さて、問題を整理してみよう。
俺はルミナに百合華の事は話していたが、実際に会わせてはいない。
また、百合華にはルミナの事すら話していない。
手順を踏んで紹介しようと思っていたが、運命というのは何とも皮肉なものだ。
一気に紹介する手間が省けたじゃないか。
うん、これぐらいポジティブに考えておこう。
そんな状況じゃないけど。
::第15話 - story3::
「ヨウライ君、この子は・・・?」
ルミナが少し猜疑の混じったような目で俺を見てくる。
いや、そりゃそうだろうさ。
時間がないからって言ったって、正式な彼氏彼女の関係だ。
自分の彼氏に自分以外の女の人が馴れ馴れしく話しているのは良く思わない。
俺がルミナの立場でもそうだろう。
「あぁ、紹介しとくな。俺の妹の百合華。初めて会うんじゃないかな?」
「あ、そうなんだ。初めまして、幸田・ルミナ・恵子って言います、よろしくね」
「こんにちは、お兄ちゃんがお世話になってます」
あちゃぁ・・・ 機嫌悪いよ、この声。
「あっ、いたいた。ルミナさん」
おぉっ!助け舟!!
「あれ?百合華ちゃん」
零次は百合華の姿を見て少し目を丸くした。
零次もまさか百合華が見に来るとは思わなかったんだろう。
「魅堂さん、こんにちは。胴衣も似合いますけど運動服も似合いますね」
「はは、ありがと。あ、そうそうルミナさん、米谷が呼んでましたよ。多分二人三脚の
練習じゃないですかね」
「え?ホント?分かったありがと。それじゃ、ヨウライ君、また後でね」
ルミナは駆け足でパタパタと生徒席の方へ走っていった。
「それじゃ、百合華ちゃん。ゆっくりして行きなよ」
「うん、ありがとう」
零次も百合華にそう告げてルミナの後を追うように生徒席へと歩いていく。
「あ、そうだ。お母さんとお父さんも来てるよ。あ、来た来た。お母さーん!お父さー
ん!」
百合華の呼ぶ声の方向から、親父とお袋が並んで歩いてきた。
が、意外な事に2人にはSPが付いていない。
「あっ、耀氏B百合華。一緒だったのね」
「なんだ、せっかく捜してやろうと思っとったのに」
嬉しそうなお袋と対照的に残念そうな親父。
何故拗ねる。
「それじゃ百合華ひとりで廻ってるね、出店もあるみたいだし。お兄ちゃん、頑張っ
てね〜」
「お、おいっ。百合華っ!」
しかし、百合華は俺の声には耳を貸さずにSPを引き連れて何処かへと行ってしま
った。
「何なんだよ・・・ 一体」
「そう言えばな、耀氏v
すると、今まで黙ってた親父が口を開いた。
「さっき近山から連絡があってな」
「え?」
「あの子ね。本当は大会の休憩時間の合間に抜け出して来てたらしいのよ」
「何だって?」
「耀獅フ姿見れば頑張れるからと言ってな」
「・・・・・・。」
「だから、今からでも遅くないわ。行って励ましてきてあげて」
俺はお袋に返事を返す間もなく、すぐに百合華の後を追った。
この話が本当だとすると、行き先は・・・ 仮設駐車場。
全速力で仮設駐車場に行くと、止まっているロールスロイスに今まさに百合華が乗
り込もうとしていた。
「百合華っ!」
俺が大声を出すと、百合華はすぐに気付き、少し驚いた様子でこっちに向きかえっ
た。
「あ、お兄ちゃん。どうしたの?」
気のせいだろうか、いつもの百合華の声じゃない。
少し、ドクンと俺の胸が痛んだ。
「今から競技なんだって?」
「えっ、知ってたの?」
百合華は驚きの声をあげた。
「何でそんな嘘ついたんだ」
「余計な心配させたくなかったんだもん。お兄ちゃん、なんだか忙しそうだったし」
百合華は俯き加減で頬をぷぅっと膨らませた。
いや、違う。
その行動をとる事で本心を俺に悟られまいとしているだけだ。
「頑張ってこいよ。いい成績でたら百合華がこの間言ってた新しいテーマパークに
連れてってやるよ」
「えっ!ホント!?」
すると、百合華の顔がいつもの明るいものに変わった。
「あぁ、本当だ」
「約束だよ、絶対約束だからねお兄ちゃん」
「あぁ」
しっかりと指切りを交わし、会場へと向かう百合華を見送った。
「・・・・・・。」
・・・俺は間違っていた。
百合華にルミナを合わさないようにしているつもりが、いつしか俺自身が百合華と関
わらないようになっていたんだ。
兄失格だな・・・
たった一人しかいない妹だ。大切にしてやらないでどうする。
俺は自分の頬を強めに叩いた。
少しアンニュイになりながら、ゆっくりとした歩幅で学院に戻る。
校門付近で再びお袋と合流したのは、それから5分ぐらいした後だった。
「あ、お帰りなさい耀氏B話はできた?」
「あぁ、なんとか間に合ったよ」
「そう」
お袋はその確認だけすると安心したような表情を見せた。
「あの子も今、丁度微妙な年頃なのよ」
「どういう事?」
「反抗期と思春期ってところかしらね」
「分かるんだ・・・」
「伊達に十数年も母親やってないわ。耀獅フニキビ1つだって見逃さないんだから」
お袋がフフンと鼻をならす。
「さいですか。あれ?ところで親父は?」
さっきから姿が見当たらない。
でも、最初から存在は薄かったような・・・
「あの人なら、吉原理事長に挨拶をしに行っているわ」
「ふーん・・・」
まぁ、俺をここに引き入れた張本人だしな。
『甓尖さーん。ゲストの甓尖さーん?早く本部に戻ってくださーい』
と、スピーカーから鬱陶しい呼び出しがかかる。
あいつ、俺を休める気さらさら無いんじゃないのか?
「さ、行ってらっしゃい。最後まではいてあげれないけど、応援してるわ」
「あぁ、分かった。それじゃ」
お袋に別れを告げて本部に走る。
おっととと・・・
肝心な事言うの忘れてた。
「お袋ー!今日、幸田さん来て・・・って、あら・・・?」
振り向いた時にはもうお袋の姿は無かった。
早。
「〜〜〜・・・!!」
煮え切らない感じだったが、まぁいいと思い俺は本部の方へ戻った。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい。どこをほっつき歩いてたんですか」
「ま、ちょっとな・・・」
俺は言葉を濁してパイプ椅子に腰を下ろした。
『さぁ、ゲストの甓尖さんが帰ってきたところで次の競技へ行きましょうっ。プログラ
ム5番、学年対抗、玉入れです』
「位置について、ようぃ・・・」
『パァンッ!』
ピストル音と同時に選手が一斉に玉の元に駆け寄って、手当たり次第に玉を籠へ
と放り投げていく。
立っている籠の数は3本と赤白黒の玉。
黒って何だよ。
各学年選抜の40名で競技を行って、一番玉が多かった学年に得点が入るという訳
か。なるほどね。
しかし黒って何だよ・・・
『さぁー、BGMは“組曲「道化師」より「道化師のギャロップ」”のもと、必死に高さ
3m65cmのカゴを目掛けて玉を放り込む選手たちー!』
何気に詳しいな、この実況。
そんな名前なんだ、この曲名。
覚えとこ。
『しかし、どのカゴにも玉がなかなか入らない!学年選抜なのに、これは愉快ー!』
誰でもいいんだけど、頼むからこの場所と替わってくれないかな。
俺まで巻き添えを喰らいそうだ。
『さー!選手の皆さん頑張ってください、残り時間も僅かとなってきましたよー!生
徒席の皆さんも応援してあげてくださいねー!!さぁ、甓尖さん。頑張ってる選手に
一言っ!』
無茶ブリかっ!!?
『えっ!?あ、あの・・・ 頑張ってください』
『はいっ、ありがとうございます!見てください、急にヤル気の出てきた選手たちを!』
誰か替わってくんないかなぁ・・・
俺の目線は明後日の方向を見ていた。
おや?あれは・・・
と、俺の目線の先に腕いっぱいに玉を抱えた亥垣先輩が映った。
必死でカゴ目掛けて放っているけど、如何せん少し身長が足りないかな。
玉は虚しく空を切って地面に落ちる。
あれ?あのデカいのは・・・
更に、そこに真正さんもやってきて、亥垣先輩に声をかけている。
何の会話してるんだろ。
すると、真正さんが急にスッとしゃがんだ。
おっ?亥垣先輩が真正さんの肩に乗ったぞ?
なるほど、肩車か。
へ〜、結構優しい面もあるんだな。
雨降らないかな?
それはともかく、約2m近くまで上がった亥垣先輩は余裕を持って玉を投げ入れて
いた。
良かったね。
って、げっ!
その状態で真正さんまで玉を放り投げてる!
『お〜っと!3院生選抜に動きが!背の高い選手が背の低い選手を肩車している
ぞー!これは大胆な発想!しかし、玉が次々に入っていくー!』
考えたものだ。
結局は、真正さんの身長で十分カゴに届くから、効果は2倍って事だな。
利害関係も一致してるし、あの人にすれば中々いい案じゃないか。
俺は普通に感心した。
『ピッピ〜〜〜〜〜!!!』
すると、そこで終了の合図のホイッスルが鳴り響く。
『さぁ、それでは結果発表です。それぞれのチームが玉をふたつでひとつと数えて、
7色の尾が付いた玉が最後に投げられた学年が勝利となります!それでは行き
ましょう、ひとーつ!ふたーつ!』
品吉の声と和太鼓の音にあわせて、カゴに入った玉が係の人によって空高くへと投
げられる。
俺もそれを固唾をのんで見守る。
『さんじゅうななー!さんじゅうはちー!』
と、ここで2院生の玉が尽きた。
2院生の生徒席から残念そうな声があがる。
『よんじゅうにー!よんじゅうさーん!おっとぉー、ここで1院生最後の玉が放り投げ
られたー!』
おっ、って事は3院生の勝ちだな。
『しかし、3院生も47個目で最後でした。甓尖さん、なかなかの接戦でしたね』
『そうですね、やはり例の肩車のヤツが玉数を稼いだ決め手になったんじゃないで
しょうか』
『何はともあれ、プログラム5番、学年対抗玉入れは3院生の僅差での勝利でしたー。
選手退場っ』
玉入れの選手たちは、拍手に包まれながら退場門から各席へと戻っていった。
いやー、後半は中々盛り上がったな。
こういうので続けばいいんだけど。
『次は男子200m決勝です。出場選手は入場門に集まってください』
俺の隣で品吉のアナウンスが入る。
・・・・・・?
男子200m決勝??
『あ、あの・・・』
『何ですか?』
『そんなのプログラムにありましたっけ・・・?』
先程から何度もプログラムを確認しているが、そんな単語は一つも出てきていない。
『あるじゃないですか、ホラここに』
品吉がプログラムの隅の方を指差した。
【尚、途中で男子の種目が入ります。お楽しみに】
『・・・・・・。』
俺は言葉を失った。
明らかに付け足したとしか思えないような手書きだったからだ。
『さ!甓尖さん、頑張ってきて下さいね!』
『あの・・・ 頑張るも何も・・・』
俺が二の足を踏んでいると、郷を煮やした品吉が指をパチンと鳴らした。
『ガシッ!』
急に両腕を掴まれたと思ったら、途端に体が軽くなった。
「えっ!えっ?」
左右に首を振ると、身長2m近い上半身裸の黒人ボディービルダーっぽい人に持ち
上げられていた。
ニッコリと笑うと見える真っ白な歯がなんとも爽やか・・・
って!違う違う!
「だ、誰だお前らー!?」
思わず叫んだが、黒人のマッチョ二人は真っ白の歯を見せるだけで何も答えない。
『さ、では頑張って行ってらっしゃーい!』
「お、おい!品吉ー!?」
そのまま、多少、いや、ほぼ強引に俺は入場門に連行されていった。
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