「おーい、蓮也ー」
あいつが墜ちたであろう付近で蓮也の名を呼ぶが、反応している気配がない。
「ぉぉ〜〜ぃ・・・」
その時、奥の方からとても小さな声で誰かを呼ぶ声が聞こえた。
もしやと思いって駆けつけると、案の定パラシュートと足が木の枝に引っ掛かって、
逆さ吊り状態になってた蓮也だった。
「あーあー・・・ また派手に墜ちたな・・・」
「呆れてないで助けてくれよ・・・」
だらりと両手をぶらさげ、焦点の合わない目で視線を合わす。
それにしても、おもしろい墜ち方をしたもんだ。
惜しいな・・・
カメラ持ってくればよかった。
::第14話 - story5::
「おい耀氏Bお前、変な事考えてないか?」
「えっ?」
な、何をいきなり・・・
「でも、おもしろいね。『パラシュートが木に引っ掛かって逆さ吊り』だなんて、コント
じゃあるまいし」
「け、恵ちゃん・・・?」
おおっ、言ってくれた。ルミナが言ってくれた!
少しも言葉を濁さず、どストレートで言ってくれたぞ、ありがとう!
蓮也の苦い顔が全てを物語っている。
まぁ、それはともかく・・・
そろそろ下ろしてやろう。
これ以上この体勢だと頭に血が上りそうだ。
既に手遅れな気もするが。
「ルミナ、このパラシュート持っててくれるか?」
「うん、分かった」
「蓮也、体を下から支えてやるから自分で足を抜け」
「よし・・・」
俺は蓮也の背中を両腕で支えて、その間に蓮也が引っ掛かった足を自力で抜く。
「よいしょっ」
「ま、何事も経験だ。今度から気をつければいいさ」
「今度があるのか・・・?そうだ、栗橋は?」
あ、そう言えば忘れてた。
「零次君が助けに行ってるはずだけど・・・」
「心配だな、戻ろう」
「うん」
林を抜け出して浜に戻ると、ちょうどこちらも海から美香が零次に助けられながら上
がってきたところだった。
「大丈夫か?美香」
ずぶ濡れであがってきた美香の顔は予想外に楽しげだった。
「あー、怖かった。けど楽しかった〜」
飛んでる最中、引きつってた人間の言う言葉ではあまりない。
吹っ切れたというなら在りうるけど。
いや、それにしては活き活きしすぎだ。脳内麻薬を分泌しすぎたのか?
「あまりの恐怖で思考回路がイカれたんじゃないかと思うんですけどね」
零次が冷めた眼で美香に指差す。
「おいおい・・・」
可能性はありそうだが・・・
「あっ、ヨウライ君。豊嶌さんだよ」
「え?」
振り返ると、飛行機を着陸させたオッサンがビーチまで駆けつけてくれた。
「3人とも無事か?」
「あぁ、おかげ様で」
「そうかそうか、それならよかった」
オッサンの顔に安堵の笑みがこぼれる。
「さぁ、十分に楽しんだところで、早いが帰ってメシにしよう」
「え?まだ5時前だけど、もう引き上げるの?」
「お楽しみが待ってるからな」
お楽しみ・・・?
「どうする?」
俺だけでは判断できないので皆の意見を訊いてみる。
「まぁ、こっちからすりゃ十分遊んだし」
「片付けにも時間掛かりますし、丁度いいんじゃないですか?」
蓮也、零次はなんなく了承。
「ルミナ達は?」
「私はヨウライ君に付いてくよ」
「あたしも結構楽しんだしね」
『コクリ』
どうやら、全員満足のようです。
「じゃぁ片付けるか。いい時間になるだろ」
皆と分担して片付けに入る。
オッサンには車でモーターボートを引いてもらうとして、ジェットスキーとかは手で押
して帰るしかないか。
あれ?てか今考えると、朝どうやってここまで運んだんだったっけ?
気づいたら運び終わってて、好きな物選んで遊べって言って・・・
ま、いっか。考えるだけ損な気がする。
ルミナ達にシートやパラソルを任せ、俺達で牽引車に乗せたジェットスキーやサー
フボードなどを押して帰る。
「お帰りなさい、楽しんできた?」
昨日と同様、キッチンの方から美味そうな匂いと共に聡美さんが迎えてくれた。
「えぇ、皆満足したようですし」
「そう、良かったわ。夕飯の支度はできてるから、冷めないうちに食べましょう」
そのまま皆でダイニングに向かい、それぞれ席に着く。
「「「いただきまーーす」」」
今日の夕飯は昨日とは一風変わった、アジア料理と言うんだろうか。
しかし、それだと日本料理もアジア料理になってしまうな。
えーと・・・
まぁ、感じ的に掴んでくれたらそれで・・・
夕食も食べ終わり、リビングでくつろぐ。
「耀詞N、実はそこの安満府(あまふ)神社で夏祭りがある。皆で行ってくるといい」
と、隣でビールを飲みながらオッサンが言ってきた。
「夏祭りですか?」
「あぁ、年に一回だけだからな。この機会に行っておくのもいいだろう」
今日、早く引き上げたのはそれか。
「へー、いいんじゃない?カワラっち」
「そうね。幸い、この時季にあわせて浴衣は取り揃えてあるわ」
聡美さんが、移動型クロゼットの中からずらりと浴衣が出してきた。
てか、多っ。
そして何処から出してきた!?
それはともかく、絶対聡美さんのじゃないな。
一人で着れる量じゃないだろ、これ。
「うわー、凄ーい。何でもあるのね、この家」
「いやいや、それ実は聡美の物なんだよ。着もしないのに次から次へと買うもんだ
から溜まってしまってな」
前言撤回、聡美さんのだった。
「聡美さん、浴衣なんて着る機会なんて少ないでしょ?」
「耀獅ソゃん、そういう事は滅多に言うもんじゃないわよ」
「あう・・・」
聡美さんにギロリと睨まれた。
「それはともかく、3人とも好きなのを選んで着てみてね」
「へぇ〜。あ、コレ可愛い〜」
「あっ、脩子ちゃんこんなの似合うんじゃない?」
「えっ・・・?そ、そうですか・・・?」
うーん、俺らの割り込む余地はなさそうだ。
大人しくソファーに座って待つことにした。
「それじゃぁ、隣の部屋で着替えていらっしゃい」
背中越しに聡美さんの声。
次いで、トタトタトタとリビングから出て行く3人の足音。
「耀詞N、3人がどんな浴衣を選んだか気になるよな、な」
「おじさん、ビールの飲みすぎで頭のネジ緩んでんじゃないの?」
「なっ・・・!」
素で予想外の展開だったらしく、オッサンが豆鉄砲を喰らったハトのような顔をする。
予想以上のダメージをオッサンに与えたようだ。
「あら、耀獅ソゃん。言うようになったわね」
「親父もおじさんも似てますからね、絡み方が」
「何!?甓尖と同じだって!?それはイカン!」
なんでだよ。
「それにしても、若い子はいいわね。思いたくないけど年だなって感じちゃうわ」
「そうだなぁ・・・」
急にしみじみされても・・・
話が変わるのテンポが早すぎるよね。
「ところで二人は行かないんですか?」
「あ、あぁ。まぁな・・・」
急にオッサンの声がたどたどしくなった。
「うふふっ、実はね」
「聡美っ」
「あら、いいじゃない。別に教えてあげても損にはならないわ」
オッサンと聡美さんの間でいざこざが起こる。
どうやら、二人しか知らない事実があるようだ。
なんだろ・・・
「どうしたんですか?」
「実は、去年の夏祭りの時にこの人ったら、神社のお神酒を一人で全部飲んじゃっ
て、今年は立ち入り禁止になってるのよ」
聡美さんは呆れたような顔で話してくれた。
しっかし珍妙な理由で立入禁止令を喰らったな。
八岐大蛇(やまたのおろち)じゃあるまいし。
いや、どっこいどっこいか。
「そういう事で行けなくてな。代わりに行ってきてくれ、耀詞N」
誤魔化しながらオッサンが言うが、全然誤魔化せてないし。
逆にいい事聞いた気がするんだけど。
今後、何かの時に使えそうだ。
『ガチャ』
すると、リビングの扉が静かに開く。
「あらっ、皆可愛いらしいわ」
いち早く聡美さんが見つけ、声をあげる。
どうやら三人が着替え終わったようだ・・・けど・・・
うっ・・・ 何故か首が後ろに回ろうとしない・・・
ヨ、ヨネの呪いか・・・!?
いや、ヨネは関係ない。
「ホラ、耀獅ソゃん達も見てあげて」
ううう・・・
何でこんなに緊張してるんだろ・・・
ふぅ・・・と一息ついて体を捻る。
「あ・・・」
「ぁ・・・」
ルミナと目が合った。
「「・・・・・・。」」
二人揃って顔を赤くしながら俯く。
「アンタ達、バカじゃないの?」
そうしたら、また美香に怪訝そうに言われた。
えぇいっ!俺だってまともに見たいさ!
問題でもあるのか!
「エヘヘ・・・。ヨウライ君、どう?似合ってるかな?」
ルミナはまだ顔を赤くしながらも、俺によく見えるようにチェリーピンク地にアサガオ
の絵が施された浴衣を手で広げた。
「あ・・・ うん・・・ とっても・・・」
単語がひとつずつしか出ない。
水着も素晴らしかったが、浴衣は浴衣でなかなか・・・
「嬉しいな、ありがと」
ルミナがニッコリと笑いながらその場でクルリと一回転した。
・・・・・・。
可愛すぎる・・・
「はいはい、ノロケ王子様。ルミナっちばっかに目取られてんじゃないわよ」
さっきから美香の方からは文句しか聞こえてこない。
これ以上不満言われ続けるのも面倒だったから、仕方無しに美香のほうに目を向
けた。
「おぉ・・・」
しまった、思わず声が・・・
美香は黒地に藍鼠の菖蒲がプリントされた浴衣を、焔はコバルトブルーに紫陽花、
所々に白色のナデシコがプリントされている浴衣をそれぞれ着ていた。
「どう?水着もいいけど、浴衣は浴衣でなかなかでしょ?」
ん?デジャブか?
さっきもどっかでそんな事考えたような・・・
「あっ、あのっ・・・ 零次さん・・・」
「あ・・・ あぁ、似合って・・・ますよ・・・」
もう、その二人については何も言うまい。
好きにやってくれって感じだ。
「それじゃ、そろそろ行ってきなさい。今が一番いい時間よ」
「そうですか、分かりました行ってきます」
オッサンと聡美さんに留守を預けて安満府神社へと繰り出した。
『ザワザワ・・・』
神社に着くと、祭囃子の鼓笛や、浴衣姿の参拝客が夏祭りを彩る。
境内に出された縁日の屋台や鳥居から本尊まで繋げられた提灯が風情をかもし出
している。
「へ〜、風流ね」
「あぁ、自然の中だから余計にそう感じるんだろうな」
カランコロンと下駄を鳴らしながら参道を通る。
「おっ、金魚すくいだとさ。久々にやってみるかな」
「アホ、参拝が先だ」
早速屋台に目移りする蓮也を諫止した。
そもそも、蓮也自身がこういった『参拝』などという『型』にはまったやり方、堅苦しい
事を好まない。
しかし、それとこれとは話は別だ。
郷に入っては郷に従え。最低限の事ぐらいしないとな。
賽銭箱の前までやってきて、一人ずつ賽銭を入れてから鈴をならして礼をする。
ごくごく一般的な礼拝の仕方だが、最近は知らない人も増えてきているそうだ。
伝統と文化は守らないとな、うん。
参拝を済ませて、本尊を出る。
「さ、それでは・・・」
目の前に広がる屋台を見渡す。
「お楽しみの時間だ」
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