「・・・・・・。」
入場門には俺よりも早く、蓮也と零次が同じような状況下で待たされていた。
「お前らもか・・・」
「抵抗したら睨んでくるんだよ、コイツら・・・」
「しかも凄い力ですよ・・・」
両脇を抱え上げられ、宙吊りの状態で話をする俺達の姿がなんとも情けない。
『さー、入場門でヤな顔してる3人衆。とっとと諦めて用意してくださーい。ここで止
めるなんて言い出したら、女子生徒が暴動起こしますよー』
あのやろう、笑って言うんじゃねえよ。
しかし、生徒席から異常な視線を感じるんだよね。
若干怖い。
「はぁ・・・ しょうがないか」
俺は小さくため息をついて観念する事にした。
::第15話 - story4::
「ま、分かってると思うけど、やるからには手加減しないぞ」
「へっ、誰に言ってんだよ耀氏v
「恨みっこ無しっすからね」
蓮也も零次も不適な笑みを見せながら準備運動を始める。
『さぁ、入場門では観念した3名が準備運動を始めたところで参りましょう!!プロ
グラム6番、特別競技!男子200m決勝!!選手!入っ場っですっ!!』
異常なほど無意味に力の入った進行役の声に少々のうざったさを感じながらも、俺
達は入場門からトラックの手前まで出てきた。
それはともかく、物凄い生徒席からの声。
軽く、マイクを通しているはずの品吉の声が聞き取りづらい。
『ちょ、ちょっと、生徒席の皆さん!はしゃぐ気持ちはよ〜〜〜く解ります!解ります
が、ここまで声が大きいと走る3人の気が散っちゃうので抑えて下さい!!』
尚もそれでも歓声は止まない。
いやー、モテモテだなー、この2人ー。
『それでは、選手紹介を行います』
おい、さっきまでそんなの無かっただろ。
『第3レーンを走ります、麒麟児を守るクールな騎士!硬派なキャラと鋭い眼光で
純情な女子生徒のハートを射抜きまくる!魅堂零次選手ー!』
保護者来てんだぞ。品吉の奴、判ってんのか?
『続きまして、第4レーンを走りますは、甘いマスクと声で女子生徒を魅了!その割
には、本人にその気がまったく見られない、まさに生殺し状態!明るい天然の美男
子!車岳蓮也選手ー!』
だから、保護者来てるんだってば・・・
『そしてそして!第5レーンを走りますは、前の2人を率いる学院の最高峰にして最
強の美形!その美貌に女子生徒からは憧れと嫉妬!さらに、一言喋るだけで生徒
のハートを痺れさすカリスマ性と容易に近づく事のできないオーラの持ち主!唯一
無二の我が学院の麒麟児!甓尖耀資I手ーーーー!!』
『『『キャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!』』』
ふぅ、耳栓持ってて良かった。
俺は耳の奥から耳栓を引っ張り出した。
「おい、耀氏Bそんな便利なモン、俺らに貸そうという気はないのか・・・?」
「耀獅ウんのおかげで、こっちは鼓膜が破れそうなんすよ?」
2人は両手で耳を押さえていたにも関わらず、鼓膜まで響いていたようで、恨めしそ
うな目でこっちを見ていた。
「おー、それは災難だな。けど、大体の予測をしていなかったお前らも悪い」
「む・・・」
「んん・・・」
俺のセリフが当たっていたんだろう、二人は押し殺したような声を出して黙り込んだ。
「ま、走りに影響は無いだろ。大いに頑張れ」
「誰だよ」
「俺も聞きたいところだな」
「耀獅ウん、時々イタコみたいになりますね」
とても今から競い合うとは思えない、この緊張感の無さ。
多分、今一番緊張してるのは他でもないピストルを既に構えてる係の先輩だろう。
まばたきしてないんじゃない?
目、乾きますよ?
『さぁ、ピストル係が既に硬直し始めましたので、早速レースに参りましょう。何せ、
1回こっきりですからね。皆さん、し〜〜〜っかりと目に焼き付けておいて下さいね
〜』
「いっ、位置についてっ!!」
ツッコミたい所だが、ここは勝負を優先しよう。
俺達は、静かにクランチスタイルをとる。
「よぅいっ!」
一瞬の静寂が辺りを包む。
そして──
『パァンッ!!』
「「「キャーー!!」」」
「「頑張ってーー!!」」
一瞬にして辺りが大歓声に包まれた。
3人同時にスタートを切り、第1コーナーを回る。
零次が俺らよりも半歩ほど前に出ていた。
『うおおお!!速い!なんという速さでしょうか!!走者は見る見るうちに第2コー
ナーを回って直線に入ります!!只今現在、魅堂選手が半歩分リードを奪ってお
ります!』
くっ!速いな、零次!こっちは何とか追いつく事に必死だっつーの!
『さあ!レースも佳境です!!第3コーナーから第4コーナーへと走者が移り!最
後の直線にぃー・・・ 入ったぁーー!!』
次の瞬間、品吉のボルテージが最高潮になった
『おおおおおおお!!速い速ーーい!!並んだ並んだ!!3人横並びでラストス
パアァァーーーートォォ!!!!』
長机に片足を乗せて、マイク持ち上げて大絶叫する品吉。
品性の欠片も見当たらない。
『そして今ゴーールイーーーーーン!!!』
ひえー!つ、疲れた・・・
ダメだ、やっぱり体力落ちてる。
ゼーゼー言いながらチラリと零次も蓮也に目を向けると、2人とも精力を根こそぎ
持っていかれたように息を荒げていた。
『順位は!?順位判らない!?ハイスピードカメラで見てみましょう!』
そ、そんな物まであんのかよ・・・
とにかく今は、呼吸を整える事で精一杯だった。
『出ました!これは・・・ 魅堂選手です!コンマ数秒の差で魅堂選手が1位です!
続いて車岳選手!そ、そして何と予想外!!甓尖選手が3位でフィニッシュ!??』
あ、あのな・・・
3人しか居ないんだから可能性高いに決まってんだろ。
『いやー、それにしても凄まじいコンマの戦いでしたね。会場の皆さん、壮絶な戦い
を演じてくれた3人に大きな拍手をー』
俺達は会場360゚から、大きな拍手を貰ったけど、正直、応えてる余裕ないから・・・
とりあえず誰か酸素ボンベくれ・・・
「お、思ったより白熱しましたね・・・」
零次が両手を腰に当てながらそう言った。
「そ、そうか?結構アップアップだったぜ?」
蓮也は前にかがみ、両手を膝に当てて呼吸を整えていた。
「まいったな、僅差とはいえ・・・ 俺も年かな」
俺は笑いながらゆっくりと息を吐いた。
『それでは選手退場です!』
スピーカーから流れるBGMに足を合わせて俺たちは退場門から自分の席へと戻
った。
『あ、甓尖さん?本部に戻ってくださいよ〜?』
無理だった。
『ガシッ!』
「え?」
まさかと思いきや、再びマッチョ登場。
案の定、俺はまた同じように宙ぶらりんの状態で強制的に本部へと戻らされたのだ
った。
『おかえりなさい、お疲れ様でした』
『あっはっはっは。そう思うなら少しぐらい休ませろよって話ですよね、こんちくしょう』
笑い声と裏腹なセリフが俺の口から出ていた。
っていうか、笑っていないと自分でも何をしでかすか分からない状態だから仕方ない。
『それなんですが、甓尖さんにひとつ内緒にしておいた事がありまして・・・』
『なんでしょう?』
頼むからこれ以上俺を刺激すんなよ、ついには暴れるぞ。
『実は、甓尖さんの本部での役目は午前中までなんですー』
『えっ!?』
「「「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」
『はいは〜〜い。皆さんの気持ちも分かりますが、今朝、急に言われてここに座っ
ている甓尖さんの身にもなって下さいねー』
何ていい事を言うんだお前は。
そう思いながら、品吉の隣で俺はせっせと生徒席に戻る準備をしていた。
『さ、甓尖さん。お疲れ様でした。午後からの競技にも参加するそうですね、頑張っ
てください』
『はい、ありがとうございます』
『それでは皆さん。甓尖さんに盛大な拍手を〜』
俺は周りから拍手を貰いながら、二・三度頭を下げた。
『と、言う訳ででして、午前の競技は以上で終了です。午後からも引き続き、品吉の
進行でお届けいたします。皆様、お昼にして暫くの休憩ををお楽しみください』
品吉の放送で午前の部が終了し、昼休憩に入った。
何だったら親父達と昼飯食べようと思って親父達の元に行くと、2人して幸田夫妻と
食事に行ってしまっていた。
ルミナが少し苦笑いで親達を見送った事を教えてくれる。
まぁ、一番ノリ気なのは多分うちの母親だけなんだけどさ・・・
あれ?そう言えば俺はまだ幸田夫妻と会ってないぞ??
と、言うようなことをルミナに告げたら、
「別にいいんじゃないかな。またウチにくればいつでも会えるんだし」
って言われた。
いや、あの・・・ 無性に恥ずかしいんですが・・・
それはそうと、昼食はいつものメンバーにヨネと麻川さんを加えたものになった。
体育館や中庭が開放されて、保護者と一緒に食べる生徒や、俺達のように友達同
士で校舎の裏手の丘や、教室内で食べる生徒と、形式は様々である。
また、今日に限って、学院内校門付近でたこ焼きやらソフトクリームやらの露店が
出ている。
ま、全員女性の人なんだけど。
それはそうと、学院全体が和やかなムードに包まれているのは間違いないだろう。
肝心の俺達はというと、グラウンドと校舎エリアを結ぶ緩やかな芝生の坂に植えら
れている大きなポプラの木の下に陣取っていた。
丁度日陰になって心地がいい。
その下で各々が弁当を広げる。
「それにしても、さっきの200m走凄かったね」
すると、ヨネがさっきの200m走の話を吹き返した。
「そうでしたね・・・ もう一周あれば、もっと面白い結果になっていたかも知れません
ね・・・」
人数分の紙コップに水筒からお茶を注ぎながら、うちの焔さんはとんでもない事を
仰る。
200mだけでゼーゼーなのに、400mも走ってみろ。口から心臓出てくるわ。
とても日々武道をしている人間とは思えないセリフである。
「ところで、午後からの競技って何があったっけ?」
「え〜っとね、競技じゃないけど最初に3院生のエイサーがあるよ」
ルミナがプログラムを開きながら美香に説明する。
「エイサーかぁ。ちょっと難しいのに挑戦するんだね」
ヨネは少し興味あり気な様子で答える。
でも、俺もヨネに同感だな。
体育祭の準備で大忙しだったのに、ちゃんと練習もしてたんだ。
ずーっと動いてたから練習の姿は見た事ないけど。
てか、そもそもエイサーをやるって事を今初めて聞いたし。
俺はおかずの唐揚を口に放り込みながら思った。
「『至らない点はたくさんありますが、今日までの2週間頑張って練習したので、そ
の成果を見てください』だって」
『ピタッ』
「・・・・・・。」
箸を伸ばした俺の手が止まった。
あれ・・・?もしかして・・・
「耀氏A心配しなくても忙しかったのはお前だけだ」
隣で蓮也が核心を突いた。
「・・・・・・。」
「あのね、カワラっち。そんなションボリとした顔で俯かないでよ。こっちまでしんみり
するじゃない」
「てっきり、皆も一緒だと思ってた・・・」
「ヨウライ君、何だか可哀想・・・」
「あ、あの・・・ そんな憐れみの目で見ないでくれる・・・?」
「ん?耀獅ウん、あれ・・・」
すると、零次が何かを見つけた。
「「「ん?」」」
全員が零次の指差す方向に目を向けると、3院生がぞろぞろと更衣室の方へと向
かって歩いていくのが見えた。
「へー、気合入ってんのねー。まだ30分以上もあるって言うのに」
「だねー」
美香に同調するヨネ。
「その前に、PTAの挨拶があるとか言ってたな」
「うげっ。めんどくさっ」
「あっ、そうだ。美香ちゃんはまだ用意しなくてもいいの?」
「あぁ、あたし?いいのいいの、どうせ着替えだけだし」
「何の話?」
「ううん、エイサーの後に部活動対抗リレーがあるのよ」
美香が若干めんどくさそうに答える。
どうせメンバーに織り込まれたんだろ。
「へー、それで出場か〜」
「あっ、私もでるよ!私もっ!」
ヨネが必死にアピールしているが、誰に対してなのだろうか?
『午後の部開始まであと10分となりました。生徒の皆さんは生徒席へと戻ってくだ
さ〜い』
忘れた頃に品吉の放送がかかる。
「そろそろ行くか」
「そうだね」
俺達は弁当を片付けてから生徒席へと戻る。
空を見上げると鱗雲が一面に広がり、太陽も強い日差しを地上へと放っていた。
まだまだ暑くなりそうだ。
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