「カハッ!く・・・ やっと流れがおさまった・・・」
その後、俺達は何とか九死に一生を得て岩場に上がった。
だが、大分下流の方まで流されたようだ。
周りは木々が立ち並んでおり、建物などは片鱗も見えない。
「ルミナ・・・ だ、大丈夫か・・・?」
「う、うん・・・ 何とか・・・」
とは言うものの、二人とも心身ともに疲れ果てていた。
そりゃそうだ、20分以上流されてたんだから。
おまけに服もずぶ濡れ。
ずぶ・・・濡れ・・・?
そう思ってルミナに目を向けたときだった。
『ブッッ!』
俺の鼻から血が小さく噴き出る。
ルミナのワンピースが透けて、彼女の下着が見えてしまっていた。
「ど、どうしたのヨウライ君!?大丈夫?」
「だ、ダメだルミナ!」
俺は急いで後ろを向いた。
「そ、その・・・ あー、何だ・・・ あの・・・ その・・・ 下着が・・・」
「え?キャッ!」
その事に気付いたルミナが顔を真っ赤にしながら両腕で胸を隠した。
「あ、待ってろ・・・」
俺は上の服を脱いで全力で絞った。
ジャバーッと音を立てて、水が岩の上に滴り落ちる。
「ホラ、これでも着ていてくれ。その間にルミナの服を乾かしておけばいい」
「え?でもヨウライ君は?」
「俺は少し何かに使えそうな物を探してくる。携帯も壊れたし、連絡手段がないから
下手に動くことができないからな」
赤くなった顔をルミナに見られないように、背中を向けたまま森の中へ入っていった。
に、しても・・・
こんな状況で何考えてんだ俺は・・・
ついでに頭も冷やすか。
::第13話 - story3::
その後、30分ほど森を散策した所、獣退治用に使えそうな長さ2mの木の棒を見
つけた。
「役に立ちそうだな・・・」
木の棒を片手に、俺はすぐさま帰りを待つルミナの元へ急いだ。
「あ、お帰りヨウライ君」
ルミナの元に帰り着くと、既に乾いたのだろう、服装が元のワンピースになっていて、
代わりに俺の上着が干されていた。
「服はもう乾いたのか?」
俺はルミナの隣に腰をおろした。
「うん、生地が薄かったから早く乾いたよ。あ、それと・・・」
顔を赤くしたルミナが何かを言いたげに手をもじもじさせて俯く。
「ありがと・・・ 助けてくれて・・・」
「あ、いや。あの時は俺も何が何だか分からなかったし・・・ その・・・何だ・・・」
俺の態度が妙だったのだろうか、ルミナは俺を見てクスクスと笑っていた。
「でもね、ヨウライ君が手を掴んでくれた時、私の中から怖いのがフッと消えちゃっ
て、逆に何だか安心しちゃった。変だよね、もしかしたら私もヨウライ君も溺れてた
かも知れないのに・・・」
「ルミナ・・・」
その瞬間、彼女がこれ以上になく愛おしく見えた。
「大丈夫だよ・・・」
「え?」
「ルミナがそうやって、俺の事を信じてくれる事が俺にとっての一番の力になるんだ
よ」
俺はルミナの手をとり、彼女の目を見据えてそう告げた。
「ヨウライ君・・・」
・・・って、よく考えればとんでもなく恥ずかしいセリフを口に出してないか!?
我に返った瞬間、顔の温度が触ってもないのに上昇しているのが分かった。
「あ・・・ じゃ、じゃぁとりあえず行くか。いつまでもここにいるのも何だし・・・」
握っていた手をパッと離すと、俺は立ち上がってくるりと後ろに向きかえる。
俺の後ろでルミナが再び小さく笑った事に、俺は気付いていなかった。
「いこっ。早く皆と会わなきゃ」
ルミナが俺の手を掴んで走り出す。
「お、おおお」
不意を付かれて間抜けな声を出してしまった。
・・・・・・。
ま、いっか・・・
俺は敢えて握られた手をほどかずにルミナと一緒に森の中を歩いていった。
「お、ととととと!」
「ちょ、ちょっと危ないから慎重に歩きなさいよ、レン」
「わぁーってるよ」
耀獅ニルミナを捜すべく、急な斜面を降りていく蓮也達。
未だ、一向にその姿を捉える事は出来ていない。
「気を付けて下さいまし。この辺りの地盤は少し脆いですの──」
『ズザー!』
「「!!?」」
言ってる最中に、今度は蓮也と美香が揃って土砂崩れの巻き添えを喰らい、川底
に滑り落ちていく。
「だーーー!!」
「キャーー!!」
『バシャーン!』
「「冷たっ!」」
川から二人の叫びが共鳴する。
幸いにも、流れが急ではない場所だったので、落ちた二人は自力で川から上がっ
てきた。
「「・・・・・・。」」
先程、スッキリとしたばかりの姿とは思えない様なひどい有様になった二人。
「あらまぁ・・・」
お気の毒というような感じで、二人を見て声を漏らす脩子。
「危険を言うたびにその被害が起きますね。あなた何かにとり憑かれてるんじゃな
いんですか?」
零次が軽い皮肉を込めて麻美に言った。
「し、失礼な!」
ムキになって言い返す麻美だが、絶対とは言い切れないところが怖い。
「落ちたのがバカコンビだったから良かったものの・・・」
「「おいっっ!!」」
バカコンビもとい、蓮也と美香が揃って言い返した。
「「こんなのと一緒に」」
「するな!」
「しないでよ!」
お互いがお互いに指をさしてハモる。
『ガルルル!!』
睨み合って威嚇の声をあげるその姿は、まさに縄張り争いをする犬そのものだ。
「さっさと行きましょう、耀獅ウんたちが心配だ」
後ろで威嚇しあう美香と蓮也を気にもせず、麻美を促して先に進もうとする零次。
耀賜Bと合流できるのはいつになるのやら・・・
一方、その頃。
「気を付けろよ、ルミナ。何が落ちてるか分からないからな」
「うん」
ルミナがウエッジソールを履いていたので、落ちている何かで足を傷つけないかど
うかが気になって仕方がない。
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
バレてるのか・・・
『ガサガサッ!』
「ッ!」
数m先の草むらで何かが横切った。
「どうしたの、ヨウライ君」
「何かいる・・・」
「えっ!?」
「下がっていろ」
左手でルミナを庇い、右手で棒を構える。
俺の視線はその草むらに一点集中していた。
『ガサガサッ ピョコ』
茂みから顔を覗かせたのは、野生のウサギだった。
「何だ・・・ ウサギか・・・」
「可愛いー」
ルミナが近づこうとしたが、ウサギはまた茂みに隠れてしまった。
「あ・・・」
少ししょんぼりとした表情になるルミナの頭に、ポンポンと手を置いた。
「野生の動物は近づく者は敵だと思っている。仕方ないさ」
「うん・・・」
「さ、行こう。たまたまウサギだったから良かったけど、(いないとは思うけど)狼や
クマとかだったら危なかったぞ?」
「そ、そうだね、急ごっか・・・」
頭の中で狼やクマと遭遇したシチュエーションでも思い描いているのか、ルミナの
表情がうっすら青ざめたように見えた。
『ポタッ─』
「ん?」
上から雫がこぼれ落ちてきた。
『ポタッ─ ポタポタポタ─』
いつの間にか上空は黒い雲に覆われ、雨が降り始めてきた。
「あ、マズい。雨だ。どこか雨宿りできるところを探そう」
「もー、折角乾いたのにー」
ルミナの手を引き、木々の間を走り雨宿りできそうな場所を探す。
「あっ、ヨウライ君。あそこに洞穴が」
「えっ?」
ルミナが指さすところに洞穴を見つけた。
「ひとまずあそこで雨宿りをしよう」
とりあえず、その洞穴で雨宿りをする事にした。
『ザーー!!』
洞穴にたどり着いた途端、雨が本降りになりだした。
「間一髪だったな」
「うん・・・」
『グルルル・・・』
突如、背後から獣の呻き声が聞こえた。
「きゃっ!」
「何だ!?」
咄嗟にルミナを背中に隠し、棒を前に突き出すように構えた。
『グルルル・・・!!』
「あ、あらら・・・」
洞穴の奥から体長2mは優に超えてるだろうと思われる、真っ黒な毛並のクマが現
れた。
『グルルルルルル!!!!』
何故か異常なほど俺達を威嚇している。
「よ、ヨウライ君・・・!!」
俺の背中で、ルミナが震えているのが俺の体を掴んでいる彼女の手から伝わる。
「大丈夫だ、そこから動くな・・・」
と、言っても動けないんだろうが・・・
俺はジリジリとすり足で棒を構えながらクマに近づく。
『グルル・・・!!』
クマの方も一歩一歩と、警戒しながら俺に近づく。
いや〜・・・
流石に野生相手は初めてだな・・・
いやいや!悠長に言ってる場合か!!
“落ち着け・・・”
ゆっくりと息を吐いて呼吸を整える。
“狙うは・・・ 眉間・・・っ!”
目を見開き、クマを正面から睨み付けた。
『グルルゥ・・・』
“隙あり─ッ!!”
クマが一瞬怯んで後ろに下がった瞬間を狙って、俺は一直線に棒を突き出した。
『ゴッ!!』
棒は見事にクマの眉間を貫き、鈍い音が洞穴内に響き渡る。
『グラッ・・・ ドダーン!』
クマはそのまま力なく倒れた。
死にはしていないだろうが・・・
どうして急に襲うような・・・
俺は疑問に思いながらクマの生死を確認するためにゆっくりと近づく。
クマの生存を確認したのと同時に、俺が感じた疑問の謎についても明らかとなった。
洞穴の一番奥、行き止まりとなっている所に2匹の子グマがいたのだ。
そう、この洞穴はこのクマの親子の住処だったらしい。
そうとも知らずに俺達が雨宿りをしたせいで、住処を荒らしにきたのだと思ったのだ
ろう。
母グマは我が子を守る為に俺達の前に立ちはだかったのだ。
何か悪い事したな・・・
俺は母グマの横に、せめてものお詫びとして森の散策途中で見つけたリンゴを3つ
並べた。
これで許してくれ、な。
と、子グマに視線を送って親子グマに背を向けた。
入り口付近に戻ると、さっきと変わらずルミナが不安そうな顔をして立ったままだった。
「ルミナ、もう大丈夫だ─」
言い終わる前に、ルミナが俺に抱きついてきた。
「怖かったよ〜〜」
「ルミナ・・・」
ん・・・?
いつだったか、どこかで同じような体験をした気が・・・
「ヨウライ君が襲われて怪我でもしたら・・・ 私・・・ 私・・・」
俺はゆっくりと両腕でまだ震えているルミナの頭を抱いた。
「ありがとうな・・・ 俺は大丈夫だよ・・・」
「良かった・・・」
「「あぁーーーーーーーーーッッッ!!!!!」」
静寂を破る大きな叫び声が洞穴の外から聞こえてきた。
何事かと、洞穴の外に2人して目を向けると、そこにはさっきの雨でずぶ濡れに
なった蓮也達が立っていた。
・・・が、何だかその顔には鬼気迫るものがある。
「人が死にそうな目に遭ってお前達を捜してるというのに・・・」
「見つけたと思ったら、何イチャついてんのよ!!」
鬼気迫った顔をしてたのは、蓮也と美香の2人だけだった。
「あ!いや、これは・・・!」
弁解しようとしたが、状況が状況だったので上手く言葉が出てこない。
「ちょっと来い!コラァ!」
「れ、蓮也!?」
そ、そんな顔だったっけ!?
「美香ちゃん!脩ちゃん!」
ルミナはというと、安堵からか美香と焔の元に駆け寄った。
ちょっとはこっちの状況も把握してください!!
「コノヤロー!」
「だー!イテテテテ!!」
蓮也に何故かヘッドロックをされるし、零次も何も言わずに見てるだけだし。
何だ!?俺が何をしたって言うんだ!?
その後、何とか全員無事に下山できたが、その疑問が俺の頭から拭えなかった。
後日、壊れた吊橋は鉄橋に姿を変え、俺がこの場所を訪れる事は、以後ほとんど
ない。
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