次の日から、奴はチョロチョロと俺の後ろを付いて来るようになった。
振り向けばガキのような顔をして両手を頭の後ろに組み、デカイ態度で廊下を
歩く奴の姿。
他の生徒は明らかに近づこうとしない。
迷惑千万だ。
教室に帰れば、席は名前順に並んでいるので、『か』で始まる俺と『く』で始まる
この馬鹿とは前後なのである。
授業中には後ろからブツブツと何か言ってくるし、休み時間には必ずと言っていい
ほど俺の傍に居る。
昼飯の時など、前の席の奴を追いやってまで俺と対面して食べようとする。
そんな奴をクラスの皆が付けたあだ名が、『迷惑大王』と言うものであった。
ろくな名前貰えないなぁ・・・
::第7話 - story2::
こんな状態が2週間ぐらい続いたある日、俺は耐えかねて奴に言った。
「お前さぁ、俺になんか恨みでもある訳?」
奴は予想外の展開だったのか、目をキョトンとさせていた。
「いんや。そんな事ねぇよ」
奴は抜けた声を出す。
「じゃぁ、なんでそんなに俺に構うわけ?」
すると、奴はこれまでにない真面目な顔をして、少し考えた後に口を開いた。
「俺さ。自分でも分かるくらい口下手でさ。いっつも人に嫌がられて友達なんか1人もい
なかったんだよね」
俺の顔も強張る。
「でも、あんたは違うんだよ。あんたの存在は俺の中で、とてつもなく大きくなってるんだ
よ。例え俺があんたに嫌われても、あんたの存在は俺の中で育ち続ける。俺はそう思っ
ている」
そう話す奴の目には一点のくもりもなく、直接俺の目に強く語りかけているような気がした。
確かに、鬱陶しくはあるが、存在が気に入らなかった事は無い。
周りから見ても分かるぐらいに一匹狼だった俺に声をかけてきたのもコイツだ。
もしかしたら、コイツは俺と同じ境遇に立たされている人間なのか・・・?
俺は心の中にコイツの存在を許してしまっているのか・・・?
もしそうなら・・・
「なら、一つだけ条件がある・・・」
「なに?」
奴は少し弱ったような声で答える。
「俺のことは、『耀氏xと呼べ」
素直じゃないから言えないんだけどな。
しかし、奴は途端に満面の笑みを顔に浮かべて「ああ!!」と答えた。
これによって俺と奴・・・
いや、蓮也との中学生活が始まったのだ。
─そして月日は流れて2年後。
俺達が3年生になった6月。
俺は独り、ドイツへと旅立ち、蓮也も11月の下旬にオーストラリアへと向かい、今、ここで
俺と蓮也は約1年ぶりの再会を果たしたのだ。
以上、回想終了。
「で?何の用?」
「おいおい、冷たいな」
「知るかよ。第一、お前との回想シーンで結構使っちまったじゃねぇか」
「何の話?」
「気にするな」
「あっそ」
「んで?」
「ん?」
「何の用だと訊いているんだ」
「あーあー。実はさ、向こうで一悶着ついたから昨日こっちに戻ってきたんだよ」
「そういや、親父さんとまだ、もめてるって?」
「まぁな・・・」
蓮也は虫の居所が悪い顔をした。
「あの人間はどうも自分のやり方に反対する奴はとことん嫌う主義らしい。お袋はお袋で
親父に逆らえないもんだから頼りにもできねぇ。正直、飛び出して正解だったよ」
蓮也はあっけからんと話すがその表情はどこか哀しみのようなものを含んでいたように見
えた。
「それで、宿は?」
「あぁ、近くにアパート借りたからそこで一人暮らしだな」
「またか」
「慣れたもんだよ」
俺と蓮也は顔を見合わせて軽く笑う。
「さて、それじゃぁ、出掛けるか」
「どこに?」
「惚けた事言うな。大方予測済みだろうが」
「チェッ。バレテやがんの」
「お前の行動パターンなんざ、お見通しなんだよ」
「ハイハイ。お前には敵わねぇよ」
蓮也はデニムのサイドポケットに両手を突っ込んで俺の後を付いてくる。
二人並んで階段を降りる。
「耀似l。どこかにお出掛けですか?」
「あぁ、少し出てくる」
「ところで・・・ そちらのお方は・・・?」
「あぁ、コイツは俺の中学時代の友人です」
「左様で御座いますか。しかし・・・ 入られた覚えはありませんが・・・?」
あ・・・ そういやこのバカ、ベランダから入ってきやがったのか。
「いや、気にしないで下さい。それよりも、留守の方は頼みます」
「承知いたしました。お車をお出し致します」
「あ、いい。いい。バイクで行くから、5番ガレージを開けておいてください」
「かしこまりました」
お手伝いさんはそのままスッとどこかへと去って行った。
「ホラ。行くぞ」
「おぅ。ところでよ」
蓮也は相変わらずその格好で話をふっかけてきた。
「何だ?」
「バイクって?」
「バイクだよ」
「そういう事を聞いてるんじゃねぇの」
蓮也は煮詰まった顔をしている。
「なんだよ?」
「バイクに乗れるのかって聞いてるんだ」
「当たり前だろ」
「免許は?」
「持ってるよ」
「いつ取った?」
「ドイツにいる時だ。大した移動手段が無かったからな」
「ふーん」
俺達はそんな話をしながら玄関を出て、左の方に迂回する。
少し歩くと、そこにあるのは横に100mほど続く車庫。
1から50と書かれたガレージのある大量の車庫だ。
その内、5番目のガレージが開いていた。
「耀似l。いつでも出発できますよ」
「あぁ、ありがとう」
そこに居たのは先ほど忽然と姿を消したお手伝いさんと、黒のボディーに光沢を帯びたサ
イドカー、正式には側車付きオートバイクであった。
「サイドカーでよろしかったのですか?」
「はい。二人なんでね」
「うっわぁ〜・・・ すげぇ・・・」
蓮也は物珍しそうな顔でサイドカーをまじまじと眺める。
「おい。喰い入り過ぎだ」
「だってよ。こんなの滅多に見れないぜ?」
蓮也の言うとおり、このサイドカーは日本でも有数の物だ。
「バカ言ってんじゃねぇよ。ホラ、メット」
そう言って俺は蓮也に黒のヘルメットを放り投げた。
「おっとと・・・ 俺、サイドカーは初めてだぜ?」
蓮也は、よたよたとバランスを崩しながらメットを被る。
「分かったから早く乗れ」
いつまでも子供みたいにはしゃぎ回っている蓮也を叱って自身もバイクに跨って、ヴォンヴ
ォンとエンジンをふかす。
「ひゃぁ〜〜」
「お前いい加減にしろよな」
「早く出せよ!」
「何を偉そうに・・・ それじゃ、行ってきます」
「お気を付け下さい」
頭を下げるお手伝いさんを残して勢いよく、5番ガレージから俺と蓮也を乗せたサイドカーが
走り出す。
