─甓尖家周辺。



「とりあえず、家の手前の交差点には着いたぞ」


「あぁ、あんがとね。えーっと・・・ ここからだと・・・ とりあえず西に行ってくれる

か?」


「分かった」



俺は蓮也の指示通りに西にバイクを走らせた。



「4・500m行ったら右に曲がって」


「あいよ」


「次を左」


「うぇい」


「次を左」


「ん」



もう、返事をするのも面倒になってきた。




::第7話 - story6::




俺は返事をするのが面倒になると、たいがいは、「ん」とか「あ」とか、よくわからん

日本語で応答し始める。


今がそれ。



「そこ左ね」


「ん」


「で、そこの大通りを左」


「ん。・・・ん!?」



待てよ・・・ 

右に回って左・左・左・左って・・・ 


一周廻ってきてるじゃねぇか・・・ 



「おい」


「あん?」


「なんで一周廻らせてんだよ」


「いや〜、いつ気付くかなぁと・・・」


「・・・・・・。」


「あっ!お前が黙るとマジギレの証拠なんだって!悪かった!」



恐怖にも似たような声でおたおたと慌てる蓮也。



「ちゃんと説明しないと本当に降ろすからな」


「はーい・・・」



シュンと小さくなる蓮也。


やっぱりお前は昔とちっとも変わらねぇ。



「あ、その交差点を左」


「ここか?」


「いや、もういっこ先の大きな交差点」


「ん」


「んで、そこの細い道を右に入って」


「ここ?」


「おう。そこそこ」



他愛のない会話である。


それにしても、1年ぶりに帰ってきてまだ慣れないのにここら辺の道を知り尽くし

たのか。


偉いぞ蓮也。



「あ、間違えた」



前言撤回。


俺は、思いっきり振りかぶって蓮也の後頭部をヘルメットごと平手で叩いた。



『バゴッ!!』


「ぐわっ!!」



軽く脳震盪おこしたかな?



「くあああ・・・あああ・・・」



あ〜、大分苦しんでるな。(鬼)



「き、記憶を失ったかと思った・・・」


「何よりで・・・」


「お前暴力が激しいよ」


「お前だけだ」


「もういい・・・」



いじけた。



「ウソだって蓮也。俺だって久々にお前と会えて嬉しいんだからよ」


「ぬあぉっっ!!?」



蓮也は気持ち悪い声とニタ〜とニヤついた顔で振り向いた。



おっと、俺の体にも変化が出てきたな。


長袖なので見えないが、俺の左腕にじんましんにも似た痒みが襲ってきたのであ

る。


人間ウソ付くとロクな事ないな・・・ 


ちなみに右腕には鳥肌。

背筋には寒気だ。



「耀氏Bやっぱりお前だよな〜(?)」



蓮也はうっうっと泣き真似をしながら言うが、全く理解できない。



「何が言いたいんだお前は」


「何かよくは分からないけどやっぱりお前だよな〜(?)」



関わりたくなかったので無視してバイクを走らす。



「ああ。ここ、ここ」



行き着いたのは鉄筋コンクリートの2階建てアパート。


建ってまだ日は浅いのか、目立った外傷もない。



「キレイじゃん」


「だろ?」


「でも高そうだな」


「そこが悩み。家賃、月18万円」


「うわ、キッツ・・・」


「だろ?」



階段をカンカンと音を立てながら上がっていく。



「でもまぁ、親の金使って豪勢な所に住んでて文句言える義理じゃねぇんだけどな」



そう言いながら鍵を開ける蓮也。



「さあ、入った入った」



蓮也がドアを開いて俺を中に通す。



「さすが家賃18万」


「だろ?まぁ、都心地じゃ珍しい事でもないけどな」



ケラケラと笑う蓮也。



「昨日帰ってきたばかりの割りに、結構家具とか揃ってんじゃねえか」



部屋は、クローゼットやベッド、机や本棚が配置してあり、蓮也の私物であろうと思

われる小物などもあった。



「まぁな、3日前に荷物だけこっちに遅らせて、体だけ昨日戻ってきたんだよ」


「ふ〜ん」


「まぁ、座れよ。何か飲み物出すからよ」


「あぁ」



俺は白い楕円形のテーブルの前に座った。



「スクリュードライバー(※カクテル【酒】)だっけ?」



蓮也が顔を伸ばして訊いてくる。



「いや、ジントニック(※カクテル【酒】)」


「うぇーい」



蓮也は再び顔を引っ込めた。



・・・・・・。


スクリュードライバー(※カクテル【酒】)・・・? 


ジントニック(※カクテル【酒】)・・・? 



「なぁ」


「んん?」


「昼間っから酒?(※ダメです!)」


「あれ?お前酒飲むんじゃなかったの?(※ダメです!)」


「いや、それは無礼講の時(※ダメです!)だけだろ」


「いいじゃん。今日が無礼講っつー事で(※ダメです!)」


「あのなぁ・・・」 




※注)お酒は絶っっっ対に、二十歳になってから!! by耀氏@& 作者




「蓮也」


「うん?」


「やっぱ、ジュースでいいからよ」


「えぇ〜?マジでか?」


「当たり前だバカヤロウ。年齢考えろ」


「ったく、しゃーねぇなぁ・・・」



真昼間から酒飲もうとするお前の神経もどうかと思うけどな。



「オレンジジュースとサイダー、どっちにする?」


「サイダー」


「わぁーった」



蓮也はサイダーの入った大きめのグラスを二つ手にしてやってくる。



「はいよ」


「ん。ありがと」


「しょっと・・・」



蓮也も腰を下ろす。



「それにしても、お前も変わったな」


「えっ?」



唐突に何を言い出すんだこの男は・・・ 



「お前見てるとさ・・・ なんか嬉しそうって言うか、顔に活気が溢れていると言うか・・・」


「気のせいだろ」



俺は少し焦り、サイダーを一気に飲み干した。



・・・・・・。



サイダー・・・? 


サイダーにしてはスッキリしない味だな・・・ 

炭酸もなかったような・・・ 


・・・・・・。



「おい・・・」


「ん?」


「コレ酒だろ(※ダメです!)」


「ピンポーン」


「お前・・・」


「こうでもしないと飲まねえからな」


「・・・・・・。」


「まぁ、いいじゃねぇの。アレだったら今日は泊まって行けばいいさ」



無責任な言葉を連発する蓮也。明後日から学校だっつのに・・・ 



「まぁ、カクテルぐらいじゃ酔わねぇからな・・・(※ダメです!)」



そう、俺は酒に強い。


ちょっとやそっとじゃそう簡単には酔わない体質なのだ。



「そうこなくっちゃ(※ダメです!)」 



─2時間後。 


蓮也の部屋には2つの人影。


1人はグラスを片手に持ってテーブルに肘を付き、もう1人は床に体を横にして倒れ

ている。

もとい寝ている。


お解かりの通り、蓮也は30分も経たない内に撃沈し、爆睡しているのだ。


一方の耀獅ヘ、別段変わった様子も無く2時間前と同じ姿勢で、次はジンフィズ(※カ

クテル【酒】)を飲んでいる。(※ダメです!)



「ったく・・・ 全然酒に弱ぇじゃねぇか・・・」



俺は呆れた顔で隣でいびきをかきながら爆睡している蓮也を見る。



「しかし・・・ コイツの言った事は本当なのかも知れないな・・・」



2時間前に蓮也が言った言葉が俺の頭から離れない。



『活気が溢れている。』か・・・


考えただけで可笑しくなった。



「蓮也。環境が全く変わっちまったら、人間、なんかおかしくなるもんだよ」



俺は尚も爆睡している蓮也にそう呟いた。



『ヴヴヴヴヴ!!』



突然、携帯のバイブが俺のポケットの中で激しく動く。



「電話・・・?誰だろう・・・」



携帯のディスプレイを見ると、そこに“屋敷”と表示されていたので、家からだとすぐに

分かった。



「はい、耀獅ナす」


『あ!耀似l!』



電話の相手は古軒さんだった。



「あ、古軒さん。今日は非番のハズじゃ・・・」


『左様でございますが、耀似lが昼間からご友人と出掛けられた限、ご連絡も無く屋敷

の方までお帰りになられていないと執事から連絡を受け、すぐさまかけつけたのです』



あ、そういえば連絡入れてなかったな・・・ 


悪い事したな・・・ 



「すいません。今、その友達の家にいるんですが、今日はここに泊まりますので家には

帰らないと伝えて下さい」


『それでは、事件などにはお遭いにはなられてはいないのですね?』


「ええ、大丈夫ですよ」


『それはようございました。分かりました、では執事達にはそう伝えておきます』



電話越しで安堵の色が窺えた。



「それと、明日の朝には帰るから、しっかりと留守を守るように言っておいて下さい」


『かしこまりました。ゆっくりとお休みなされませ』


「古軒さん、わざわざ非番の日にまで呼び出させてすいませんでした」


『お気にならないで下さいませ』


「ありがとう」


『失礼致します・・・』


「ピッ」



俺は『切』ボタンを押して携帯をしまう。


それにしても、本当に古軒さんには頭が下がりっぱなしだ。

今度、食事にでも連れてこ。


と、密かに誓う俺だった。



「時間はと・・・ 8時か・・・」



とりあえず勝手にテレビの電源を入れる。


8時といえば、俗にゴールデンタイム等でバラエティなどが放送されている。


チャンネルを次々に替えていくと、何やらバラエティらしき番組が目に留まった。



「2ヵ月二万円生活・・・?」


『獲っただ〜!』


「・・・・・・。」



テレビから聞こえてくる意味不明なセリフを全部聞く前に、チャンネルを替えて視聴率を

下げておく。


結局何かを集中して見る訳でもなく、9時を迎えた。



「9時・・・」



蓮也は潰れて使えないし、かと言って今から外に出るわけにもいかない・・・ 


となると・・・ 



「寝るか」



一つしかない選択肢を選ぶ。



「蓮也。蓮也」



俺は蓮也の頬をペチペチと叩く。



「ん・・・んん・・・」


「蓮也。寝るぞ」


「んん・・・」



全く起きる気配がない。



「ったく・・・」



俺はフゥ・・・とため息をつく。



「勝手に寝るか・・・」



俺は上着を脱いで、上半身は長袖一枚の格好になる。


床に突っ伏して寝ている蓮也が風邪をひかないように、一応シーツをかけて、自身は蓮也

のベッドから布団を引っ剥がしてソファーの上に寝転がった。


さすがに勝手に蓮也のベッドで寝るのは気がひける。


電気を消し、大きないびきをかいて寝ている蓮也の隣で、俺も眠りに就いた。



─翌日。 



「あ゛〜〜〜〜・・・・・ あ゛た゛ま゛か゛〜〜〜〜・・・・」



床には朝っぱらから頭を抱えて唸る蓮也が、一人死にそうな顔をしていたのは俺しか知らない。