長い夏休みが明けた9月。


廊下や教室で夏休みボケと闘う者をよく見かけた。


休み明けの実力テストの結果は言わずもがな・・・


だが、結果に落ち込んでいる生徒は一人も見受けられない。

そう、それ以上の行事が俺達を待っていたからだ。




::第15話 - story1::




『ドーン!ドーン!』



一世代前の漫画で見られた号砲が鳴り響く秋晴れ。


絶好の体育祭日和と言っても過言ではない。


今日は体育祭。

2学期が始まって最初の行事だ。


こういった学校行事の日のみ保護者、特に父兄の学院の立ち入りが許可される。


と言っても、許可証と本人の承認が必須条件なので、チェックが厳しいことには変

わりは無いが、今はそれさえも何とも思わせない雰囲気に学院全体が包まれてい

る。


とりあえず、俺は本部にいた。




・・・・・・。


本部・・・?



『さ〜て始まりました!!記念すべきは第1回、聖クライアンヌ女学院の体育祭!3

院生は最初で最後の体育祭となりますので、より一層頑張って欲しいですね〜。

あ、申し遅れました、司会進行は私、放送部の品吉(1院生)がさせて頂きますの

で、よろしくお願いしま〜す』



ささやかながら、パチパチと拍手の音が聞こえてくる。



『そしてそして、ゲストとして私の横には当学院生徒の90%以上の支持率を誇る

“月下美人の麒麟児”事、甓尖耀獅ウんに来て頂いていま〜す!』


『どうも・・・』



どんな紹介の仕方だ・・・



『さてさて甓尖さん、黄色い声援を受けながらここに座っている気分はどのようなも

のでしょうか?』


『あまりいい気分ではありませんね、そもそも何でここにいるのかすら解せないです

し。第一、紹介文はつっ込み所が多すぎて何も言えないんですが』



率直な感想を羅列させてみた。

少しでも俺の気持ちを分かれ、コンチクショウ。



『いえいえ、支持率90%以上は確かですよ。3日前にアンケート取ってますし』



と、品吉がアンケートの束をドスンと机の上に置く。



『いつ取ったんですか・・・?これ・・・』



俺はパラパラとアンケートの束を捲りながら言った。



『これはですね、我が学院が誇る特殊工作員達によって取られました。勿論、アン

ケートを取った皆さんの記憶はしっかりと消させて貰っていますんでご心配なく〜』



当たり前だが、どよめきが起こる。

それ犯罪じゃないのか?



『それに不支持に思っている人と言えば、生徒会長の勾野さんぐらいでしょうかねぇ』



品吉は何処からか取り出した『マル秘』と書かれているメモ帳を取り出して確認しつ

つこぼす。


あの人か・・・



「品吉さん!余計な事は言わないで頂戴!!」



遠くの方から勾野さんの怒鳴り声が聞こえてきた。

存在感溢れてるな〜、あの人。



『後は無類の女好きの女子生徒とかもですね』



そんな情報はいらんだろ。

どっから調べ上げてるんだ?一体。



『それはそうと甓尖さん。体育祭の準備、お疲れ様でした』


『えぇ・・・ 思い出したくもない・・・』



そう・・・

体育祭の前日までが悪夢のような日々だった。


それは9月上旬、夏休み明けの試験終了後に学校全体ですぐさま体育祭の準備に

取り掛かった頃の話だ。





『ワイワイガヤガヤ』



「活気に溢れとりますなぁ」


「ま、初めてだしな。何もしなくても力は入るんだよ」



俺は蓮也と零次を連れて校舎内を歩いていた。


学院の至る所で作業が進み、廊下では資料を持った生徒が走り回っている。



「それにしても、全て一から製作するんでしょ?間に合うんですか?」



もっともな疑問だよ、零次。


こういう事は夏休みの頃からしていてもおかしくないんだけど。



「あっ、甓尖くーん」


「ん?あぁ、あなたは隣のD組の得意科目が理科の吉野さん」


「誰に説明してるの?」


「いや、何でもない。どうかした?」


「そうそう、山下先生が呼んでるよ。職員室まで来てくれって」


「そう、ありがと」


「んじゃぁ、耀氏B俺たちはふらふらしてるわ」


「あぁ」


「あ、3人ともだよ?」



「「はい?」」




職員室─



「お呼びですか?」


「あら、3人ともごめんなさいね。折り入って頼み事があるの、これを見てくれる?」



山下先生から一枚の紙をそれぞれに手渡される。


紙には、体育祭の配置図かな?

トラックを中心に色々な物の設置場所や移動準備事項などが描き記されていた。



「これは?」


「まぁ見ての通り、体育祭の配置図ね。魅堂君、左上から『用意する物』のリストを

読み上げてくれる?」


「看板・トラック隔離柵・テント20張・本部の机10脚・入退場門・空砲。多いですね」


「えぇ、そうね。これから先も必要になるから」



そう言うと、山下先生はマグカップに入っているコーヒーを一飲みした。



「ところで、俺らはどれを担当すればいいんですか?」


「あら、車岳君。いい所に気がついたわね」


「はぁ・・・」


「『どれ』じゃないのよ。『これ』よ」


「「「・・・・・・??」」」



あの、イマイチ理解できないんですが。


『こそあど』だけで物事が済めば問題ない。



「これ・・・ですか・・・?」


「そうよ」



も、もしかして・・・



「『これ全部』ですか・・・?」


「えぇ、そうよ?」



何で、さも当たり前のような顔してるんだこの先生は。



「ちなみに経費は惜しまないわ。だから、あなた達の思うようにやってみて。期限は

体育祭の3日前だから・・・ 残り10日ね。私は今から会議があるから。それじゃ、よ

ろしくね」



山下先生は、本当に言う事だけ言って職員室から出て行った。



「「「・・・・・・。」」」



空しく取り残された俺たちは、しばらくそこから動けなかった。



「さて・・・」



5分してようやく出た言葉がこれだった。



「マジかよ・・・」


「チッ・・・」


「はぁ・・・」



俺らは、十二分にヤル気を無くして職員室を後にした。




『トンテンカンテン』



と言う訳で、任された以上はやらないといけないので作業を始め出す。



「くそー、愚痴言うつもりないけどさー。やっぱりこういう役が回ってくるんだよなー」


「十分愚痴ってるじゃねえか」



零次の言う通りだ。

でも、蓮也の言い分も実質頷けるんだよなぁ。


そもそも、5m四方の巨大学院章の看板を3人で3日間の内に作れる筈ないだろう。

そう思いません?皆さん。


ペンキでの色塗りは美術部の人に任せるつもりだけどさ・・・

てか、3日以内に看板を仕上げてしまわないと他の作業に回れないんだよなー、チ

クショウ。



「あ、甓尖君ー」


「あれ?どうした、摩黄(悪イエロー)」


「笹川先生が呼んで来て欲しいって」



え・・・ この忙しい時に・・・



「何処?」


「B棟の2階にある情報技術室にいるよ」


「分かった、ありがと」


「うん」



摩黄は小さく手を振りながら俺に背を向けて走っていった。


彼女は悪レンジャーの中でもマシな方だろう。

成績もダントツだし。



「蓮也、零次。悪いけど、ちょっとだけ行ってくるから、作業を続けてて」


「了解ーー」



蓮也と零次が背中越しに手を上げたのを確認して、情報技術室へと向かった。



「失礼します」


「あっ!甓尖君ーー!!」


「入るなり叫ばないでください、先生」


「でもっ!でもっ!」


「どうかしたんですか?落ち着いてください」



笹川先生の顔が若干涙目だった。何事だ?



「パソコンの使い方が分からないのーー!!」


「・・・・・・。」



頭痛が・・・


心配して損した。



「分からないんなら、どうしてパソコン使う仕事を引き受けたんですか」


「わ、私だって『これぐらいはできるぞ』って所を、他の先生にも見せたくって・・・」


「頬膨らませても無駄です。まったく・・・」



この人は何を考えて生きてるんだろ。



「それで?一体何の作業ですか?」


「体育祭のプログラム作りなんだけど・・・」



誰でも出来そうな気が・・・



「分かりました、原本はどれですか?」


「コレよ。できるかしら?」


「えぇ、これぐらい15分もあれば」



有言実行、俺は即行でプログラムを完成させた。



「はい。後は両面コピーで印刷すれば終わりですよ。っと」



最後にエンターキーを押して〆と。



「ありがと〜!助かったわ〜〜!」


「今度からは自分の技量範囲内の仕事をお願いします・・・」



俺は最後に軽い皮肉を言ったが、先生には届いてなかったようなので、小さくため

息だけついて情報技術室を後にした。



「悪い、片付けてきた」


「おー、お帰りー」


「あれ、結構進んでるんじゃないか?」



思いの他、作業は順調に進んでいた。



「えぇ、寸法さえ分かればこれぐらいの作業は」



さすが零次、理数系。


蓮也も手先は器用だから、指示通りに動けば能力以上の力を発揮する。


その力を普段で使えないのかと。



「それより、さっき生徒会の流頴娃って人が来て耀詞トんでたぞ?」


「え?俺?」


「うん、今は別の用事で違う所行ってるって伝えたら、帰ってきたら生徒会室に来て

欲しいってさ。手が空いたらで構わないって」



次から次へと。

しかし、このまますぐに流頴娃さんの所に行くのも二人に悪いよな・・・



「でも、先にこっちを済ませたいな」


「今日中には終わらないでしょう。まだ4分の1にも達してませんし・・・」


「まぁ、出来るだけやってみるさ」



腕をまくって再び作業に取り掛かる。




『シューッ シューッ』



蓮也が鉋を巧みに扱い、次々に鉋屑を排出していく。

しかし巧い。


木製の校章の側面が見る見るうちに滑らかになっていく。



「お前、巧いな」



思わず、口からポロリとこぼしてしまう。



「へ?」


「意識してなくてコレですからね・・・ 職人殺しですよ」



まったくだ。

鉋使うに何年も修行している職人さんなんか、ごまんといるって言うのに。



「よしっ、出来た」


「お疲れ」



俺は蓮也に缶コーヒーを投げた。



「サンキュ。やっと3分の1だな」


「まぁ、この人数にすれば全然早い方だろ。零次もお疲れ」


「すいません、いただきます」



『パキッ』



同時進行でプルタブを開け、作業を一旦止めて小休憩。


空を見上げると、日が既に西の方へと消えていこうとしていた。



「日の入りも早くなってきましたね」


「あぁ・・・ 時間が足りない人にすれば、厄介なもんだ」



俺はズズッとコーヒーを啜り飲んだ。


時計は5時を指そうとしていた。



「そう言えばさ耀氏Aお前生徒会室行かなくていいのか?」


「あっ!!」



ヤベッ!完全に忘れてた!



「今日の看板の作業はこれで終わりましょうか」


「とりあえず行ってこいよ。俺らは柵とか入退場門とかについて先生から聞いとくよ」


「悪い、頼んだ。明日も朝一で看板作業な。よろしくっ」



俺は簡潔に明日の予定を伝えて全速力で生徒会室に向かった。




・・・・・・。


生徒会室・・・?



って、生徒会室って何処にあるんだ!??