燦燦と照る太陽の下、時速60kmのスピードで風を真っ向から受ける感触は相当な
ものだ。
これはハマる。
「すげ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
蓮也がバカみたいな大声を出した。
通行人としてはたまったもんじゃない。
しかも、あまり見る機会の無いサイドカーとなれば、自然に目がいくであろう。
とまぁ、こうしてバイクを走らせる事20分。
着いたのは、都心地のショッピングモール『セントランス』。
::第7話 - story3::
パーキングエリアに入り、いつもの場所にバイクを置こうとしたら、向こうの方から『ピ
ピ〜〜ッ!』と笛を鳴らしながら、警備員らしき人が駆け寄ってきた。
「キミ〜!ここは、ダメだよ」
「なんでですか?」
俺は分かっていながらも、あたかも知らない人間のように聞き返した。
「君は知らないかもしれないけどね、ここは甓尖様専用の場所なんだよ。ホラ、地面に
も『専用車』って書いてあるだろう?だから、違う場所に止めて貰えないかな」
「あん?」
蓮也がメットを外して不満そうに口答えをする。
「おいおい、なんでバイク止めちゃぁいけねぇの?」
「だから言ったろ?ここは甓尖様専用の場所だって」
「え?だって・・・」
蓮也は警備員の人と俺とを交互に指差しながら頭に『?』マークを付けている。
すると、何やらまた向こうの方から、今度はスーツを着た少し腹の出た中年の人を筆頭
に複数の人達がこちらに向かってくる。
「オイ!一体、何を騒いでいるのだ」
「社長!」
ん?あ〜、そうだそうだ、ここの社長だ。どこかで見た事があると思ったら・・・
「それが、こちらのお客様が甓尖様の専用所にバイクをお止めになられて・・・」
「これはこれは、お客様。ようこそいらっしゃいました。申し訳ありませんが、ここは専用
車用となっておりますのでバイクの方の移動をお願いします」
社長は、俗に言う営業スマイルでバイクの移動を促した。
もう、ここらでいいだろう。
「その必要はありません」
「何ぃ?」
社長の顔がキッと怖くなった。
俺はゆっくりとヘルメットを外した。
「なぜなら、私がこの場所の所有者ですから」
社長は俺の顔を見るや否や顔のパーツが全部大きく開いた。
まるで、怪物だ。
「か・・か・・・甓尖様!!!」
社長は急に地面に両膝を付いた。
「こ・・・これは・・・も・・申し訳御座いません!!」
遂に土下座までしちゃったよ。
社長に付いてきた人達も一緒に土下座している。
「社長、顔を上げてください」
「いえ!滅相も御座いません!甓尖様が御越しになられたと言うのにも関わらず、お迎
えにも参りませんで不徳の致す限りです!」
社長は益々頭を下げ、額を地面に付けている。
「もういいですから、早く顔を上げて下さい」
「そのような恐れ多い事を!」
参ったな・・・ コレじゃ、店の中に入れないじゃないか。
「社長!」
「申し訳ありません!!」
社長は一向に頭を上げる気配が無い。
かくなるうえは・・・
「俺の言う事が聞けないとでも・・・?」
社長はその言葉に、顔を引きつらせながらすぐさまその重そうな体を持ち上げた。
「めめめ・・・滅相も御座いません!!」
「ならいいんです」
この人は使いやすい。
「キミ!!一体なんと言う事をしてくれたのだ!!」
今度は、警備員の人が社長に怒られている。
「申し訳御座いません!」
「その程度で甓尖様が許されるとでも思っているのかね!?」
そんなに頭ごなしに叱っては警備員の人が不憫だ。
「社長」
「あっ!甓尖様、この度は本当にうちの者がご無礼を・・・ キミ! キミのような人間はク
ビだ!!」
「しゃ・・社長!」
「ええい!うるさい!」
俺無視かよ・・・
「社長」
「甓尖様、この処分は私共が致しますによってどうか平に平にご容赦を・・・」
「そんな事よりも社長はいい部下をお持ちですね」
「えっ?」
社長は間の抜けた顔でこっちを見る。
「いつも車で来ていたし、ヘルメットで顔が分からなかったし、こっちの過失でもあります。
それよりも、不審な人物を注意したこの方はとても素晴らしい。このような人材をクビにす
るなど、とんでもない」
「か・・甓尖様がそう申すのなら・・・」
「何か異存でも・・・?」
「めめめめ・・・滅相も御座いません!甓尖様の仰るとおりに!」
「では、私達はしばし店内を歩きますので」
「それならば、私共の方で案内をさせましょう」
「社長」
「はい?」
「今、人の話を聞いていませんでしたか?」
「そ、そうでしたな!これは失礼しました。ワハハハハ」
社長が供の者にも笑いを促し、それに応じたかのように供の人達も笑うが、その笑い声は
苦し紛れだった。
「では、もう行きますんで」
「ごゆっくりと・・・」
社長は消え入りそうな声で頭を下げたまま俺たちが店内に入るまでずっとその状態だった。
モール内に入ると弱い冷房がかけられており、非常に快適だ。
「それにしても、なんだ?あのタヌキ」
「話聞いていなかったのか?ここの社長だよ」
「ふ〜ん。俺はあんな人間は大っ嫌いだけどな」
蓮也は不機嫌そうな顔をして話す。
「なんでだよ?」
「なんか、人の機嫌だけ取ってりゃ上手くいく。みたいな考え持ってそうじゃん?」
「鋭いな。その通りだ」
「しっかし、何で又、お前にそんなにペコペコしてんだ?あのタヌキ」
「ん〜・・・ 俺がここのオーナーだからかな・・・?」
「そうか、オーナーか」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「オーナー!!?」
遅っ!
「そう」
「えっ?えっ??」
「なんだよ悪いかよ」
「別に悪くは無いけどさ・・・」
そんな事を話しながら俺達は行く当てもなく、モール内をうろつくのだった。
