「よう蓮也。どうだ?首の具合は」
放課後、ルミナと一緒に未だ保健室で安静中の蓮也の元を訪れた。
「大丈夫?」
ルミナも多少の憐れみ感で蓮也に声をかける。
「むち打ち、全治2週間・・・」
コルセットを首に巻いてベッドで横たわっている蓮也が暗い様子で答えた。
まぁ、30kgであれだけ何度も殴られればむち打ちぐらいはなるよな。
いや、むしろよくむち打ちだけで済んだと思う。
「イテテテ・・・ あの人半端じゃねえよ・・・」
「いや、お前が悪いんだけどな」
「違う、その事じゃなくてさ・・・」
「ん?」
「あの体で肥料をまるでクッションみたいに振り回すんだよ・・・」
そう言えば・・・
まず、30kgの肥料を持ち上げることすら無理な体格だ。
どこからそのパワーが出てくるのか・・・
「しかし、蓮也。お前・・・」
「何?」
「屋上から飛び降りてもケロッとしてるくせに、案外脆いんだな」
「ヨウライ君、いくら何でも失礼だよ。一応人間なんだから」
「け、恵ちゃん・・・?」
何気にキツイこと言ってない?
「ま、なんせ安静にしていろ。後で迎えに来る」
そう残して、俺達は保健室を後にした。
::第12話 - story6::
廊下の窓の外からは部活動に励む生徒達の声が聞こえてくる。
「みんな元気だね」
「そうだな、夏だってのに」
外を眺めながらルミナと並んで歩く。
「ねぇ、ヨウライ君」
「ん?」
「ヨウライ君は、何であんなにも車君に優しいの?」
ルミナは少し切なげな表情で俺に訊ねてきた。
むぅ・・・
最近、遊んでやってないからかな・・・
俺はなんとなく自責感に襲われた。
「あいつさ・・・ 独り暮らしなんだよ」
「え?」
「家の事情が半端無く複雑でな。そこまでは言えないが、あいつには宿木がないん
だよ」
「でも、女の子にも結構人気だよ?友達作ればいいのに・・・」
「過去にトラウマがあってな・・・ 今は何の抵抗もなく話しているけど、本当はルミナ
や美香、焔とも話すのに大分抵抗があったんだぞ?」
「本当に?」
「あぁ。だから、直ぐにとは言わない。けど、少しずつでも構わない、あいつの事を理
解してやってくれないか?」
俺は優しくルミナの頭を撫でた。
「・・・うん」
ルミナは小さく頷くとそのまま俺の胸に体を寄せてきた。
俺も何の躊躇いもなくルミナを受け入れる。
彼女のその素直な心に俺はますます惹かれていく。
またひとつ、彼女の事を好きになれた気がした。
「はいはい、廊下の真ん中でイチャつかない」
突如、後ろから声がしたので俺達はすぐさま離れた。
そこには部活用に着替えた服装の美香が立っていた。
「なんだ、美香か。驚かすなよ」
すると、半分呆れたような声で美香が言う。
「あのね・・・ 堂々とイチャついておきながら言うセリフじゃないでしょうが。イチャつき
たいなら教室かどっかでやってなさいよね」
そんな風に吐き捨てるように言われるとカチンとくるなぁ・・・
ふと気配を感じたので横をチラリと見てみると、ルミナがなんか不機嫌になっていた。
頬が膨らんでいるので一目瞭然なのだが。
「ところで美香は何しに来たんだ?」
「あぁ、レンのお見舞い。差し入れぐらい入れてやろうと思ってね」
片手に持っていたビニール袋を上げる。
「俺達もさっき寄ってきた。いつになく暗かったけどな」
「ふーん。あ、今ヒマ?」
「ん?手は空いてるが」
「体育館行って、コレをバレー部の連中に渡してくれない?」
と、さっきとは別のビニール袋を差し出した。
「何コレ?」
「スポーツドリンク。ジャンケンで負けたの」
ようするにパシリか。
「あ、これだけ由子に」
「由子?」
「米ちゃんの事だよ」
あぁ、ヨネの事か。
「で?何処にいるんだ?」
「体育館よ。隣がバスケットだからいるわよ」
あいつ、バスケ部だったのか・・・
「んじゃ、ヨロシクね〜」
美香は、用事を頼むだけ頼んで保健室に向かった。
「まったくもう・・・ 自分で行けばいいのに」
ルミナが不満そうに呟いた。
俺は、そんなルミナを見て無性に可笑しくなった。
「もうっ。何笑ってるの?ヨウライ君」
「いや、何でもない」
「おかしなの」
ルミナが怪訝な顔をした。
そして、そのまま体育館に向かう。
『キュッ!キュッ!』
『ダダダダダ!』
体育館に辿り着くと、バレーボール部、バスケット部、バトミントン部に体操競技部、
フットサル部が活動していた。
あのシューズの独特なブレーキ音が耳に障る。
「さてと・・・ どこだ?あいつ・・・」
俺はヨネを捜す。
「あそこにいるよ」
ルミナが指差した所にシュート練習中のヨネがいた。
「ヨウライ君、私バレー部に知り合いがいるから、ヨウライ君は米ちゃんに渡してあげて」
「あぁ、分かった」
俺はビニール袋の中からヨネに渡すように頼まれたアクアリアスを取り出した。
そんな時、バスケ部が休憩に入った。
丁度いいと思って他の部の邪魔にならないよう、小走りでヨネの元に向かう。
「ヨネ」
「コメ!いっつもそうなんだから!」
出会い頭に叫ばれた。
「俺じゃなかったらどうするつもりだったんだよ」
「本当に甓尖君しかいないんだから、そんな呼び方するの」
「悪かったな。あ、そうそう、美香に頼まれてな。ホラ」
俺はアクアリアスをヨネに渡した。
「あ、ありがとー。で、美香は?」
「蓮也の見舞いだとさ」
「ふーん・・・ でもさ、ここだけの話、美香って車岳君に結構かまってない?」
ニヒヒと声を漏らして笑うヨネの顔は正直キツかった。
しかし、ヨネの言う事も一理ある。
「美香って車岳君に気があるんじゃないかなって思うんだけど、甓尖君はどう思う?」
「いや、どう思うって訊かれてもな・・・」
確かに気にならないと言えばウソになるが、そこまで干渉すべきことでもないとは
思うが・・・
そんな事を考えていると、休憩中にも関わらず一人黙々とシュート練習をしている
人を見つけた。
「ヨネ・・・」
「だから・・・!・・・もういいわ。何?」
「熱心な人だな」
「ん?あぁ、猿川先輩の事?3院生の先輩でね、今年で最後だからね。気合は入っ
てるのよね」
「へ〜・・・ お前も見習わないとな」
「言われなくても分かってますー」
「それじゃぁな、頑張れ」
「うん、ありがとね」
俺達はその場で別れた。
「あ、ヨウライ君遅ーい。スポーツドリンク一本渡すのに時間掛かりすぎだよ、もう」
案の定、ルミナは痺れを切らしていた。
「ははは、悪い悪い。それじゃ、帰るか」
「あ、ゴメン。先生に頼まれた物を体育倉庫に取りに行かないといけないの。だから
ヨウライ君、今日は先に帰っててもいいよ」
そう言われてもどうせ車だからな・・・
「俺は別に構わない。一緒に行こう」
「え?いいの?」
心なしか、ルミナの表情が明るくなった気がした。
「あぁ」
「それじゃ、早く行こ」
途端にせかせかし出したルミナに又もや可笑しくなった。
但し、今度はルミナに見つからないように・・・
『イッチニ!ソーレ!』
『ニィニッ!ソーレ!』
運動場に出れば、陸上競技部、ソフトボール部、ラクロス部、ハンドボール部、ホッ
ケー部の面々が部活に励んでいた。
それにしても、うちの学院は部活動多いな。
グラウンドだけで5つだろ?
体育館で5つ。
卓球場もあるし、武道場で剣道に空手に柔道。テニスコートもあれば、室内プール
では水泳部とシンクロ部。
運動部だけでこれだからな。
文化部とか数えてるとキリないな・・・
すると、ルミナが何かを見つけた。
「あ、薫ちゃんがいるよ」
「え?」
それはラクロス部で練習する赤井の姿だった。
ラクロス部に入ってんのか・・・
ヨネと言い、赤井と言い、今日は新発見な事だらけだな。
ソフトボール部の隣を通り過ぎようとした時、ピッチャーマウンドに立ったいる人が目
に止まった。
「・・・あれ?」
「どうかしたの?ヨウライ君」
「いや、何でもない」
気のせいかな・・・?
さっき、体育館でも見たような・・・
何か引っ掛かったまま体育倉庫に着いた。
「あ、あったあった」
ルミナが持ってくるように頼まれた物とはストップウォッチやホイッスル等の小物が
入れられたダンボールだった。
「小物ぐらい、事務室や職員室にでも置いておけるのにな」
「そうだねー、でも倉庫とかってワクワクしない?」
「ワクワク?」
「うん、普段見れないものがあるじゃない?」
まぁ、確かに体育祭の時にしか活躍しない玉入れの籠や綱引き用の綱は滅多に見
ることはない。
更に、体育の授業のみで使われる道具などもここに片付けられる。
普段滅多に目にしないものだから、余計に好奇心を湧きたてられるのも無理はな
い気がする。
「ヨウライ君、いこっか」
「ん?あぁ、そうだな」
用を済ませて、倉庫を施錠して職員室に向かう。
『ファイトー』
『『ファイトー』』
職員室の前まで来たとき、外から校舎の周りをランニングするテニス部の声が聞こ
えてきた。
精が出るなと思いながら顔を外に向けると、またしても見覚えのある顔が目に飛び
込んだ。
それは紛れもなく、先程までグラウンドのピッチャーマウンドに立っていた人物だっ
た。
「同一・・・ 人物だよな・・・」
「甓尖君」
誰かに呼ばれたかと思うと、流頴娃さんがすぐそこまでやって来ていた。
「あ、どうもこんにちは」
「少々、お話ししたい事があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」
俺はルミナと顔を見合わせた。
「あ、いいよ。これ終わったら車君の所に行ってるから」
「そうか?悪いな」
「うん、気にしないで」
ルミナと一旦別れて、あの中庭に移動した。
あ、そうだ。
あの人3院生って言ってたから、流頴娃さんなら分るかもしれないな。
俺は事のついでに例の人の事も聞きだそうとしていた。
「あの・・・」
「『猿川 空音』・・・」
「はい?」
話しを繰り出す前に遮られた。
そして、誰?
「あなたが先程から気にしている女生徒の名です」
「え?あの人の事知っているんですか?」
「勿論です、何故なら我が生徒会の体育部長ですから」
「・・・・・・?」
正に開いた口が閉まらない状態にある。
「ついでに言いますと、彼女は非常に運動が好きで、6つの部を掛け持ちするという
荒行を行っています」
む、むっつ!!?
「ですから、あなたが何度も彼女を見たという事には納得していただけるかと思います」
ま、まぁ・・・
それには納得したが、なんとも仰天な話だ。
猿川 空音先輩ね・・・
・・・・・・。
ん?
どっかで聞いた事あるような・・・
てか、猿川 空音という人物に何か伝えるような話があったような・・・
・・・・・・・・・。
まぁ、いいや。
思い出せないという事は大した用でもないということだろう。
「これで、全ての生徒会の人間と出会いましたね」
「え?えぇ、まぁそういう事に・・・」
え?
「何故その事を・・・?」
「無粋な事をお訊きにならないで下さい」
そう言うと、流頴娃さんがニヤリと笑った。
「ま、まさかあなた・・・」
「さぁ、雑談はこれまでです。保健室に彼女を迎えに行ってあげて下さい」
彼女じゃないと言おうとしたが、言ったら言ったで面倒な事になりそうだったから、一
礼だけしてその場を去ろうとした。
「あ、ところで流頴娃さん。一つ訊ねていいですか?」
「何でしょう?」
「この間、俺に言ってくれましたよね?『これから先、勾野先輩が執拗な攻撃を仕掛
けてくる』って」
「・・・・・・。」
すると、流頴娃さんは急に口を噤んだ。
「あれ・・・ 流頴娃さんの嘘ですよね?」
「・・・・・・。」
「男性恐怖症の人間が、そう簡単に自分から攻撃を仕掛けるはずがないですから
ね。仮に生徒会の人達を俺に当てたとしても、そんな事をしても何のメリットもない
でだろうし」
「うふふ・・・ 流石ですね・・・」
流頴娃さんは微笑を浮かべた。
「実を申しますと、あなたを試させて頂いたのです」
「俺を・・・?」
「はい、詳しい事はまだ言えませんが、いずれお話しすると思います。どうかその時
まで・・・」
「そうですか・・・ では失礼します」
クラ女の裏のボス。
彼女がそうなんじゃないかと思った日だった。
「・・・・・・。」
奏は耀獅ェ立ち去ったのを見送ると、踵を返し歩き出す。
そして彼女が辿り着いたのは理事長室だった。
『コンコン』
「どうぞ」
「失礼します」
「あら流頴娃さん。どうかしたのかしら?」
理事長は見ていた書類を一旦置いて、奏の方に向きかえった。
「例の件についてですが、先程、全ての調査を終了いたしました」
「そう・・・ で、どうかしら?収穫の方は」
「はい、やはり理事長の仰られた通り、かなり見所のある人物かと・・・」
「あら、入ってくるとき少し嬉しそうな顔だと思ったらそういう事だったの」
「えっ!り、理事長!」
「ふふふ、冗談よ。でも・・・ 彼には是非とも就いて貰いたいわね、生徒会長に・・・」
立ち上がり、窓の外に目を向けた理事長の目線の先にはルミナと蓮也を伴った耀
獅フ姿があった。
とてつもなく大きな壁が耀獅ノ立ちはだかろうとしていたのだ。
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