スズメの鳴く声で起きた俺は両手を後ろについた状態で上体だけ起こし、寝ぼけ眼でボリボリ
と頭をかく。
まだ陽は昇ってはいないようだ。
「ん・・・」
ん?誰だ?俺以外の声が聞こえるけど・・・
・・・あれ?聞き覚えのあるセリフだな。
「お兄ちゃん・・・」
その声に背筋がゾクッとした。
おそるおそるその方向を見ると・・・
あ〜・・・ いたいた。
とても自慢できそうに無い我がスーパーブラコン妹。
「ゆ・・・夢じゃない・・・」
俺はだんだんとその顔が引きつっていくのが分かった。
その時である。まるで天からの救いの手なのか悪魔の囁きなのかは知らな
いが『それ』は俺の頭の中にスッと入ってきた。
『夢だろ?』
どうやらその言葉しか聞こえないらしい。
「夢か・・・」
俺はこの状況を認めたくなかった。
「夢・・・夢・・・夢・・・」
まるで機械のようにその言葉だけを言い続け、三度眠りに堕ちた。
::第4話 - story1::
朝7時。休日の日とはいえ、この家においてお手伝いさんに休みなどない。
朝からせっせと働く。
新人の百合華のお手伝いさんの近山さんが百合華を起こそうと百合華の部
屋に行った所から事件の幕が上がる。
『コンコン』
「お嬢様、失礼致します。7時ですのでもうそろそろ起きてくださいませ。お嬢様。
お嬢様?」
勿論、百合華は俺のベッドの中にいるので百合華のベッドはもぬけの殻である。
「・・・・っ!!!お嬢様〜〜〜!!!!」
近山さんは屋敷中に響き渡る声で叫んでしまった。
『ドダドダドダ!!!!!』
何人もの百合華のお手伝いさんが怒涛の勢いで屋敷を駆け回って百合華の部屋
に集まる。
「一体何事ですか!!」
「お・・お嬢様がおられません・・・」
近山さんはブルブルと体を震わせながらペタンと腰を抜かしてしまう。
普通ならば百合華のお手伝いは新人以外なら百合華の行動は分かっているのだ
が、それが今回これほどまでにお手伝いが大騒ぎしたケースは無く、かつ起こしに
行ったのが新米の近山さんだと気付かなかったので長年勤めているお手伝いさん
も本当にいなくなったと勘違いしてしまった。
屋敷中の執事やお手伝いは総力を挙げて屋敷内を探しまくる。
一階、二階、三階、屋上。大浴場から物置、庭、林、テラス、リビング、大広間、会議室、
ダンスホール、ボイラー室、湖のほとり、書斎、床の間、ガレージ、俺のための音楽部屋、
ウッドデッキ、司書室、脱衣所等等・・・
隅から隅までくまなく探す。
が、いない。
当たり前である。なぜなら俺の隣で寝ているからだ。
話を聞いたお袋が自分達の部屋も探索してよいとの許可がおり、親父たちの寝室も探され
る。
「奥様・・・」
「いた?」
「それが・・・」
お手伝いさんの顔の血色はうっすら青くなっていた。
「ふぅ・・・困ったわね」
「屋敷の外には出ていないのだろ?」
父・羹蕨も心配そうな様子で尋ねる。
「はい・・・」
「耀獅フ部屋は?」
「まだ・・・」
「きっとそこね」
「えっ!!?耀似lのお部屋ですか!!?」
「あの子の行きそうな所でまだ探していない場所はそこしかないわ」
「し・・・しかし、お嬢様が耀似lのお部屋に度々行く事は私共なら全員知っているはず・・・」
「あら?今日起こしに行ったのは近山って言う新しい子でしょ?」
「・・・っ!!!!!」
どうやら気付いたらしい。
『プルルル プルルルル』
「う・・・ん・・・」
部屋にとり付けてある内線電話の音が鳴る。
俺はヌーっと手を伸ばし、コードレスの受話器をとる。
「ハイ・・・」
俺は寝ぼけた声で電話に出る。
「坊ちゃまですか。鴨川でございます」
「ああ・・・おはようございます・・・どうしたんですか?朝早く・・・」
「お話は後でございます。鍵をお開けください」
「分かりました・・・」
俺は何がなんだか訳が分からずに上体だけ起こしてリモコンで部屋の鍵を開ける。表に
百合華のお手伝いさん達が待ち構えている事も知らず。
『ガチャッ』
「「「お嬢様〜〜〜!!!」」」
いきなり大勢のお手伝いが部屋に入ってき、俺の目は一瞬にして覚めた。
「うわっ!!な・・・何事ですか!!!?」
「耀似l、朝早くに申し訳ございません。お嬢様は?」
「ゆ・・・百合華?部屋で寝ているんじゃ・・・」
「それがもぬけの殻でございました。奥様に言われてここに居ると・・・」
「ハハ、冗談はよしてください」
「ところで何故半裸なのですか?」
「え?うわっ!ほんとだ・・・ 脱いだ覚えはないんだけどな・・・」
「ん?横で誰か寝ておられるのですかな?」
「「「「え?」」」」
鴨川さんの一言で俺を含む部屋にいた人間全員がそこを見る。
「ん・・・」
そこには首までシーツをかぶって寝ている百合華がいた。
「「「お嬢様〜〜〜〜!!!!!」」」
「なあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!???」
俺はベッドから飛び跳ねるほど驚いた。夢と思っていたのは夢なんかではなく現実であった。
「う・・・ん・・・」
どうやら百合華が起きたらしい。
「お嬢様・・・」
「あれ・・・?みんな何してるの?」
と、百合華は寝ぼけ眼で起き上がろうとする。
その時、百合華を纏っていたシーツがハラリと腰元まで落ちる。
ここから事件勃発。
そこから、上半身は何も纏っておらず、下半身は下着だけの百合華が出てきた。
「「「「「・・・・・・・・・・!!!!!!?????」」」」」
全員声にならない声を上げた。俺は大きく口を開けたまま石化状態となり、鴨川さんは顔を
赤くしながら慌てて部屋から出る。そしてお手伝いさん達はまるで般若のような顔つきになっ
て地響きのするような声で怒鳴り上げた。
「「「「ヨウライさま〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」
その声は屋敷どころか甓尖家の敷地全体にまで響くぐらいの大きさであった。
─同時刻。甓尖家、管轄センター。
「うわっ!!!」
「じ・・地震か!!?」
「た、大変です!! マグニチュード5.4程の大きな揺れが敷地を襲いました!!!」
「何だと!!? 早く避難警告を!!!」
「ですが・・・」
「・・・!!!!」
「・・・!!?」
─屋敷内部。3階、耀獅フ部屋。
「お嬢様!!!!!!!!耀似l!!!!!!!」
「耀似l・・・・お嬢様に一体何を〜〜〜〜っっ!!!!???」
「そ・・・そんな・・・・いくら仲が良いといっても兄妹同士でそのようなっ!!!!!」
「不潔ですわ!!!!耀似l!!!!」
だから一斉に喋るな!!!
「な・・・!!?何もしていませんって!!!!」
「ならばこの状況をどうご説明なさるおつもりで!!!????」
「その、着衣の乱れが決定的な証拠でございましょう!!!」
「いくら耀似lとは言え、許せませんわ!!!」
「俺は何もしておらん!!!!!」
「そのような嘘を・・・いつもの耀似lならお嬢様が隣で寝ていらしたらすぐに私共に連絡なさる
はずです!」
「それは・・・そうだけど・・・」
昨晩が昨晩だったからな・・・
「まさか嫌がるお嬢様を無理矢理・・・」
「なんでそうなるんですか!!!」
「耀似l!!!まだシラをきるおつもりで!!?」
「耀似l!!!」
「耀似l!!!」
「「「ようらいさま〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」」」
まるで鬼のような顔で俺に迫ってくる百合華のお手伝い達。
挙句の果てには
「変態!!」
「スケベ!!」
「野蛮人!!」
「人間の恥!!」
等の暴言であった。そんな所にお袋と親父が駆けつける。
「何があったの!!?そんな大きな声を出して!!!」
「どうした?何事だ?」
「旦那様は入られてはなりません!!」
「お嬢様!!とにかく早く服を着てくださいませ!!」
百合華は何が起こっているのか分かっていない様な顔をして脱ぎ捨ててあるパジャマを身に着
ける。
「それで一体どうしたの?」
「奥様・・・お嬢様が耀似lに・・・」
よよよと泣きながらお袋にすがるお手伝い。
「だから違うっつーのに!!!!」
事情を聞いたお袋は百合華に問いただす。
「百合華。あなた、昨日自分の部屋で寝たの?」
「ううん」
「じゃぁ、どこで寝たの?」
「お兄ちゃんの部屋」
お手伝いは俺をジロッと睨む。
「耀獅ノ呼ばれたの?」
「ううん。私が勝手に行ったの♪」
「あなたがこの部屋に入ってきた時、耀獅ヘ起きてた?」
「ううん。ぐっすり寝てたから百合華が勝手に布団の中にはいったの」
お手伝いさん達はえっ!!?と言う様な顔をした。
「なんでそんな事したの?」
「お兄ちゃんと寝たかったから♪」
「パジャマは?」
「暑かったから脱いだよ。お兄ちゃんも暑そうだったから脱がしてあげたの♪」
話を聞いている内にお手伝い達は額から大量の汗を流し、俺の背後からは怒りの炎が上がっ
ていた。
「それでね・・・」
「百合華、もういいわ。早く着替えてご飯を食べてらっしゃい」
「ハ〜イ♪」
百合華はそう言うと走って俺の部屋から出て行った。
「ふぅ・・・」
お袋は安堵のため息をついた、
「百合華は本当に耀獅ェ好きだなぁ・・・」
「本当に困った娘なのよ・・・」
「百合華もいた事だし、わしらも下りるか」
「そうしましょう」
「えっ!!?お・・奥様・・・!!?」
「何かしら?」
「あ・・・あの・・・」
「さすがに私でも今の耀獅ヘ止められないわ。ごめんなさいね」
「だ・・・旦那様!!」
「耀獅ノ何を言ったのかは知らんがちゃんと侘びを入れておくんだぞ」
言葉には出さないが、必死に助けを求めるお手伝い達に親父達は更に追い討ちをかける。
「でも耀獅ェ怒ると本当に怖いのよね・・・」
「うむ。あいつが本気で怒るとわしのボディーガード3人でも歯がたたんからな」
「この前なんて畔の丸太小屋を壊しちゃったんだから」
「まぁ、一度その恐怖を味わっておくのもいいだろう・・・」
「多分、相手が誰だろうと関係なさそうね」
「そうだな。耀獅ヘわしが今、一番怒らせたくない人物だからな」
そんな言葉を言い放って親父達は部屋を後にする。
お手伝いさん達は顔全体にこれ以上流れないだろうと言うぐらいの汗を流し、ガクガクと震えて
いた。
「「「そ・・・それでは私達もこれで・・・」」」
「・・・何処に行くつもりですか・・・・?」
そそくさと部屋から退散しようとするお手伝い達を俺は低く震えるような声でそれを止める。
ビクッ!!! っとお手伝い全員が固まる。
俺の頭からは、見える筈無い強靭な角が現れ、歯は牙と化し、目から閃光が放たれ、溜まった
怒りが爆発した。
「だ〜れ〜が〜・・・・ 変態で野蛮人でスケベで人間の恥だって〜〜〜!!!!??? 大体、昨晩百合華
が部屋を出てこの部屋に来るって事自体がおかしいでしょう!!そういう事が無いようにするのが百
合華の目付け役の貴方達の仕事ではないんですか!!!それに起こしにあがったのが新人さんの場
合は必ずもう一人付く様にってこの間決めたばかりでしょう!!!まずその時点で監督不行き届きじゃ
ないですか!!!!」
「申し訳御座いません!!申し訳御座いません!!」
お手伝いさん達は必死に何度も土下座しながらその言葉だけを繰り返す。
10分ほど怒鳴った後、鴨川さんになだめられブスッとしながら食堂へ下りる。
誰が見ても明らかに俺の機嫌が最悪の状態であることは明らかであった。
俺から半径2mは禍々しい黒の混じった紫色のオーラが取り囲んでいた。
この後、俺は『屋敷内で怒らせると一番怖い人』と言うレッテルを張られる事となる。
