「ふ〜・・・ 疲れた〜・・・」



なんとか逃げ帰った俺は、玄関扉を開く。



「お兄ちゃん!!!」



あ・・・ 百合華だ・・・ 


百合華が先程の寮長以上に凄い剣幕で腰に手を当てて仁王立ちしている。



「あぁ、お帰り百合華。欲しい物は買えたか?」


「そんな事言ってる場合じゃない!!」



あん?なんだ?何が起こった?


と、視線を後ろにやると、古軒さんと近山さんが申し訳なさそうな顔をして立ってい

る。



「お兄ちゃん!!今日、またどこかに行ったのね!!」



・・・・・・。



ああ・・・ 


そうか。バレたのか・・・ 




::第6話 - story6::




人間というものは、ある隠し事がバレると意外と逆に冷静になれるものなんだね。



「近山さんと古軒さんを使ってまで・・・ お兄ちゃん!!」


う〜ん・・・


どうしようか・・・


あ、そうだ・・・



「聞いてるの!?お兄ちゃ・・・ えっ!えっ!?」



俺は喚く百合華を抱き上げてそのまま百合華の部屋に向かった。



「お!お兄ちゃん!?」



百合華の部屋の扉を開けて、百合華をベッドに寝かす。



「お・・・お兄ちゃんがいいなら・・・」



百合華は顔を赤く染めて呟く。



・・・・・・。


何言ってんだ?コイツ・・・ 


俺は肩下げバッグの中から1本の『アクアリアス』と書かれたペットボトルを取り出し、

百合華に渡した。



「何コレ?」


「いいから。飲んでみな」


「う・・うん・・・」



百合華は不可解そうな顔をしながらもキャップを空けて、アクアリアスを飲み始める。


百合華が、アクアリアスを5分の1程度飲んだその時、百合華は身を重力に任せて、

仰向けになって倒れた。



「ふ〜・・・ 睡眠薬くすねて来て正解だったな・・・」



そう。俺は美香の部屋から出る際に、テーブルの上に置いてあった『睡眠薬』と書かれ

た小さな袋を取ってきた。

もとい、盗んできた。


そして、帰りの車の中でアクアリアスにその粉を入れて混ぜていたのである。



「本当に役に立つとは思わなかったな・・・」



俺は両腕を組んで呟く。



「さて・・・と・・・」



俺は立ち上がって百合華の部屋から出て、応接間に向かった。向かう途中、鈴をチリ

ンチリンと鳴らした。



「耀似l。お呼びでしょうか?」



すると、どこからともなくお手伝いさんが現れた。



「近山さんと古軒さんに応接間に・・・」


「かしこまりました」



さて、どう料理してくれようか・・・ 



─応接間。


俺は茶色のソファーにどっかと足を組んで座っていた。


後は主役を待つだけである。



『コンコン』



分厚い応接間の扉が鳴る。



「はい」


「耀似l。近山さんと古軒さんをお連れしました」


「入って下さい」


「失礼します」


やはり分厚い扉が開いて近山さんと古軒さんが神妙な面持ちで入ってきた。



「まぁ、そこに座ってください」



2人は言われるがままに正面のソファーに腰掛ける。



「さて・・・ 何処でバレたんですか?」



直球、ど真ん中のストレートの問いかけ。



「お嬢様と服を選んでいる時に・・・」


「そうですか・・・」


「耀似l、本当に申し訳ございません」



近山さんと古軒さんが同時に頭を下げる。



「終わったものは仕方がありませんから、今更どうのこうの言うのもなんですけどね」


「はい・・・」


「古軒さん。あなたが付いていながらこんな事態になるとは・・・」


「申し訳ございません。ふと気を許した時に・・・」


「とにかく、今後をどうするかに問題がかけられます」


「はい・・・」


「百合華の動きに注意しながら監視を付けるように」


「かしこまりました」


「それじゃ、俺はもう寝ます。明日から考査なんで」


「えっ?・・・は、はい・・」



近山さんは予想外のような顔をしていた。



「あ、後、2人とも今月の給料カットで」



俺は部屋を出る間際に言った。



「は・・・はい・・・」



そりゃぁ、何もなしには終われないよ。


とりあえず、背中越しに近山さんのため息だけが聞こえた。



─翌日。


今日は1日で、4つの考査が行われる。


そのせいか、教室内は重苦しい雰囲気に包まれていた。


そんな中を通り抜けて、俺は自分の席に着く。



「あ・・・ ヨウライ君・・・オハヨー・・・」



ん?


ルミナの席に見た事の無い顔の人が座っていた。



・・・・・・。


今、『ヨウライ君』って言ったよな・・・ 


え?



「お・・お前、ルミナか・・・?」



おそるおそる尋ねる。



「うん・・・そうだよ・・・」



絶句。


頬がこけて、目の下に隈までできている。まるで別人だ。



「ど、どうしたんだよ・・・ その顔・・・」


「エヘヘ・・昨日、遅くまで勉強してたから・・・」


「遅くまでって・・・何時に寝たんだよ」


「えっとね・・・ 6時・・・?」



またもや絶句。


6時って言ったら朝だよ。


その前に、今現在午前7時50分です。



「気付いたら、外が明るくなってた・・・アハハ・・・」



ルミナは笑うが、今にも死にそうだ。


あ・・哀れすぎる・・・ 


俺は、想い人のこんな姿は見たくない・・・ 



「と、とにかくあまり無理しないようにな・・・」


「ウン・・・ありがと・・・」



頼む!頼むから保健室に行ってくれ!

と、心の中で必死に叫ぶ俺なのであった。



「あ、カワラっちにルミナっち。オハヨー・・・って!ルミナっち!!?」



美香は登場するや否や驚いた表情でルミナの顔を覗き込む。無理も無い。 



「あ、美香ちゃん。オハヨー・・・」


「そんな事言ってる場合じゃないって!!あんた死ぬよ!?って言うか、顔がもう死んでるよ!!」



混乱しすぎだ。


落ち着け、若いの。



「アハハ・・・大丈夫だよ・・・」


「大丈夫じゃないって!!ちょっと行こう、保健室」


「いいよ、平気だよ・・・」



どこがだ。



「よくない。テスト以前の問題よ?」



確かに。



「ルミナ。美香の言う通りだ。保健室に行こう」



俺もルミナを促す。



「でも、そうしたらテストが・・・」



そうなんだよな。せっかく勉強したのに保健室で寝ていたのでは意味がなくなるからな。


そう言った面で、俺は無理に保健室に行く事をルミナに強制しなかったのだ。



「せっかくヨウライ君に勉強教えてもらったんだから・・・」



健気な子だよ・・・ 


俺は美香と顔を見合わせて悩んでいた。



「あ・・・あの・・・」



おや?その声は・・・ 焔!



「こ・・幸田さん・・・あ、あの・・・保健室でも・・テスト・・受けれますよ・・・」



何!?



「それ本当か!?焔」


「あ、ハイ・・・」


「だってさ。ルミナっち。行こ!」


「う・・・ウン・・」



美香はルミナを背負って猛ダッシュで教室を飛び出す。


俺と焔も一緒に美香の後を追った。