story3をお読みになる前に、注意事項を1つ。


 途中、会話に出てくる『』は異国語で話している時か、またはモーリス氏が不慣れ

な日本語を話しているかのどちらかです。

誤解の無いようにお読み下さい。

それでは、story3をお楽しみ下さい。






「あら、どうもいらっしゃい。恵ちゃん、お友達?」


「あ、お母さん。この前言ってた、甓尖耀厲君☆」



と、快く迎えてくれたのはルミナの母親であの有名なデザイナー、幸田美子であ

った。


スリムな体型で黒のレースのドレスに身を包んでおり、お袋と同じくらいの長さの

ロングヘアーを持っていた。



「まぁ、あなたが甓尖君なの!? あなた!あなた!?」



あらら・・・ 旦那まで呼んじゃったよ・・・ 



『ドタドタドタ!!』



まるで階段から転げ落ちているような足音でこちらに向かってくる。


そんなに慌てなくても・・・


勢いよく扉が開いたかと思うと、耳元で大きな声を出された。



『イラッシャ~イ!』


「うわっ!」



俺は予想の他驚いた。


この人がルミナの父親らしい。


それにしてもリビングに繋がるガラス戸を破るくらいの勢いだ。



フランス人よ・・・ 


狭い日本、そんなに急いで何処に行く? 



・・・・・・。

・・・なんか自然に俳句になってしまっている!!!


そんなつもりじゃなかったのに・・・




::第4話 - story3::




「モーリス!!大声を出さないの!!!」


『Oh!!ごめんなさいネ』



どうやら日本語はカタコトのようだ。



「Can it talk in English one?(英語の方で話せますか?)」


「Oh!Yes!(あぁ、いいとも!)」



どうもこっちの方が話しやすそうだ。




『はじめまして。私は恵子さんのクラスメイトの甓尖耀厲と申します』


『これは、お会いできて光栄だね。私の名はカルマン・デイビット・モーリス。恵子

の父親だよ。妻から話は聞いたよ。君がこの間、恵子を救ってくれたんだね』


『そんな、救うだなんて・・・ 私は状況に応じた行動をとったまでの事です』


『いや、君には礼をいくら言っても足りないぐらいなんだ』


『それはどうも。気にしないで下さい』



「ちょっと~・・・ 2人で何話しているの?」



ルミナがしびれをきらし、少し怒ったような顔で訴えかける。



『あぁ、すまないネ恵子。彼はとてもいい人だヨ』


「いや・・・ まぁ・・・」



何故か恥ずかしくなる。




Malice?
Vous ne devez pas déranger deux.(モーリス、二人の邪魔しちゃいけないわ)」


「Ne pensez-vous pas ? c'est ainsi.(それもそうだね)」



「それじゃ、甓尖君。ゆっくりしていってちょうだいね」



フランス語で会話した二人はそれだけ言い残してそそくさとどこかへ行ってしまった。


ルミナはちんぷんかんぷんな顔をしていたが、俺はしっかりと内容が分かってしまった

ので顔を赤くしてしまっていた。



「どうしたの?ヨウライ君」



ルミナが顔を覗き込んできた。



「わっ!あ、なんでもない」


「それじゃ、私の部屋にいこっか」


「え?あ、あぁ・・・」



ん?今なんと?私の部屋・・・?


も、もうですか・・・?



意味不明な想像を勝手に膨らます俺。どうも考えが別の道に反れる。


勿論、ルミナにそんな気は多分無く、ただ純粋に部屋に案内しようと思っているのが実

際のところであろう。


しかし、玄関先の事と言い、両親の事と言い・・・ 何をしでかすかは分からない。


とりあえず覚悟はしておくか・・・ 



どうやら、自分では分からないほど冷静にパニくっているらしい。


階段を上がり、『KEIKO』とローマ字で書かれた木材で出来ているルーム板の掛かった

ドアの前まで連れて来られた。



「あ・・・あの・・・」



またルミナが何か恥じだした。



「どうした?」


「そ・・その・・・ 子どもっぽいかも知れないけど・・・」



ルミナは顔を真っ赤にしながら手を胸の前でモジモジとこねだす。



「そんなの入ってみないと分かんないし、大丈夫だろ?」



と、取り繕ってはみるものの当の本人がバクバクと心臓を鳴らしている事は死んでも言

えなかった。



「ヨウライ君が言うなら・・・」



別に入りたいわけじゃないんだけどな。



本当に突っ込みたい所だが抑えて中に通される。


中は意外と広い部屋でせいぜい12・3畳分はあるだろうか。

家具や小物がまんべんなく飾られた棚等がある。


広い部屋の割にはそんな派手でもなく、スッキリとした落ち着いた部屋であった。


俺は言われるがままに中央のテーブルの前に座らされた。



「意外と清潔にしてるんだな」


「そぉ?私キレイ好きだから・・・」



何故か言葉を詰まらすルミナ。



「ちょっと待っててね。今、ジュース取って来るから」



ルミナはせかせかと部屋を出て行った。

一人ポツンと部屋に残される俺。


居ても立ってもいられなくなり、軽く部屋を見歩く。


こうゆうのはデリカシーの問題にもなっているのだが、そんな考えは脳の片隅に

も出なかった。


勉強机と思われるデスクの上には参考書や辞典などがずらりと並んでいる。

しかも、新品同様の保存状態であったので驚いた。



「モノを大切に使うんだな・・・」



感心していると、ある物が目に飛び込んできた。


それは写真立てに飾られてあった一枚の写真であった。



向日葵畑に立つ男女と男性の肩の上に乗っている小さな女の子の楽しそうな写真

であった。



「それ、私が3歳の頃に撮った写真なの」



俺はゆっくりと後ろを振り返ると、ジュースとお菓子を乗せた盆を持って立っているル

ミナが立っていた。



「じゃぁ、これはルミナのご両親?」


「うん☆」


「嬉しそうだな」


「詳しい事はまだ小さかったから覚えてないけど、辺り一面に大きなヒマワリが咲いて

たのは覚えてるなぁ」


「それだけ強く印象に残ったんだな」


「とっても楽しかった記憶があるんだ・・・」


「それは今でも変わんないだろ?」


「うん。よく分かったね」


「大体見ていたら分かるよ」



再びルミナと面と向かい合って座り、ルミナが持ってきたジュースに手をつける。


ふと目線をあげると、ルミナが両肘をついてジーッとこっちを見ている。



「なんでしょうか?お嬢さん」



と、俺がカマをかけてみた。



「あ!ううん、何も無いの。気にしないで」



明らかに動揺している。


むしろ俺はルミナの反応を見ているほうが面白かった。



「俺に何かしてほしいのか?」



ソワソワと落ち着きの無いルミナに言ってみた。



「えっ!!?」



どうやら図星のようだ。



「べっ・・・別に・・・」



モゴモゴと籠った声で弁解しようとしているが、顔を赤くしてあからさまに期待をする顔

をしていた。



・・・・・・。


家に呼ばれた上に、もてなしをされたままでは気が済まなかったので俺はすっくと立ち

上がってルミナの側に回り込んで座った。



「あ・・・ ヨ・・ヨウライくん!?」



ルミナは驚きを隠せないようだった。


そのまま数十秒の沈黙が続き、ルミナが耐え切れずに席を立とうとした。


しかし、俺は何を思ったのか、いいから座ってろ・・・。と言って引き止めてしまった。



あれ?何言ってんだ?


と、顔を引きつらせて思ったが後の祭りであった。



ルミナは「うん☆」と俺の横に座りなおした。

しかも、さっきよりも距離が近くなっていた。


更にススス・・・と俺の方に寄りかかってくる。


終いには俺の肩に頭を乗せる状態になった。



冷静を装ったが、俺の心臓はバクバクと鳴り、腕は軽く震えていた。

当のルミナ本人は顔を赤らめながらも心地よさそうな顔をしている。


まるで陰と陽である。



何分位経ったのだろうか・・・ 



およそ30分はこの体勢のままである。


俺の汗腺からは既に一滴の汗すら流れてはおらず、体はカチーンと固まって1mmも

動かず、しかも心臓の音すら自分でも聞こえないような状態に陥っていた。



ハッキリ言ってヤバイ。



このままだと間違いなく心臓停止と脱水症状で死ぬ。


俺の限界がピークに達しようとした時、ルミナが長い長い沈黙を破った。



「私ね・・・」



ハッと意識が戻り、心臓が再び動き出した。



「私、お父さんやお母さんにあまり迷惑とか掛けたくなかったし、一人っ子だったからこ

んな風に甘えれる人っていなかったの・・・」



ルミナはしみじみと語り始める。



「なんでだろね・・・ こうやってヨウライ君が傍に居てくれてすごく安心できるなんて・・・」




何故今まで気付かなかったのだろう・・・ 


俺がルミナとなら自分が持っていたコンプレックスに悩むことなく過ごせていたのか。



ルミナの一言で悟った。


それはルミナが俺を想うと同様に俺もルミナの事を相応に想っていたからなんだと・・・ 

俺はようやくコイツの事を好きなのだと確信することが出来た。



今、心に溜まっていたモヤが消え、清清しい気分になった気がした。



「ルミナ・・・」


「なぁに?」



か細い声で返答してくる。



「俺さ・・・」


「ん?」



「お前と一緒に居てやるから・・・」



あんまり素直じゃないから今はまだ言う事は出来ない、大切な2文字の言葉。



でも、いつか言ってやるよ。


その大切な言葉をな。



そんな俺の遠回しな言い方を察知してくれたのか、ルミナは徐々に赤くなる顔を俯かせ

ながらも答えてくれた。



「ウン☆」



ここから当分、俺とルミナの彼氏でも彼女でもない微妙な関係が続いていく事になる。








「邪魔になったな」


「ウウン。またきてね」



この笑顔に弱い・・・ 



「あぁ」



俺は微笑と一緒に言葉を返し、幸田家を後にした。



夕日の光が差し込む車の中で俺は今日1日の事を思い返していた。


結局、朝からハラハラした1日であったが俺の中で何かが吹っ切れたようだった。



自然と顔が緩み、うっすらとニヤけてているのが表情にでていた。



「片谷さん・・・」


「なんでしょうか」


「今日6時からの予定だった馬術協会の会談、キャンセルしといて下さい」


「かしこまりました」



とてもではないがこんな緩みっぱなしの顔で会談などできる訳もなく、またする気も起きな

かった。



・・・・・・。



な~んか大事なことを忘れてるような・・・



頭の中にある記憶の塊を漁る。



あっ!



そう。ルミナの母、幸田美子にお袋の伝言を言うのをすっかりと忘れていた。




今更車を戻す事もできず、帰ってお袋に1時間程、無意味な説教を喰らった。

しかもビンタ付き。



いや、お袋にとっては大事な事かも知れないんだけどね・・・



更にその後、運悪く百合華に出くわし、気絶させた罰として俺がのぼせた2・3時間ほど、一

緒に風呂に入らされたのは言うまでもない。