─その晩。
「フラッシュ!」
「残念でした〜、あたしフルハウス!」
「フォーカード・・・」
「「うおっ!」」
連中がマッチ棒を賭けにポーカーを始めたらしい。
俺とルミナは座って隣で傍観中。
先輩は、何か勾野さんから連絡が入ったとかで席を外している。
ここまで来て不運な人だ。
::第13話 - story2::
「脩ちゃん強すぎ!さっきからずっと一人勝ちじゃない」
「おかげで焔の前にはマッチの束だな」
俺が横から茶々を入れた。
しかしながら、焔の前にはマッチ棒が積まれ、美香や蓮也のマッチ棒は無くなろう
としていた。
結局その後、焔によって無一文になった二人が飽きだした。
「ねえ、カワラっちもルミナっちも入りなさいよ」
「ポーカーするんだろ?甓尖家では賭け事は法度なんだよ」
ああ見えて、親父はギャンブルの類には一切手を付けたことがない。
「大富豪ならいいでしょ?それともUNOがいい?」
美香がUNOを取り出した。
色々と持ってきたな、暇人め。
「賭けないなら何でもいい。ルミナは?」
「ヨウライ君がするなら私もするよ」
大富豪に決まったところで二人加わり、ゲーム開始。
─結果。
「やった〜」
ルミナのひとり上がり。
続いて焔、俺、零次、そして美香、蓮也の順である。
敗因は駆け引きの弱さだと判明した。
この二人は頭から躊躇なく「2」や「A」を出していたから、後には「4」や「5」しか残
らなかった訳だ。
「あたし、今更だけど向いてないかも・・・」
気付くの遅いな。
そうだ・・・
俺はそんな美香と蓮也にうってつけのゲームを思い出した。
「ゲーム変えるか?」
「え?いいけど」
「何するの?」
「ダウト」
「ダウト?」
「知らなさそうだな」
そんな蓮也達に1からルールを教えた。
「へ〜、ようは手札を無くせば勝ちなんだな?」
「まぁ、そういう事だな」
ルールを聞いて、蓮也が楽勝と言わんばかりの表情を見せる。
美香も同様だ。
甘いなぁ・・・
このゲームに落とし穴がある事に気付いてくれるかどうか・・・
そこに注目しながらゲームしたいものだ。
ゲーム開始。
─終了間際。
美香と蓮也の一騎討ちになっていた。
やっぱりか・・・
俺が思うに、このゲームは心理戦である。
表情が顔に出ている時点でほぼ負けが決定したと思ってもいい。
その点、ポーカーフェイスタイプの焔などは、かなり手強い方だ。
それにしても、さっきから全く進展がない。
「おい、そろそろ終わるか?」
コレじゃ明日になっても終わりそうになかったので、二人に問いかけた。
「ヤダ!せめてレンとは決着つけとくの!」
「このまま引くのは俺もゴメンだね」
何を意地になってるんだか・・・
「先に寝るぞー?」
「あぁ、寝てろ寝てろ」
決着をつけると断言した二人を残して、俺達は男部屋、女部屋に分かれて寝床に
就いた。
─翌朝。
「うそ・・・」
「何やってんだお前ら・・・」
早朝、寝室から降りてくると、昨晩と全く同じ状況で蓮也と美香の対峙が続いてい
た。
「あ゛ぁ・・・ お゛はよ゛う・・・」
7割閉じかけた目をこちらに向ける蓮也。
目の下のクマが半端じゃない状態になっている。
「何・・・?もう朝・・・?」
美香も蓮也と同様、言い表せない顔になっていた。
いや、正しくは『言い表したくない』か。
「お前達、バカだろ?」
心配とかそんなのじゃなく、ただ呆れるしかなかった。
「あ、あたし・・・ もうダメ・・・」
ついに美香がダウンした。
「やっだ・・・ 勝った・・・」
続いて蓮也もそのままテーブルに突っ伏して寝始めた。
「全く・・・ 零次、部屋にタオルケットあったろ。持ってきてやってくれ」
「分かりました」
風邪をひかないように、二人にタオルケットをかけて、俺達は朝食をとる。
「一体、何があそこまでさせるんだ?」
「変なプライドのせいでしょうね」
「この間、美香ちゃん言ってたよ。『レンはあたしと似たような事をしてる』って」
「似た者同士なんですね・・・」
似た者同士ねぇ・・・
「ま、今はゆっくり寝させてやろう。ごちそうさま」
朝食を済ませてリビングで一息つく。
「ねぇ、ヨウライ君。チェスしない?」
ルミナがダッシュボードの中にあったチェス一式を持ってきた。
「お、そんな物まであるのか。いいよ、勝負だ」
蓮也と美香が起きるまでの暇つぶしとしてルミナとチェスを始めた。
「お。いいですね、それ」
「あ、将棋もあったよ。脩子ちゃん、得意なんだよね」
「はい・・・」
「じゃぁ、俺と勝負しますか」
零次が自ら名乗りをあげた。
「はい・・・ お手柔らかに・・・」
「零次、負けんなよ」
「余計なお世話です」
少しムッとした顔で言い返された。
どうやら、気に障ったようだ。
「ナイト♪」
「あっ!いつの間に!!」
余所見してる間に防衛線までナイトに攻められていた。
ドラ○エのキラーピアスじゃあるまいし、2回攻撃とかしてないよな?
「ところで・・・ あのカールお嬢様はどこ行ったんですかね?」
零次があたりを見渡しながら呟いた。
「え?」
「そう言えば、昨晩から姿を見てませんね・・・」
確か勾野さんから電話だって言って、昨日はロッジから出て行ったけど・・・
「え?朝、2階の窓からテニスラケット持って歩いていく先輩見たよ?」
「じゃぁ、今頃早朝テニスやってるってか?」
「可能性としてありますよね」
「あのように見えて、意外と熱心なんですよ・・・ 王手飛車取り・・・」
「えっ!?」
試合展開早いな。
「ヨウライ君、余所見厳禁だよ。チェック」
「なっ!!」
こっちもチェックかけられた。
「「う〜〜ん・・・」」
もはや先輩所ではない。
いかに現状況を打破するかに集中している。
「あ、そうか・・・ ビショップをこっちに・・・」
「あ、そこまで考えてなかったのに〜」
「仕方ない・・・ 桂馬で・・・」
「成る程・・・」
零次も局面を乗り越えたようだ。
『ガチャリ』
その時、入り口の扉が開いた。
「おはようございます、ただ今帰りましたわ」
テニスウェアの先輩が脇にラケットを挟んだ状態で帰ってきた。
「あ、お帰りなさい。昨晩からどこに行ってたんですか?」
「そうですの・・・ 明美さんからの電話が2時間ほど続き、寝床に就いた頃には皆様
ぐっすりとお休みになっておられました。若干、2名ほどはここでダウトをしておりま
したが・・・」
「それで、今朝は・・・?」
「えぇ、朝の7時にここを出発しまして、300m北に行った所にあるテニスコートで
早朝のテニスを致しておりました」
「お疲れ様ですね」
「いえいえ、それでは私はシャワーを浴びてまいりますので、その後に大滝の方に
ご案内する事に致しましょう」
「よろしくお願いします」
先輩は、そう言い残して浴室に入っていった。
「・・・だ、そうだ」
「寝てる二人はどうするの?チェック」
「お・・・ どうするも何も起こすしかないだろう。ポーンをクイーンにと・・・」
「まだ寝始めて30分も経ってませんよ?王手」
「あら・・・ でもこのお二方ならまた元のようになりますよ・・・ では、鋒矢陣で・・・」
それぞれ対戦をしながら、会話を続ける。
「そこは罠だよヨウライ君。チェックメイトー!」
「うわっ!」
やられた!
くそー、最初の動かし方間違えたか。
「何とか、面目は守れそうですね・・・ 詰み・・・」
「クッ、やられた・・・」
揃いも揃って情けない。
今度はリベンジ果たしてやる。
『ガチャ』
タイミングのいい時に先輩が浴室から出てきた。
「お待たせしました、髪を乾かすのに時間が掛かってしまいまして・・・」
だろうな。
その異常なほどのカールじゃ・・・
「私はいつでも出発できますわ」
「んじゃ、そろそろ起こすか」
「そうだね。美香ちゃーん」
ルミナが美香の体を揺すって起こそうとする。
「う〜〜ん・・・」
しかし、美香は唸るだけでピクリとも動かない。
「おい、起きろよ蓮也。行くぞ?」
「う゛〜〜ん・・・」
蓮也は何かうなされてるような・・・
「美香ちゃーん、起きてよー」
「んー・・・ なーにー・・・?」
疲れた表情で顔を起こす美香。
「寝起きの所悪いんだけど、もう出発だよ」
「え〜・・・」
悪いのはお前だろうと思って止まない。
美香はともかく、コイツがなかなか起きない。
「蓮也、蓮也」
「しぶといですね」
「川に放り込むのが一番手っ取り早いんだが・・・」
いっその事放って行くか?
俺はスヤスヤと寝息を立てて眠る蓮也の前で腕を組んで思案する。
「少し面白い事をしますか・・・?」
と、焔が横から口を出した。
「面白い事って・・・ 何?」
「これです・・・」
彼女が取り出したのは洗濯バサミだった。
「少し気になるな、どうするんだ?」
大体の予想は掴めて来た。
それが本当ならこれ以上になく楽しそうな事はない。
「顔に洗濯バサミを付けていき、何個目で目が覚めるか・・・」
「やろう」
「俺も手伝います」
「私もー」
俺たちは挙って参加した。
「わー、すごーい」
「顔が変形してるもんな」
「まだ起きないのか、本当にしぶといですね」
「クスッ・・・」
「まぁ、酷い顔ですわね」
見る見るうちに蓮也の顔に洗濯バサミが取り付けられていく。
あっという間に20個ほど付いた。
「う゛う゛う゛・・・」
すると、激しくうなされ出した蓮也。
「お、そろそろ起きるか?」
「がはっ!!うわっ!なんだよコレ!!」
飛び起きた蓮也が顔に取り付けられた無数の洗濯バサミに気付いて、片っ端から
はずしていく。
「おはよう」
「何してくれてんだよ・・・」
「中々目を覚まさないからさ」
「色んな人から顔をつねられてる夢見たわ!!」
お気の毒に。
「うわ・・・ 型残ったじゃんか・・・」
鏡に映った顔が所々赤くなっていた。
「結局24個だったな」
「初挑戦の割にはいい線いったでしょう」
まるで赤の他人のように、結果に満足する俺と零次。
「顔洗ってくる・・・」
「あたしもー・・・」
寝起きの二人はそのまま一緒に洗面所に入っていった。
「よし、俺達も出る準備するか」
俺達は準備を済ませ、後は蓮也と美香の身支度を待つだけとなった。
「ゴメンゴメン、完全に目が覚めたわ」
「いや〜、まさか夜通しダウトやってるとはな〜」
10分ぐらい経って、美香と蓮也。揃って下りて来た。
「少しは申し訳なさそうにしたらどうだ?」
「それでは参りましょうか。今日は昨日も申し上げました通り、名所の大滝にご案
内いたしますわ」
「「「お願いしまーす」」」
ロッジを出発し、大滝に向かう一行。
数分歩くと、谷と谷の間に長い吊橋が架かっているのが目に飛び込んできた。
「おー、吊橋かー。珍しいな、今どき縄と丸太の橋だなんて」
「バカね、そういう作りになってるに決まってるでしょ?」
冗談を言い合いながら吊橋を渡り始めた。
「あ、言い忘れてましたがこの吊橋、架けられてから20年近く経っており、所々脆く
なってる所があるので気を付けてお渡りになって下さい」
先輩のその一言で、後ろにいた全員が急に慎重に渡りだした。
そんな危ない事を、何故今になって言うんだこの人・・・
「にしても高いな〜・・・」
俺は橋の下を覗き込んだ。
下から『ゴオオオォォ』という音が聞こえる。
・・・・・・。
水の音?あれ・・・
別に、高い所が苦手という訳ではないが、いつ足元が抜けるかも分からない吊橋
の上というのが怖いんだよな。
さっきから歩くたびにギシギシと軋む綱が何ともスリリングだ。
願い下げしたいくらいだが・・・
ちなみに高さは75m。
いっその事、鉄橋にしてしまえばいいのに・・・
「怖いよ、ヨウライくん・・・」
ルミナが俺の横にきて腕を掴む。
高さと吊橋の板が割れないかという不安が彼女を襲っているのだろう。
『ベキッッ!!』
「「「!!!?」」」
突然、ルミナが踏んだ板が割れた。
急に足場を無くし、何も掴む場所もないルミナが声をあげる間も無く落ちて行く。
「ルミナっち!!?」
「ルミナーーー!!!」
俺は何も考えず、そのまま橋の上から飛び込んだ。
「耀氏I!」
「耀獅ウん!!」
くっ!勢いで飛び込んでみたものの、空中は体の動きが利かない・・・!!
正直俺も余裕はないが、とにかくルミナを・・・!!
俺とルミナの距離が見る見る縮まる。
「ルミナー!手を伸ばせーー!!」
「ん・・・!」
空中で身動きもできない中、ルミナは必死に手を伸ばす。
「あと・・・ もう少し・・・!!」
俺はこれ以上ないぐらいに手を伸ばし、ルミナの手を掴んだ。
「よしっ!」
そのまま手を引き寄せ、ルミナを胸の中に抱きかかえる。
気付くと目の前には、水面が直ぐそこまで近づいていた。
「ルミナ!息を吸え!」
「う、うんんっ」
『ザバーーーーン!!!!』
俺達は、15mほどの水飛沫を上げて着水した。
『っっ・・・─!!』
だが、川は激流と呼んでいいほど急で、水面上に上がることさえままならなかった。
そんなことより、せめてルミナだけでも水面上に・・・!
そんな一心で俺は力の限り水中でもがいた。
「ぶはっ!!ルミナ!大丈夫か!?」
「ケホッケホッ・・・ う、うんん・・・!!」
「しっかりつかまってろ、どこかに上がる場所がある筈だから!」
「うんんっ・・・!」
もはや息をすることで精一杯のルミナを背中にのせて、どこか上がれる場所を探し
て流れに身を任せた。
「おいおい!やばいんじゃねぇのか!?」
「どうするのよ一体!?」
橋の上では、耀獅ニルミナが川とはいえ、75m下に落ちた事に騒然としていた。
「とにかく行くぞ!このまま川沿いに下りていけば見つかる筈だ!」
「でも、どこから下りるのよ!?」
「私が存じております、参りましょう!」
零次達も麻美に続いて耀獅ニルミナを捜しに出たのだった。
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