横を通り過ぎた瞬間、その声も一緒に聞こえてきた。


まさかと思い、俺達がすぐさま後ろに振り返ると、体を浮かした状態でカートの手す

りにしがみ付いている人を見つけた。


って、どんな状況!?




::第12話 - story5::




「なぁ、あのままだといつか必ず転倒するよな?」



顎に手を添えて今後の展開を予想する蓮也。



「冷静に判断してる場合か!助けに行くぞ!」



俺たちは慌ててカートの後を追う。



「ク、クソッ!追いつけない!」



必死にカートの後を追うが、カートの勢いは止まらない。



「耀獅ウん!」


「何だ!?」


「20m前方に障害物が!」


「何っ!!?」



俺の方からはハッキリとは見えなかったが廊下の幅の半分を何か細長いものが占

領していた。



「マズイ!このまま行くと──」



『ガッシャ〜〜ン!!』



手遅れだった。


案の定、カートは例の細長い障害物に接触し、ダンボールとしがみ付いていた人ご

と横転した。



「あっちゃっちゃ〜〜!」



並走していた蓮也が目に手を当てて嘆くフリをする。



「ふざけんのもいい加減にしろよ、車」


「わぁーってるよ」



零次に叱咤され、不貞腐れながら前に向き直す。


事故現場に到着すると、まぁ派手に散らかっていた。


ダンボールの中身はどうやら栽培用の肥料だったらしく、全てぶちまけていた。


ちなみに、例のしがみ付いてた人はというと・・・ 


ダンボールの下敷きになっていた。



「大丈夫ですか?」



蓮也が恐る恐るその人を引っ張り出す。



「こ、怖かったのだ〜〜・・・」


「え?」


「あれ?」


「ふえ?」



立った彼女の身長は、俺の胸辺りまでしかなかった。


・・・・・・。


小さい・・・ 


あれ?でも3院生の校章付けてる・・・



「お譲ちゃん、ダメじゃない。勝手にこの学院に入ってきちゃ」


「ふえ?」



何を言われているか理解していない彼女は、首をかしげて蓮也の顔をまじまじと眺

める。



「しかも制服まで着て・・・ お名前は?」



蓮也の口ぶりから内容を理解したのか、彼女は突如怒り出した。



「違うのだ!ボクはこの学院の生徒なのだ!」



彼女の必死の叫びを、蓮也は全く信用しようとはしない。



「はいはい、お姉ちゃんが3院生にいるのかな?とりあえずお名前は何て言うの?」


「キミはボクをからかってるのかなのだ!」



彼女はあくまでも自分がこの学院の3院生であると言い張る。


正直、俺も半信半疑の状態だ。



「ねぇ、ヨウライ君・・・」


「ん?」



すると、ルミナが耳打ちをしてきた。



「その人、確か生徒会植栽部長の亥垣 珊瑚(いがき さんご)先輩だよ」


「うそっ!?」



どう見ても小学生じゃねぇか・・・



「米ちゃんが植栽部だから聞いた事があるんだけど、みんなが最初に見た時には

必ずっていうほど『誰かの妹?』って訊くんだって」


「へ〜・・・」



まぁ、無理もないと言えば無理もないが・・・ 


つか、よくよく考えれば、蓮也とんでもない事口走ってる気が・・・



「あんまり人を困らすんじゃないよ?パパかママは一緒に来てるのかな?」


「お、おい蓮也・・・」


「何?」



あたかも悪い事をしていない、いや、むしろ良い事をしているものと思い込んでいる

蓮也の顔を見ると俺は言いにくくなってしまった。



「その人な・・・ 本当に3院生の先輩なんだけどさ・・・」


「うそぉっっ!!?」



蓮也がゆっくりと振り返ったと同時に、蓮也の頭を栽培用肥料(30kg)が襲った。



「最低なのだー!侮辱なのだー!!屈辱なのだー!!!」



亥垣先輩はそう叫びながら何度も蓮也の頭を肥料(30kg)で殴り続けた。



「ちょ!ちょっと先輩!?それ以上殴ると本気で死にますって!!」


「ふえ?」



ようやく彼女の手が止まった。



「れ、レン!?大丈夫!?」



美香が必死に呼びかけるが返事が無い。


ただの屍のようだ── 






って、いやいやいや。


死んでない死んでない。



「う・・・ ぐ・・・」



蓮也がかすかに動く。



「あ、ヤベ・・・ 首が上がんねえや・・・」



むち打ちになったらしい。



「しかし、どうするんです?この後片付け」



目を後ろにやると、今の今まですっかりと忘れていた無残にぶちまけられた肥料が

残されていた。



『ピピピーーッッ!!』



すると、突然耳をつんざく程のホイッスルの音が廊下に響き渡る。


何事かと思って振り返ると、笛を口に咥えて体をわなわなと震わせながら仁王立ち

してる人がいた。



「あー!沙希ちゃんなのだー!」


「珊瑚!また肥料をこぼしたのね!?」



あ、なんか凄い怒ってる。



「ボクじゃないのだ」


「あなた以外で肥料をばら撒く人なんていないでしょ」



彼女は少し呆れた顔で亥垣先輩を尚も叱り付ける。


てか、この人誰だろ・・・



「とりあえず、ゴメンなのだ」


「も〜。兎に角早く片付けてね?美化部長としてこれは見逃せないから」



・・・・・・。


あぁ、そゆこと・・・ 


いっその事、全員まとめて出てきてもらった方がこっちとしてもありがたい。



「私も手伝うから。一緒に片付けましょ」


「はいなのだ」


「あ、私たちも手伝います。ね?美香ちゃん」


「え!?あ、まぁしょうがないか・・・」



美香が不本意そうに片づけを手伝う。



「あ、でもさっき辰美を見かけたけどね」


「辰美ちゃんがなのだ?」


「ニヤニヤしながら走っていったけど。気持ちの悪い」



うわ、ものすごい事言ってるよ。


終始二人のやりとりを聞いていた俺は、ふとある事を思い出した。


数分前のセリフである。



『耀獅ウん!20m前方に障害物が!』


『何っ!!?』



カートが横転した直接の原因である細長い障害物の存在だった。



「零次、お前が言っていた障害物ってどれだ?」


「え?あぁ、確か・・・ あ、これですね」



零次が拾い上げたのは一本の竹刀だった。



「あれ?この竹刀は・・・」



鍔の根元に書いてある名前に目が止まった。



『巳島』



「──っっっ!!!」



一瞬、俺の中で時が止まった。


巳島先輩の象徴とも言える竹刀が何故ここにあるのか。


いや、それ以上にこの竹刀がカートに轢かれた事実を巳島先輩が知ったらと想像

するだけでも身の毛のよだつ・・・ 


どうやら、最悪のパターンに向けて事が動くらしい。



「何であたしまで一緒に探さなきゃならないのよ〜」


「つべこべ言わずに手伝いな!」



・・・動き出した。


向かいの校舎で実真さんを引き連れた巳島先輩を見つけた。


しかも相当ピリピリしている様子だ。



「何で常にあんたの右手に装備されてる竹刀が消えるわけ?」


「図書室で辰美と話してたらうたた寝しちゃってね・・・」


「そりゃ、あんたが悪いんじゃないの?」



おいおい・・・ 

犯人特定じゃねえのか?



「ん?あーー!!」



げっ!見つかった!!


俺はすぐさま身を隠したが完璧に見つけられ、二人は俺の元に駆けつけてきた。



「いい所にいたわ!ちょっとあたしの代わりに夕菜と一緒に竹刀捜してあげて」


「何で俺に押し付けるんですか」



この人の俺に対する扱いが非常に悪い。



「その必要ないですよ」


「え?」


「これでしょ?巳島先輩の竹刀って」



俺は竹刀を差し出した。


「ど、どこにあったの!?」


「あ、ここに落ちてました・・・」



カートの下敷きになったとは口が裂けても言えず・・・



「まぁ、なんにせよ良かったじゃない夕菜」



あんたはただ単に手伝いたくないだけだろ。



「ほんと・・・ 良かった・・・」



巳島先輩が脱力感に包まれたような顔で安堵のため息をつく。


でも、こんな表情見るの初めてだな・・・ 


なんか新鮮。

と、一人心の中でほくそ笑む。



「あらら〜、今気付いたけどまたやっちゃったの?珊瑚」


「ぼくのせいじゃないのだ〜」



実真さんが散らばった肥料を見て鼻で笑いながら言う。


つーか、気付くの遅いな。



「何かに乗り上げて、そのせいで倒れちゃったのだ。あれ・・・?あーー!それなの

だーー!!」


「い゛ぃっっ!!?」



亥垣先輩が竹刀に気付いてしまった。



「それ?夕菜の竹刀がどうかしたの?」


「夕菜ちゃんの竹刀を踏んづけてこけたのだ」


「踏んづけた・・・?」



巳島先輩があからさま不機嫌な声とキレかけの顔で亥垣先輩を睨む。



「う、その眼で睨まないでほしいのだ・・・」



果てしなく最悪の状況に陥っている。巳島先輩の体から赤のオーラが出ている。



「落ち着きなさいよ夕菜。悪いのは珊瑚じゃないんだから」



その通り、わかっておきながらそこに竹刀を置いた犯人の全責任である。



「誰だか知らないけど、絶対に許さない・・・!」



犯人・・・ 


いや、だからあの人じゃないの?

活屋先輩。



「あ、そう言えば二人には言ってないんだけど、事故がおきて私がここに向かう途

中で辰美を見かけたのよ」


「「え?」」


「ちょっと待ってよ。それじゃ・・・」


「あんのバカ女ーーー!!!」



突如、巳島先輩が怒号を放ちながら走り出した。



「あ!ちょっと夕菜!」



実真さんも巳島先輩の後を追う。



「辰美のバカ、よりによって夕菜にちょっかいをかけるなんて・・・」



激しく同意だ。


何されても文句言えないだろう。



「終わったよ、ヨウライ君」



気付いた頃に、後ろでは散らばった肥料が片付けられていた。



「ったく、あんた達も少しは手伝いなさいよね」


「あ、あぁ。ゴメン」


「あれ?レンは?」



蓮也の不在に美香が気付く。


いつの間にか蓮也が消えていた。



「あれ?ほんとだ。零次、知らないか?」


「さっき一人で保健室行きましたよ」


「あ、そ」



『リ〜ンゴロ〜ン リ〜ンゴロ〜ン』



「あ・・・」



結局、また生徒会に巻き込まれたまま無駄な時間を過ごす羽目になってしまった。