神社の参道沿いに、金魚すくい、べっ甲飴、たこ焼きなど、縁日の屋台でも定番と

いった店が並ぶ。



「あ、射的だ。レン、勝負しなさいよ。サーフィンの借りを返してあげるわ」


「あん?後で吠え面かくなよ?」



かくして蓮也と美香の射的対決が勃発した。


何でも勝負したがるんだよな、この二人は。




::第14話 - story6::




「らっしゃい、兄ちゃん達!弾は10発ずつだよ。但し、各段にある『補充』って的を落

としたら5発追加だ!」



頭にねじり鉢巻を締めた店のおっちゃんが一通りの説明をしてくれる。


しかし、昔の趣を今に残してるというか、何というか・・・

滅多に見れないコスチュームだ。どてら姿というものは。



「へぇ、良心的だね、おっちゃん」


「各段の『補充』の的ね」



蓮也と美香、それぞれ手にした銃にコルク弾を詰める。



「こういっちゃぁ何だが、他の的より少し重いよ」



まぁ、そんな事だろうと思ったけどな。



「へぇ・・・」


「それは楽しみ・・・」



不敵な笑みをこぼしながら二人が同時に構える。


おいおい、おっちゃん。そんな事言ったら、こいつら触発されて・・・



「あんまり狙いすぎると弾が勿体無いからね、無難に普通の景品狙った方が──」



『『スパコーン!!』』



あ〜あ・・・ 言わんこっちゃない・・・ 


一発目から揃いも揃って『補充』の的を落とされてるじゃないの。

蓮也に至っては、片手射撃だし。



「・・・・・・ッッ!!?」



驚愕して口をあんぐりとあけるおっちゃん。



「まずは5発補充・・・と」


「足りるかしら?景品」



唖然としているおっちゃんの代わりに俺が答えてやろう。

多分、景品全部無くなるな。ご愁傷様です。



「さて・・・ 俺達は別の店を見に行くか。全部倒すのに時間掛かるだろうから」


「間違いなく経営破綻しますね、あの店。露店に経営破綻があるかどうかは知りま

せんけど」



何気に零次もストレートだな・・・ 


屋台のおっちゃんが聞いたら卒倒しそうなレベルの発言だと俺は思っている。


どこでも通用しそうな気もするが。



「あっ。ねぇねぇヨウライ君」



ルミナが気になる屋台を発見し、俺の服をクイクイと引っ張る。



「ん?どうした?」


「アレ何?」



ルミナが指差したのは型抜き菓子の屋台だった。



「あぁ、あれは『型抜き』だよ。小麦粉で作った薄い板に、絵柄が描いてあってな。そ

れを爪楊枝とか針とか使って型を削り取るんだ。まぁ、文字通りの型抜きだ」


「へぇー、面白そうだね」


「俺もそれ興味ありますよ」


「何?お前がか?」



思わず確認してしまった。



「失礼ですね。俺だって興味ぐらい持ちますよ」



案の定、ムッとした様子で返された。



「あぁ、悪い悪い。そういう意味で言ったんじゃないんだ」


「零次君、やってみない?」


「そうですね、やってみましょうか」



ルミナに勧められ、型抜きを始める。



『プス。プス。プス。』


「おっ」



初挑戦ながら、順調に小手調べ用の型、『ネコ』を抜いていく零次。



「あんちゃん、巧いねぇ。小手調べ用だけど、その中でも難度が高いんだよ、それ」



淡々と爪楊枝を扱う零次の様子を見て触発されたのか、意外な人物が名乗りを挙

げた。



「私も少しやってみようかな・・・」



なにっ!?ここでまさかの焔か!?



「脩ちゃん器用だもんね。いい線いくんじゃない?」



「そうでしょうか・・・ では・・・」



と言うわけで、焔も参戦。


零次と焔、二人並んでプスプスと型を抜いていく。



・・・・・・。


若干ヒマになってきた。

だって見てるだけなんだもん。



「ルミナ、他を回るか?」


「ウン、そうだね」



二人を型抜き屋に残し、ルミナと二人で他の屋台を回る。


すると、わいわいと盛り上がっている人だかりを見つけた。



「何だあれ?」


「あ、車君と美香ちゃんだ」


「え?」



人だかりの中からルミナが蓮也と美香の二人を発見したらしい。


しかし、俺の角度からじゃ見えない・・・ 

背伸びしてみるが、やっぱり見えない。


ってか、俺の身長で背伸びして見えないってどんだけだ。



「あっ、耀氏[ー!」



俺より先に、蓮也が俺を見つけた。


人だかりをかいくぐり、蓮也と美香が出てきた・・・って、何だよその大荷物。


蓮也と美香は、それぞれの脇にサンタクロースのような白い布袋を手にしていた。


中に何か入ってるのか?



「何だ、その荷物は」


「ん?コレか?景品だよ、射的の」


「そうそう。300円の割りに楽しめたからね。子供らに景品配ってたって訳」



全部むしりとられたんだ、射的屋のおっちゃん・・・


涙流しながら店を畳むおっちゃんの姿が目に浮かぶ。


後で弁償しにいこ。



「と言うわけで、これ配り終わるにも時間かかるから、少しだけ二人で回っててくれ

よ」


「配り終わったら電話するから」


「分かった」



そう言うと、二人は再び人だかりの中に入って行き、景品を配りだした。



「うーん、褒めるべきなのか怒るべきかどっちつかずだな」


「クスッ。いいんじゃない?アレはアレで」


「フフッ・・・ そうだな」



その後、射的屋のおっちゃんの元へ行って弁償代を払ったら、泣いて喜んでくれた。


真剣に廃業するかどうかの瀬戸際だったそうだ。


5回ぐらい謝っておいた。なんとなく。



「射的のお店の人、泣いて喜んでたね」


「無理もない。景品全部持っていかれたんじゃ商売にならないからな」



それからルミナに綿飴を買い、彼女はそれを俺の隣で美味しそうに食べる。



「おいし♪」



無邪気に綿飴にほお張りつくルミナはまるで小動物のようだ。



「あぁ、もうルミナ。ほっぺたに綿飴ついてるぞ、まったく」


「え?」



俺はルミナの頬についてた綿飴を摘んで自分の口に運んだ。



「あっ・・・」


「ん?」


「ヨウライ君・・・」


「どうした?」


「あ・・・ ううん・・・ 何でもないの」



ルミナの表情は少し嬉しそうにも、照れくさそうにも見えた。



「あ、そうだ。ルミナにいい物見せてやるよ」


「えっ?」


「え〜と・・・ ここじゃ見れないから場所移動するか。おいで」



俺はルミナを連れて安満府神社から抜け出し、ある場所へと向かった。



「ねぇヨウライ君。だんだんと神社から離れてくけど、大丈夫なの?」



徐々に灯りが遠ざかっていき、ルミナが不安げな声を出す。


俺も最初にここに来たとき、ルミナと同じように不安になったなぁ・・・

でも、それすら吹き飛ぶような所だよ、この先の場所は。



「大丈夫、もうすぐだから」



確か、そこの小川を越えれば・・・ 

あった!



「ルミナ、足元気をつけてな」


「うん・・・っしょ」



さ、着いた・・・ 


この場所はいつまで経っても変わらないな。



「ルミナ、ホラこっち・・・」



俺はふいにルミナを手招きする。



「え?う、うん」



不思議そうな顔で俺の元に歩み寄るルミナ。



「見てみな」


「わぁ〜・・・」



俺がルミナに見せたのは小さな池。

しかし、他と違っているのはこの池が蛍の繁殖地であり、たくさんの蛍が葦などにそ

の身を寄せて無数の光を放っていることだった。


もはや幻想の世界と言ってもいい、まるで別世界のような景色。


ルミナも声を小さく漏らすぐらいで、この景色に見とれている。



「凄いだろ?」


「うん・・・」


「ここは、この島でも特殊な場所でな。島の人でも知ってる人が少ない場所なんだ」



俺はそう説明しながら腰を下ろして葦に指を添える。


すると、一匹の蛍がスッと俺の指に移った。



「ほら・・・」


「わぁ、キレイ・・・」



ルミナも腰を下ろし、俺の指で羽を休める蛍を二人で囲むように見つめる。



「こんな環境だから、蛍も人間に敵意は持ってない。ちょっと手を出してみて」


「え?うん・・・」



俺はルミナが差し出した手の上に蛍をゆっくりと移した。



「わぁ・・・」



蛍は少しの間、ルミナの掌の上で休んだ後、小さくも逞しい光を残して飛び立って

いった。



「ねぇ、ヨウライ君・・・」


「ん?」


「凄いね・・・」


「そうだな・・・」



多くの言葉はいらなかった。

彼女と二人でこの時間を共有できている事だけで十分なのだから。


顔を横に向けてルミナの顔を窺う。

まだ飛び交う蛍に見とれているのか、俺の視線には気付いてはいない。



「あの・・・ 私の顔に何か付いてる・・・?」


「ううん、何も」



どうやら、気付いていたようだ。はずかし・・・


だが、この時の俺は自分の行動を否定するような言葉では言い返さなかった。



「不思議だね」


「え?」


「ホントの事いうと、私ヨウライ君と二人っきりの時っていつもドキドキしてるの。でも・・・」



ルミナが俺と目を合わせる。



「今は・・・ はずかしいとかそんな事全然ないんだ・・・」



あぁ、そうだ─・・・ 


すると、無意識の内に彼女を抱きしめていた。



俺は、キミの事が好きなんだよ─・・・ 


だって・・・ キミと同じ事を思ってたから・・・



「ヨウライ君・・・」


「ん?」


「大スキだよ・・・」



それはとても、とても小さな声だったが、何よりも鮮明に聞き取れた。



「あぁ、俺もだよ・・・」


「えっ・・・!?」



驚いたような声でルミナが俺の顔を見上げた。



「俺も・・・ ルミナが大好きだよ」



遅くなったけど・・・ これがキミへの答え。

俺の精一杯の告白。


そうルミナに告げると、彼女は数秒間動きを止めた。

恐らく、頭の中で状況を把握しようと必死なのだろう。



「ぁ・・・ 嬉しいっ・・・」



そう言うと、ルミナは俺の胸にさっきよりも深く顔をうずめた。

それと同時に、俺の腰に回す腕の力が強くなったのが直に分かった。



「ヨウライ君に・・・ ヨウライ君に言って貰うのが、一番嬉しい・・・」


「ありがと・・・」



ルミナがもう一度顔をあげ、円らな瞳で俺を見つめてくる。


少しの間、お互いを見つめ合い、そして何かに引き寄せられるかのように二人の顔

の距離が近づき・・・



ゆっくりと、ゆっくりと唇を重ねた・・・ 



何も考えられない。何も考えていたくない。

この時間が、どれだけ貴重なものなのかを、うっすらだけど分かっているつもりだ。


次に目を開けた時には、既にルミナの顔が離れていて、微笑んだ表情を俺に向け

ていた。


月明かりでよく分からないが、彼女の顔が紅潮しているようだった。

恐らく、いや、確実に俺も紅潮していることだろう。



「えへへ・・・ 私のファーストキスだよ」


「俺も。ルミナで嬉しい」


「うんっ♪」



俺は、もう一度ルミナを抱きしめた。


浴衣の上からでも彼女の体温が伝わってくる。



って・・・ 



『ボンッ!』



き、急に恥ずかしくなってきた・・・!!


流れに身を任せたとは言え・・・


キッ、キッ、キキキキ・・・!!

キスなんて・・・!



修行不足でござる!

精進不足でござる!! 

誰だ、このキャラ!!?


あぁぁ・・・

一度パニクると駄目な俺・・・ 



「そろそろ戻ろっ。じゃないと、何言われるか分かんないよ」


「そ、そ、そう・・・だな・・・」



しっかりしろ、俺。


反転してダメキャラになってるじゃないか。




『ドクン・・・』




その時、自分の胸が揺れ動いたのがはっきりと分かった。


だけど・・・ 違う・・・

何かが違う・・・


具体的には分からない。


が、コレは喜べるような感情じゃない。


燻っていた何かが、音を立てて動き出したような・・・



「ヨウライ君?」


「・・・えっ?」


「どうしたの?」


「あ、いや。何でもない、行こう」



先を歩くルミナに追いつき、どちらからもなく手を繋いで神社へと戻った。



夜風が夏の終わりを示すように、少し冷たく吹いていた。