翌朝。



「「「いっただっきまーーす」」」



朝からガイガイと騒がしい食卓。


遊べるのも今日で終わり。夏休みを締めくくるに相応しいだけ遊んでやろう。


そう思って皿の上のソーセージに箸を伸ばした。



「あれ?」



ソーセージ無いぞ?



「何時いかなる時も決して気を怠るべからず・・・ ってね」



左に顔を向けると、蓮也が似つかわしくない台詞を吐いて、俺の皿から分捕ったソ

ーセージに噛りついていた。


つか、何で人のおかず食ってんだよ。




::第14話 - story4::




朝食後、早速海へと出発した。



「って事で、今日は色んな物用意してるから、各自好きに遊ぶように」



俺は、オッサンの家からサーフボード・水上スキー用のスキー板。

あと、小型モーターボートとジェットスキーを持ち出してきた。


これだけあれば文句ないだろ。

逆にこれだけあるオッサンの家って・・・



「ねぇ、レン。サーフィンできるなら教えてよ」


「いいけど、付いてこれるか?」



蓮也と美香はサーフボードを手にとって早速沖に出る。



「う、後ろ、乗ります?」


「はい・・・」



何を照れているのか・・・


顔を赤くしながら、零次はバイクとよく似た運転方法のタンデムのジェットスキーを

選んで、後ろにこれまた顔を赤くした焔を乗せて沖へと出て行った。



「ねぇ、ヨウライ君」


「ん?」


「これ・・・」



ルミナが小型モーターボート指差す。



「乗りたいの?」



俺の問い掛けにルミナが小さく頷く。



「いいよ、行こうか」



小型船舶の免許を持ってた俺は、モーターボートにルミナを乗せて発進させた。



『ヴーーーーー!!!』



独特のエンジン音を出すボートを、俺は徐々にスピードを上げていった。



「キャー!速ーい!」


「しっかり捕まってろよ。おっ、いたいた」



と、そこに前を行く零次と焔を発見した。



「追跡しますか?隊長!」


「くるしゅうないー、行けー♪」


「了解(ラジャー)!」



『ヴーーーーーー!!!』



より一層、ボートのスピードを上げてとうとう零次の横まで追いついた。



「あっ!耀獅ウん!何ですか、それは!?」



いきなり現れた俺達を見て思わず声をあげる零次。



「ははは!悪かったな、免許持ってて!」


「脩ちゃーん!」



ルミナが焔に向かって手を振る。



「・・・・・・──」



が、普段、ただでさえ声が小さいのに、エンジン音が大きい上このスピードだ。

焔の声が全っっっっ然聞こえない。


何かを言っているのは間違いないのだが。


すると、前方に大きな浮きが見えてきた。


これは、『ここから先は漁船以外進入禁止』という意味を持っているので、ここで引

き返さなければいけない。



「零次ー!そろそろ折り返せー!」



俺は零次に向かって大声を出すと、零次は手を上げて答え、ハンドルを切ってUタ

ーンした。


俺もハンドルを切って零次の後を追う。



「あ、ヨウライ君。あれ見て」


「ん?」



ルミナが指差す方向に目を向けると、サーフボードを巧みに操り波に乗る蓮也の姿

が。



「うわっ、あいつサーフィンできたんだ」


「でも上手ーい」


「そうだな・・・ んっ?」



蓮也のすぐ隣、ボディーボードにしがみついて波を越えようとしてる美香を見つけた。



「あ、やっぱりまだ無理だったのか」


「えっ?あっ、美香ちゃんだ。やっぱりまだ乗れなかったんだ」


「みたいだな」



二人を横目に俺達は先に浜に戻った。



「お帰りなさい・・・」



浜にはすでに零次と焔が帰ってきていた。



「あ、脩ちゃん。どうだった?」


「えぇ、とっても・・・」



赤く染まる頬に手を添えてフゥッ・・・と小さく息をつく。


俺は零次の傍まで言って小声で訊ねる。



「おい零次。焔に何かしたのか?」


「えっ?な、何にもしてませんよ」



焦った表情で言い返される。


まぁ、零次が惚れてるんだもんな。

こういう恋愛事はどっちも分からんから、零次の言う通りなんだろう。


まぁ、楽しんでくれればそれでいいんだ。


しばらくして、蓮也と美香が帰ってきた。



「ふぃ〜、久々だったから危なかった〜」


「ダメ、あたし向いてないわ」



蓮也に比べ、美香は選択ミスをしたみたいな表情で海から上がってきた。



「とりあえず、休憩しよう。ずっと海に入ってるのも体に毒だ」


「飲むもん買ってくるよ、何がいい?」



珍しく蓮也が率先して動く。



「あぁ、何かてきとうに。炭酸以外なら」


「おっけ」


「あ、私も手伝うよ。いこっ、脩ちゃん」


『コクリ』



蓮也のお手伝いでルミナと焔も一緒に買いに行った。



「何の偶然か、ちょうどカワラっちとミッ君が残ったわね。いい事教えちゃおうかな」



ウフフフフと怪しい笑い声を発する美香。



「何だよ」


「昨日の夜ね、3人でお風呂入ったのよ」


「「うっ・・・」」



なんとなく気まずくなる俺と零次。



「柔らかったわよ〜、二人とも〜うふふふふふふうふふ」



お、ついに壊れたか。



「柔らかい・・・?」


「何が・・・?」


「あんた達、ホントに鈍感ね〜。『風呂』で『柔らかい』って言ったら一つしかないでし

ょ?」



お、おい・・・ まさか・・・



「後ろから二人の揉んじゃったのよね〜」



『ブッッ!』


『ブッッッ!!』



一斉に鼻血を吹き出す俺と零次。


いや、少し零次の方が衝撃が強かったようだ。

俺よりも出血が酷い。


鼻を抑えた手もほぼ無駄な状態で、鼻血が湧き出て指の間から漏れている。


かく言う俺もだが、顔の温度が半端なく上昇していくのが分かる。



てか、さっきから『後ろから美香に襲われたルミナの図』が頭から離れない。


おのれ!煩悩め!


ん・・・?



「つか、テメェ!何やってんだ、変態女子高生!」


「あら、いいじゃない。減るもんじゃないんだしー」



ニヤつきながら俺達の反応を愉しむ美香の顔が、そこら辺の中年オヤジに見えて

きた。



「それに、揉んであげると胸って大きくなるのよ。・・・・・・。二人っきりのときに揉んで

あげたら?」



『ブッッ!!』


『ブーーッッッ!!』



こ、殺す気だ!


コイツ、俺達を殺す気だ!!


鼻血は、俺達の胸や口周りを真っ赤に染めていた。



「よ、耀獅ウん・・・!お、俺もう無理です・・・!」



ん?隣から震えた声が何か聞こえて・・・


うわっ!俺なんかより零次が真剣にヤバイ!

顔が上の方からどんどんと青ざめていっている!



「耀氏[」



げっ!よりによって一番間の悪いときに買出しチーム・・・!!



「ほら買って来たぞジュース・・・ ってうわっ!!」


「きゃあっ!ヨ、ヨウライ君!?」


「零次さんっ・・・!!」



悲惨な現場を目撃した三人が驚き叫ぶ。


それもそうだ、常識で考えて数分の間に顔から腹の辺りまで血まみれになっている

状況など起きるはずがない。



「ど、どうしたんだよ!?地底人に襲われたのか!?」



それはそれで大問題だし、どういう状況だ。



「いやね〜、あたしがからかったら本気で鼻血出しちゃってさぁ〜」


「「くっ・・・!」」



文句にならない文句を声にして洩らした後で、俺達は海で血を洗い流した。


ひとしきり休憩して止血をした後、気を取り直して再びビーチボールを使って遊び始

める。



「とりゃぁあーーっ!」


「うわっ!本気で打つな!たかだかビーチボールじゃないか!」



その後のスイカ割り─



「右ー」


「後ろー」


「下ー」



下?



『ズボーーッ!!』



「!!!??」



2日連続落とし穴にはめられた。



「あ〜・・・ 他になんか面白い事ないか?」



次第に飽きてきたのか、スイカにがっつく蓮也が物足りない顔をしながら愚痴る。



「シュノーケリングもしたし、水上スキーもサーフィンもしたしね〜」



美香もスイカを食べながら口添えをしてくる。



「ん〜・・・ あぁ、実は格納庫に小型だけど飛行機があったはずだ。スカイダイビン

グならできるんじゃないか?」


「「おおおっっっ!!」」



途端、2人の目の色が変わった。


まさに興味津々と言った目だ。



「いいじゃんいいじゃん!やろやろ!」


「あるんだったら、最初から言ってよ〜」



危険なものだったからなるべく言わないようにしていたんだけどな、色んな意味で。


俺はふぅとため息をついて半袖のパーカーを羽織って豊嶌邸に戻った。



「驍慈おじさん?」


「どうした?何か用か、耀詞N」



オッサンは衛星放送で競馬を見ている最中だった。


てか、あんたはそればっかりか。



「いえ、今が稼ぎ時のようなのでこれで失礼・・・」


「待て待て」



そう言ってテレビを切り、俺の側までやって来た。


うわっ、酒クセっ!

昨日のがまだ残ってるのか?



「遠慮はしないでいい。何でも言いなさい」


「あぁ、おじさん・・・ 確か小型飛行機の免許持ってたよな?」


「あぁ、格納庫にあるヤツなら今すぐにでも飛ばせるぞ!」



グッと腕を曲げて自信をあらわにする。



「飛ばしてくれない?連中、スカイダイビングしたいって言ってるんだけど」



すると、オッサンの目の色が変わった。



「何!?スカイダイビングか!若いのはいいな〜!よし、すぐに出してやろう。ところ

で、経験はあるのか?」


「俺以外は初挑戦」



すると、オッサンの動きが止まった。



「未経験でするのか・・・?」


「下は海だし、死にはしないさ」


「ならいい、行こう」



意外にあっさりと引き下がった。

少しは心配しろよ。


なんてな、さすがに未経験者をいきなり飛ばすような事は俺もオッサンもさせない。


格納庫で30分程パラシュートの使い方などを教えた後、オッサンに飛行機で上空

1200mまで飛ばしてもらった。


ちなみに高い所が苦手っていうか、いくら何でも高すぎるという零次には、ルミナと

焔と一緒に下で待ってて貰っている。


結構意外だった。



「いいかー、絶対に気ぃ抜くんじゃないぞー!」



操縦席からオッサンがキツめに喚起した。


確かに。下手すると命の危険性だってあるんだ。



「了解ー!ん?」



ふと横を見ると、離陸前まで威勢の良かった蓮也と美香の表情がうっすら曇ってい

た。


すっごい良い天気なのに。



・・・・・・。

関係ないか。



「どうした?もしかして今更か?」


「ば、バカ言うんじゃありませんよ!」



あれ?お前そんな喋り方だったか?



「そ、そうよねー。今更だものですもんねー」



美香に至っては、もはや自分で何を口走っているのか理解できていないのだろうか。



「じゃあ、一斉に飛ぶぞ。パラシュート開く時になったら俺が合図する。いいな?」


「「よろしくっ!」」


「・・・・・・。」



うーん、やっぱり止めておいた方がいいんじゃないか?



「それじゃぁ、行くぞ」


「「えっ!?もう!?」」



ユニゾンするな。



「いいか、下を見るんじゃない。遠くの景色を見るんだ。島の全景なら見えるし、別

の島も見えるだろう。とにかく『遠く』を見ろ、いいな?」



『コクン』



二人は無言で頷いた。



「行くぞ・・・ 1・2の・・・」


「わっわっ!」


「3っ!」



未だ心の整理が付いてない二人を、半強制で大空に飛び出させた。



「「ーーーーーー!!????」」



空中で何かを叫ぶ二人。


景色を見ろとは言ったものの、やっぱり無理があったか。



「「ーーーーーーー!!!」」



「「ーーーーーーーーー!!!」」



「「ーーーーーーーーーーー!!!」」



それでもまだ声にならない叫び声を上げる二人。

限界か・・・



『パァンッ!』



二人の状態がヤバイと判断したので、俺はパラシュート合図のために腰に付けて

いたクラッカーの紐を引っ張った。


それと同時に二人のパラシュートが開き、沈下速度が減速する。



「「ぐはーー!!」」



パラシュートを開くまで呼吸をしてなかったのだろうか、大きく息を吐く音が聞こえた。


正直、ここで話しかけても聞こえないだろうな。

地上に下りてから話を聞くか。


俺は二人よりも先に沈下速度を速め、それなりに空中遊泳を楽しみながら零次達

の待つビーチに着陸した。



「よいしょっ」


「お疲れ様です」


「あぁ、それよりどうだ?あの二人は」


「それが・・・」



零次が上空を見ながら言葉を濁した。



「え?」


「さっきから全然違う方向に行きはじめてるの」



俺も上空を見て二人の様子を窺おうとしたら、ルミナの言う通りだった。

美香の方が先に下りてきていたが、着地地点にうまく下りるためのコースから見事

なまでに外れている。


美香は俺らに背中を向けた状態でだんだんと沖のほうへ風に流されていく。



「あーあー」


「ここまで下りてきたら、方向転換できませんよね・・・」



焔もポツリと呟く。



「あ、あー。あ、ら、ら」



『ザプーン!』



・・・・・・。


無事着水したようなので、これはこれでよしと・・・


そうだ、蓮也は?


もう一度上空を見上げると、美香と違っていい感じに下りてきていた。


いい感じに・・・




いい感じに・・・






いい感じに・・・







林の方へ・・・






『ガサガサッ!』






・・・・・・。


これはさすがにマズいな。



「零次、美香の方を頼むぞ。俺は蓮也を助けてくる」


「分かりました」


「私も一緒に行くよ」



美香の方を零次に任せて、俺とルミナは蓮也の墜ちた林へと向かった。