当然の如く、俺を無視して、話はどんどん進んでいく。



・・・・・・。


結構哀しいな・・・



「ううん。そこまでは・・・」


「じゃぁ、あたしの聞いた、まだけ君だっけ?それが最有力候補かしらね」


「何が?」


「朝練が終わって理事長室の後ろを通ったら、中で、『まだけれいや』って名前の

人の話をしていたのよ」


「まだ、『まだけれいや』って決まったわけじゃないけどな」



俺の声は不機嫌さの混じった皮肉声になっていた。




::第8話 - story2::





「でも、その線で行きかけって訳」



それでも気にせず話を続ける貴女に敬意をささげます。


ええ。立腹の。



「へ〜。どんな字書くんだろね」



すると、美香が徐に紙とシャーペンを取り出した。



「【真竹 零夜】コレじゃない?」


「まんますぎないか?」


「【間竹】こっちかな?」


「【真丈】こうかもしんない」


「【真岳】コレもあるね」


「ん?」


「どうしたの?カワラっち」


「あ、いや・・・ なんでもない・・・」



まさかな・・・ 



「名前も【怜矢】こうじゃない?」


「【怜也】こっちじゃないの?」


「その前に名前が違うかもしれないからな」


「え?れいや君じゃないの?」


「そうなのよ。はっきり聞こえたのは『れ』と『や』なのよ」


「へ〜。じゃぁ、【れ○や】こうなるんだ」


「そうそう。それよ」


「美香」


「何?」



俺の頭の中に疑問点が生じてきた。



「苗字って本当に3文字か?」


「ん〜・・・ それも分かんないのよ」



美香が困った顔をする。


分からないのに自慢げな顔してんのか。



「それじゃ、もしかすると3文字じゃないかも知れないって事?」


「とすると、最低3文─」



『リ〜ンゴロ〜ン!』



美香の言いかけた言葉を遮って、HR開始の予鈴が鳴る。



「あらら、時間来ちゃった」


「今日先生、予鈴の時に来るって言ってたよ」


「えっ!?何よソレ?」



美香は慌てて自分の席へ走っていった。



『ガラガラッ!』



勢い良くスライドドアが開くと同時に先生が入ってきた。



「はい、みなさん。おはようございます。今日はみんなにとっておきのニュースよ」



先生は満面の笑みを浮かばせているが、俺は1人ブツブツと何かを呟いていた。



「・・まだけ れ○や・・・ まだけ・・・ まだけ・・・ まだけ・・・」



壊れたカラクリ人形のように何回も。



「なんと、この1年C組に新しいクラスメイトが増えます」



その瞬間、クラスが大盛り上がりを見せる。


が、俺は今それどころではなかった。


さっきから、何かが引っ掛かってならない。



「それじゃぁ、入ってきてくれるかしら?」


「まだけ・・・ るま・・だけ・・・ くるま・・だけ・・・」



『ガラガラッ』



先生の時と同じように、ドアが開き、1人の男子生徒が入ってくる。



「くるまだけ・・・?」



俺はハッと顔を上げる。



「はじめまして。車岳 蓮也と言いま・・・」



一瞬目が合い、二人揃って固まる。


そこにいたのは、紛れもなく正真正銘、車岳蓮也だった。



蓮也は俺の顔を見て固まり、俺もまた蓮也の顔を見て固まる。


クラスの皆は勿論、先生も自己紹介の途中で固まった蓮也に戸惑っている。


そして、その視線の先に俺がいる事でより一層戸惑っている。


ルミナと美香も例外ではなかった。



『ザワザワ』



と、囁き声が聞こえる。


が、俺は今それどころではない!



「ああああああ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」




「ぎゃああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!???」



堰をきったように蓮也と俺は同時に大声を上げる。


しかし、俺の声はどちらかと言えば、叫び声に似ている。


教室内は勿論の事、1階のフロアすべてと、階段近くの2階フロアにその叫び声が

轟き、校舎が少し揺れた。



「ようら〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!」



自分の自己紹介をほっぽり出して俺の席に一直線に向ってくる一匹の野獣。


このまま座っていると、おかまいなしに飛び付いて来そうだったので、慌てて立ち上

がり、後退りした。



「とぉぅっっっ!!!」



俺の予想通りに、野獣は5mほど先で助走をつけて飛んできた。



もし座っていたら大惨事だっただろう。


飛びつかれないように、避けないと・・・



「うっっ!!」



しかし、俺は一瞬、奴の顔を見てしまった。


頬を薄赤に染め、キラキラと光る汗を飛ばす、世にも奇妙な野獣の顔を。


そのせいで反応が遅れ、かわす事が出来ず、俺は奴に腰に思いっきり抱きつかれ

た。



第三者から見ると、そう言ったご関係に見えてしまう、非常にマズイ状況だ。


が、俺はまだ宙に浮いている野獣の腰辺りを掴み、それを思いっきり引き上げると、

俺の腰に両腕をがっちり回していた蓮也の体がぐるりと一回転した。


そして次の瞬間!



『コケッ!』



まるで、マンガのような音を出して、俺のかかとが何かにつまづく。


当然の如く、俺の体は後ろに倒れるが、蓮也の体重が前にかかっているので、腰が

落ちるような状態だ。


その結果、蓮也を頭から床に叩き付けるような形になった。(※俗称:パワーボム)




『ドゴオオォォォンッッッ!!!!』




途轍もない轟音が学校中に響き渡る。



『シ───ン・・・・』



10秒程し、不気味なほど静まり返った教室の中で聞こえるのは俺の荒い息遣いだけ

だった。



「はぁっ・・・はぁっ・・・ふぅ・・・」



大きく深呼吸してようやく気持ちが静まって、もうもうとたち込めていた埃が晴れて俺の

目の前に現れたのは、長座の状態の自身と、ヒビが多く入り、中心部は酷くえぐれた木

床の上で衣服を乱し、『大の字』になって鼻から血を流しながら屍と化す野獣、蓮也の

姿だった。


しかし、その顔には薄気味悪く、微笑が含まれている。



どちらにしろ大惨事だったか・・・ 



「あー・・・ 蓮也。蓮也?」



頬をペチペチと叩き、呼びかけるが当然の如く返事は無い。



「あーあ・・・」



俺はそのまま、蓮也の手をひいて体を担ぎ上げて肩に乗せ、教室の出口に向かう。



「ちょっと保健室行って来ます」



そう先生に告げると、



「え、えぇ・・・」



いまだに状況が理解できていない答えが返ってきた。


おそらく、クラス中がそうだろう。



『ガラララ・・・』



ドアが閉まっても、中から声が聞こえる事は無かった。



結局、蓮也の自己紹介は、名前だけで終わったのだった。




「う・・・・ぐ・・・」



聞こえているのは蓮也の呻き声。


俺は蓮也を保健室に運んだまま2時間、ここに両腕を組んで居座っていた。


とてもじゃないけど、教室に戻る気はしない。



「まだうなされているの?」



金木先生がひょこっと顔を出す。



「えぇ。もう、2・3時間はこの状態でしょうね」



素っ気無く、俺はそう言う。



「でも、パワーボムなんて滅多に出来る技じゃないわよ?」



この人、プロレス通か・・・ 


床に頭を打ち付けたとしか言ってないのに。



「あ〜あ、私も見たかったな〜。床を粉砕するぐらいのパワーボム」



恐ろしい事を口にする人だ。


こんな事されて無傷な人間、蓮也ぐらいしかいねぇぞ?



そう。驚いた事に蓮也は、あれだけの轟音を出して後頭部を烈打したにも関わらず、た

んこぶ1つで済んでいるのだ。


ある意味、超人。

いや、変人。


あ、元からか・・・ 



「でも床が陥没するくらいの勢いで後頭部打ったのに、たんこぶ1つで済むってどういう

体してるのかしら」



金木先生はティーカップに注がれている紅茶を啜りながら眉間に皺を寄せて怪奇そうに

言う。



「いや、まったくです」



同調する俺。



「ふははっ・・・」



俺と金木先生の体がビクッと反応した。



その低い声が、蓮也から発せられていたからだ。



((気持ち悪〜〜・・・)) 



俺と金木先生は頭から冷や汗を流した。


そして、その寄生と共に蓮也の顔に笑みが浮かぶ。



((うわ〜〜〜・・・・)) 



嫌な物を見てしまった・・・ 



「失礼しま〜す。あ、ヨウライ君」



と、そこにやって来たのはルミナだった。



「おっす、カワラっち」



美香もいた。



「先生が様子見てきてだって」


「そうか・・・」


「んで?どう言ったご関係で?」



美香が、パイプ椅子を2脚持ってきて俺の隣に置く。


帰らない気か・・・