「お連れいたしました」


「どうも」 



誘拐にしか見えない。



「よ・・・耀厲様。何か私に御用でしょうか・・・?」



何故、そんなに怯える? 


この間のアレをまだ引きずっているのか?(4話・#1)



「そんなに怯えないでくれますか?」



正直話しづらいし・・・ 



「実は近山さんに大事な話があるんです」


「なんでしょう?」



俺は人差し指と中指を付けてクイックイッっと近山さんを自分の方へと招き寄

せる。



「???」



そんな感じで近山さんは俺に近づく。



「明日、百合華をどこかに連れて行ってもらえますか?」



すると近山さんは目の色を変えた。



「それって・・・!! お嬢様を捨てて来いとおっしゃっているのですか!!?」



 ・・・なんでそうなる。 




::第6話 - story3::




「俺がそんな事するとでも思ってるんですか・・・?」



段々と鬼化していく俺を見た近山さんは物凄い勢いで首を横に振った。



「ならいいです」



なんか脅迫のようだ。



「それで、私は何をすればよろしいのでしょうか?」


「近山さんには、明日、百合華をショッピングセンターにでも連れて行ってもら

いたいんですが」


「一体何故なのですか?」 



・・・普通訊くか? 



「実は・・・」 



俺は事の内容を近山さんに話した。

結局後悔する事になるのだが・・・ 



「そうなのですか。分かりました!この近山由美。耀厲様のお力にならせて頂

きます!」



頼もしいのかどうか分からん・・・ 



「もしも上手くいけばそれなりの報奨を出しますから」


「ハイ!頑張ります!!」 



声がデカイよ・・・ 


一抹の不安を感じる。



「恐らく、明日は絶対に朝から俺に絡んできます。その時に近山さんの出番で

す・・・」


「ではその後は・・・」



その日は3人で遅くまで入念に打ち合わせをした。 




─ そして次の日。


予定通り、百合華には近山さんが付き、共に食堂に姿を現した。



この事を知っている俺と近山さんと古軒さんは並々ならぬ雰囲気であった。



「お父さん、お母さん、お兄ちゃんオッハヨー♡」



コイツは朝から元気だ。

その有り余るパワーを何か人の役に立つことに使えないものだろうかと、つく

づく思う。



「おはよう。百合華」


「おはよう」



何も知らない親父とお袋はいつもの様に振舞う。



「おはよう」



俺も変に勘付かれない様に自然に返す。


百合華は席に着いて朝食を食べ始める。



「あ、そうだ。お兄ちゃん」


「何?」


「今日は百合華と遊ぶんだからね」 



来た!! 



俺はすぐさま百合華の後ろに立っている近山さんに目線を送った。


近山さんもそれに応えるかのように小さく頷いた。



「その事なんだけどな。百合華」


「何?」



すると、近山さんが話を割って入ってきた。

勿論、打ち合わせ通りである。



「お嬢様。今月の下旬から大会に向けた合宿があるのでしょう?」


「あー。そうだっけー?」



百合華は惚けた台詞を口にする。



「ですから、今日は私と一緒に合宿に必要な物を買いに行きましょう」



ようし!打ち合わせ通りだ。

いいぞいいぞ、近山さん!その調子だ!



「え~。そんなの後でいいよ~~」



百合華は頬を膨らませる。



「いいえ、後回しにすると必ず困ります。物事は早く終わらせた方がよろしい

のです」


「百合華お嬢様。近山さんの言うとおりですよ」



それに合わせた様に古軒さんも口添えする。



「百合華、早い内に買いに行ってきなさい」



話を聞いていたお袋も百合華を促す。


さすがに、3人から言われたのであれば従わざるを得なくなったのか、百合

華は、分かったとしぶしぶ承諾した。


百合華の向かい側で、俺は心の中で大きくガッツポーズをとっていた。



予定通り、百合華に近山さんと念の為に古軒さんを付けて送り出した後、俺

は美香が待っていると言った学校に向かう。



「あ!イタイタ。カワラっち~!!」



白のキャミソールに丈の短いGジャンを着て、スタイリッシュデニムをはいた

美香が既に校門付近で待っており、こっちに向かって大きく手を振っていた。


俺は微妙に重い足取りで美香の元へと行く。



「朝から機嫌を悪くするような言葉を言うな」



そして文句。



「いいじゃない」



と、美香の流言。



そして沈黙。



「行こっか・・・」


「そうしよう・・・」



なんとなく2人のテンションが下がったところで肩を並べて歩き出す。



「んで?何処ですんの?」



考えてみると、『勉強を教えろ』と言う事と、『今日の昼過ぎに校門の所まで

来い』としか聞かされてはいない。


やはりここはしっかりと聞いておくべきだろう。



「寮」



そんな俺の予想をまっぷたつに叩き割ったように美香が答えた。



「・・・は?」



俺の耳がおかしいのか?

寮だと・・・?



「どうしたの?そんな隕石が頭上に落ちてきた顔なんかして」 




・・・・・・。 


いまいち意味が分からんが、おかしな顔をしているのだという事は分かった。



「どうしたもこうしたも、そんな話聞いてないけど」



俺は不満そうに言った。



「そりゃそうよ。だって今、初めて言ったもん」



そうだね。俺が悪かったね。 



あ~・・・ 

本気で殴りてぇ・・・ 


美香の反対側を向いてプルプルと震える腕を必死に抑える。



「んで?寮ってどういう事よ?」


「この学校って全国から生徒を募集しているってのは知ってるわよね?」


「ああ。理事長から聞いた覚えはあるな」


「中には、北海道から来ている子もいるのよ」


「だろうな」


「だから実家に帰れない子の為に、学院の近くに学生寮があるのよ」


「ほ~」



なるほどな。そういう事か。

それならば納得がいく。




・・・・・・。


いや待て・・・ 


納得してどうする? 


そもそも、勉強を教えるということ自体に不満を持っていた筈なのに。 




・・・・・・。 


やめよう。 


頭がおかしくなる。



「カワラっち?」



独りブツブツと言っている俺に、ふいに美香が声をかけてきた。


丁度、俺もふいに美香の方に顔を向けたので一瞬、目があってしまった。



結果、見つめ合うという形になるのだが、意外とこの時の対処の仕方に困る。


どうしようもない。




・・・・・・10秒経過。


2人とも、この状態のまま動けなくなっていた。


誤解される危険性は大である。



「「何?」」 



無意味なハモリ。



「「・・・・・・。」」 



再度沈黙。



さて・・・ 


どうしたものか・・・