「わっ!つめてっ!」
「よー、魅堂。どうだよ、サファイアブルーの海水の味はー?」
「てめぇ!車!」
やれやれ・・・
ここまで来て教室と同じような事をしてどうするんだよ・・・
「余所見厳禁!!」
『ボンッ!』
「ぐっ!」
蓮也達に目を取られていたら、美香にビーチボールを当てられた。
::第14話 - story3::
「ふふふ・・・ そうか、俺にケンカ売ってるんだな・・・?美香・・・」
「言っとくけど、泳ぎなら負けないわよ」
言ってる側から美香は既に泳ぎながら沖に向かって逃げていた。
「負けるわけねえだろ!」
俺も負けじと海に飛び込んで美香を追い回す。
「あーあー・・・ もぅ、美香ちゃんもヨウライ君も、あれじゃいつもと一緒じゃない」
「クスッ・・・」
ルミナは困ったような表情で、脩子は面白そうに見守るような表情で成り行きを見つ
める。
「ところで脩ちゃん。ヨウライ君、『サンダルはシートの上以外脱いじゃダメ』って言っ
たけど、何でだろ?」
「それは、この海岸の浜のせいでしょう・・・」
「浜?真っ白でキレイだよ?」
「はー・・・ はー・・・ それはな・・・」
「あっ、大丈夫?ヨウライ君」
チクショウ、泳いでる最中で直角に方向転換なんかできる訳ねぇだろ・・・
まんまと美香に逃げられた。
「ここの海岸は沖縄と一緒で珊瑚礁の死骸でできてるんだ・・・ ゼー・・・ 脆くはなっ
てると思うけど念のためだよ・・・ ゼー・・・」
全力で泳いだから回復に時間かかるな、クソ・・・
「ヨウライ君休んでたら?私、ジュース買ってくるね」
「あっ、ルミナ」
別に気にしなくてもいいと言う前に、ルミナは財布片手に小走りで自販機まで走って
いった。
「幸田さんの好意に甘えてはどうですか・・・?」
「んー・・・ そうだな、そうするか」
焔の言う事を聞いて、俺はシートの上に寝転がる。
「ふぅ・・・ ん?」
パッと目に飛び込んできたのは、大量の水飛沫を上げて縦横無尽に泳ぎ回る蓮也
と零次の姿だった。
「・・・・・・。あいつら、まだやってたのか・・・」
元気だなぁ。
どうせなら水上を走ってくれればいいのに。
あいつらなら出来そうだ。
「ヨウライ君」
「あぁ、ルミナ」
ペットボトルを2本手にしたルミナが帰ってきた。
「はい。お茶で良かった?」
「何でもいいよ。ありがと」
ルミナからお茶を手渡され、俺はすぐに栓を開けて一口飲んだ。
「ふぅっ・・・」
「みんな元気だね」
俺の傍に腰を下ろし、水飛沫を上げ続ける蓮也と零次を見てルミナが言った。
「ルミナも泳がないのか?せっかく来たのに」
「あ、うん・・・」
すると、ルミナの表情が曇った。
あれ?なんか変な事言った?
「実は、泳ぐの苦手なんだ、エヘヘ・・・」
照れ笑いをするルミナの口から驚きの言葉が出てきた。
「っ・・・」
理由を訊こうとしたが、言葉が出なかった。
いや、出せなかった。
俺の頭の中で、軽井沢での彼女の言葉を思い出したからだった。(第13話・#3)
『でもね、ヨウライ君が私の手を掴んでくれた時、私の中から怖いのがフッと消え
ちゃって、逆に何だか安心しちゃった─』
そうか、だから・・・
「そっか・・・」
俺はそれだけ言い返してゴロンと仰向けになった。
別に話を追求するつもりなんてない。
人に話したくない事など山ほどあるからな。
俺もそうだけど・・・
ふぅと一息ついて目を瞑る。
さざなみの音と大空を舞うアジサシの鳴き声を聞いていると、何だか心地よい空間
に包まれた気がして、いつの間にかうたた寝していた。
「・・・─さん。・・・うらいさん。耀獅ウん」
「う・・・ん・・・?」
呼び起こされて目を開けると、零次が携帯を片手に中腰で俺の顔を覗き込んでい
た。
「どうした?零次・・・」
「おやっさんから電話ですよ」
「親父が・・・?」
おやっさんとは零次が付けた親父の呼び名だ。
しかし、『おやっさん』だなんてそっち方面の人じゃあるまいし・・・
別にいいけどさ。
寝ぼけ眼を擦りながら、零次から携帯を受け取って耳にあてる。
「はい・・・?」
『耀獅ゥ、楽しんでる所すまないが、大変なことになった』
「何?どうかしたのか?」
『百合華が、『お兄ちゃんがいない〜!何処行ったの〜〜!!』と喚き散らして、手
が付けられないのだ。どうすればいい?』
「・・・・・・。」
うわお、そりゃ大変だ。
散々に暴れまわっている百合華を想像する。
・・・・・・。
片付け大変だろうな・・・
「分かった・・・ ちゃんとお土産買って帰るからいい子で待ってろって伝えてくれ・・・」
『そうか、分かった。あぁ、それと豊嶌にもよろしくと言っておいてくれ』
「了解」
『じゃぁな。プツッ・・・─』
何の用だったんだ・・・?
「何だったです?」
「ん?あぁ、別にどうでもいい内容だった」
携帯を折りたたんで零次に返し、『ん〜』と背中を伸ばす。
ついでに首の骨もコキコキと鳴らした。
『歳かな』とか思ってみる。
「おはよヨウライ君。寝てたね〜」
「あぁ、寝るつもりじゃなかったんだけどな」
ルミナは変わらない姿勢で俺の傍に座っていた。
「カワラっちー!」
すると、向うの方から美香が大声で俺を呼んで手招きしている。
「何だー?」
「いいから、ちょっと来なさいよー!」
何なんだ?
とりあえず、美香の元に向かって歩いている最中だった。
「ん?」
明らかに一箇所だけ色が違う場所を発見した。
あぁ、落とし穴か。
また古い手を・・・
俺はあえて気づかないフリをして穴に近づいた。
俺がどんどんと近づくにつれて美香の顔がニヤけていく。
な〜んてな。
すんなりと落とし穴にハマってあげるほどお人好しじゃないから。
横にかわしてやろうと思った矢先だった。
『ズボボボボッッ!』
「おああああ!!?」
急に足場が崩れ落ち、俺は浜ごと4m近く落下していた。
「くっ・・・ かっ・・・」
に、二重トラップ・・・!?
「やったやった!大成功ー!」
「うわ、意外とすんなり成功したな」
地上の方から歓喜の声が聞こえる。
俺からすれば屈辱以外のなんでもない。
「どう?カワラっち。あたし達の掘った落とし穴の感想は」
キャッキャと穴の上ではしゃぐ美香。
チクショウ・・・
スッゲー嬉しそうな顔してやがる・・・
「ヨウライ君、大丈夫ー?」
「何とかな・・・ それとさ・・・」
「何ー?」
「穴が深くて上れないんだけどー」
「待ってね、今はしご降ろすねー」
その後、すぐにはしごを降ろされて何とか地上に出れた。
まさか、地上にいて地上が恋しくなるとは思わなかったな、うん。
「つか、どうなってたんだ?」
俺は浜をじっくりと見直した。
よく見てみると、落とし穴だと思っていた所には穴すら掘られておらず、違う色の珊
瑚の死骸を上から撒いてあるだけだった。
もしや、俺の意識をこっちにするために・・・?
「誰?この錯覚トラップ仕掛けたの・・・」
俺の質問に美香が上機嫌で答えた。
「穴を掘ったのはあたしとレン。で、カモフラージュしたのは脩子ちゃん」
うーん・・・
グルが多すぎる。
焔に関しては、いったい何手先まで読んでるんだ?
まったく量り知れん。
その後、美香がシュノーケリングをしたいと言い出したので、全員で海の中に飛び
込んだ。
泳ぎが苦手だとルミナは言っていたので、シュノーケリング中は俺がずっと彼女の
手を引きながら泳いだ。
海の中はそれは神秘的で、クマノミなどの色とりどりの熱帯魚や珊瑚礁を目の当た
りにした。
途中、蓮也が海草と間違えてウツボを引きずり出して襲われそうにもなったりしたが・・・
どう間違えたらそうなるんだろうか。
何はともあれ、雄大な自然を満喫できて皆満足気で浜へと上がった。
楽しい時間と言うものは過ぎるのが早く、西の空、太陽が水平線に沈み始めていた。
「もうこんな時間か。そろそろ引き上げよう、明日もまだある」
「そうだね」
水着から着替え、パラソルやシートを片付けて、夕日が水面に反射してキラキラと
赤く光る海を見ながら、俺達はビーチを後にした。
「お帰りなさい。楽しんできた?」
豊嶌邸に戻った俺達を出迎えたのは、聡美さんとキッチンの方から漂う香ばしい匂
いだった。
「えぇ、そりゃぁ5mも落下するぐらいに楽しんできましたよ」
「何、まだ言ってるの?謝ったじゃない」
「おっ、美味そうな匂い」
「それしか頭にないのか、お前は」
「あっ。夕飯、私も手伝います」
「では、私も・・・」
「ちょ、ちょっと待ってね・・・ 一度に言われても・・・」
当たり前だが、聖徳太子ではないので一度に聞き取れるはずが無い聡美さんが困
った表情になった。
「明日も海で遊ぶんでしょ?とりあえず、水着は洗濯機の中に入れておいて。一緒
に洗濯しちゃうから」
「「「はーーい」」」
「あともう少しで夕飯ができるからね、それまでリビングでゆっくりしていてね」
聡美さんは踵を返して、鼻唄雑じりでキッチンに戻っていった。
「ルミナっち、脩子ちゃん。二人の分の水着もついでに出しとくから、先に行ってて」
「あ、じゃぁお願い」
「すいません・・・」
ルミナと焔は、美香に水着が入ったプールバックを渡して聡美さんの後を追ってい
った。
「さて、俺達も荷物だけ置いて手伝うか」
「そうですね」
「ん〜〜、疲れた〜」
一旦、二階に荷物を置きに上がってリビングに下りる。
ダイニングの方から皿やグラスが擦れあう音がカチャカチャと聞こえてくる。
反対側、ソファーでオッサンが競艇見ながらビールを豪快に飲んでいた。
あんたいい歳してニュースぐらい見れんのか。
「おじさん、早速飲んでんの?」
「おお、耀詞Nか!お帰り!」
「ただいま・・・」
俺は唾と一緒に顔面に飛んできたビールの泡を拭う。
「何、今日は嬉しくてな。一気に6人もの子供ができた気がしてね」
ビールを一気に飲み干してオッサンの顔が笑顔で満ち溢れる。
ビールのせいか?
俺が聞いたところの話によると、聡美さんは昔、流産でお腹の子を失い、以来子供
が出来ない体だと診断されたのだ。
なので、口には出さないが二人とも内心はとても嬉しいんだろう。
「あっ、ヨウライ君。夕飯の準備できたよ〜」
すると、ルミナがヒョコッとダイニングから顔を覗かせた。
「分かった、すぐ行く。おじさん」
「よしよし!さぁ、ディナーだ!」
ダイニングテーブルの上にはラフテーやチャンプルーなど、この地方ならではの料
理が所狭しと並ぶ。
「うおっ、美味そ〜」
「へぇ・・・ こりゃ凄い・・・」
「とりあえず、二人とも席に着いたらどうよ?」
この家では滅多にない、8人でテーブルを囲むという状況。
実際、俺も経験したことはない。
いつも向かいの百合華との距離でさえ3m近くあるからなぁ。
「「「いただきま〜〜す!!」」」
だから、こんなに近づいて皆で夕飯を食べる事って言うのは、俺の経験上あまり無
かったと今思う。
そのせいか、食事中の会話は普段の学校生活や今日の出来事など、他愛のない
話ばかりだったが、えらく居心地がよかった。
そうして食事が終わる1時間半の間、話は一切尽きることは無かった。
「いや〜、食った食った」
夕食後、風呂も済ませて二階に上がった俺達は部屋でくつろいでいた。
と言っても、男の3人部屋だが。
「たまにはこういうのもいいですね」
「あぁ。それに、遊べるのは明日で最後だからな」
俺は床に布団を敷きながら零次に返答した。
「明後日の昼に発つんだろ?」
「そうだな、それに来週から2学期だしな」
「うわー、忘れてたー」
蓮也が大きくのけぞって布団の上に寝転がる。
「別にいいだろ。今とほとんど変わらないのに」
「なんだよそれ・・・ まるで俺が遊び感覚で学校行ってるみたいじゃねえか」
「「違うのか?」」
零次とハモってしまったが、思わず聞き返してしまった。
「・・・・・・。」
冗談でも意地悪でも何でもない、ごくごく純粋な返答だったのだろう、蓮也がいたた
まれない様な顔でしょんぼりとなった。
「もぅいいや、寝る」
あ、ふてくされた。
俺と零次も、やれやれといった感じで顔を見合わせながら布団に入った。
「消すぞー」
「「うーい」」
『カチッ』
消灯。
『ザザー・・・』
「ふぅ・・・」
窓から入ってくる潮風で涼みながらうつらうつらと眠りに誘われていった─
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