編入生は少しの間、登校したら職員室に顔を出さないといけないらしい。
「おはようございます」
「あら、甓尖君。おはようございます」
運良く、体育の山下先生に会った。
「笹川先生いますか?」
「ちょっと待ってちょうだい」
山下先生はそう言い残して奥の部屋に入って行った。
『ピーンポーンパーンポーン』
放送用のチャイムが鳴る。
『笹川先生。笹川先生。至急、職員室の方までお戻りください。笹川先生。笹・・・・』
どうやら山下先生は放送で笹川先生を呼んでくれたようだ。
::第3話 - story2::
「今呼んだから少し待っていて」
「はい」
山下先生は俺を残してどこかへ行ってしまった。
5分ほど待つと向こうの方から笹川先生は息を切らしながら走ってきた。
そして5mほど先で勢いよく『ズデーン!!』という音を立てて転ぶ。
この先生は真面目なのはいいのだが、おっちょこちょいなのだ。
俺は情けなくなり頭を抱える。
「あの・・・先生。大丈夫ですか?」
俺の声は完全に呆れ声である。
「え、ええ。それよりも至急って言っていたけど・・・」
「ああ、それ俺です」
「あら、あなたなの。 ・・・・あらっ!?今日は早いのね」
今更!!!?? とツッコミを入れたくなる所だがあえて我慢する。
「いつまでも遅く登校するわけにもいきませんから」
「偉いわね」
「当然の事じゃないんですか?」
「先生だったらゆっくり寝ているわ」
いや・・・自信満々に言われても・・・・
「とりあえず今日も通院OKね。教室に行っていいわよ」
「ハイ。失礼します」
通院って・・・ 俺は先生の国語力の無さに軽く呆れながら、コツコツと音を立てて教室
へ向かう。
その頃、教室ではルミナが昨晩の出来事を自慢げに皆に話していており、女子達はウ
ットリとしながらその話を聞いていた。『ガラガラッ!!』俺は何も知らないため、普通に入
る。
しかし、それは十分間の悪夢の始まりであった。クラスの女の子達は一斉に俺の周り
を取り囲み、あっちこっちと振り回され、危うく脱がされそうにまでなった。
俺はバッ!!とルミナの方を見るとルミナは笑いながらこっちに手を振る。
(手なんか振ってる場合か〜〜!!!!)
俺は正直泣きそうであった。結局、授業が始まるまでの十分間は俺にとってまさに地獄
だった。
やっとのこと解放してもらって席に着いた俺の口からは魂のようなものが出ており、前か
がみになったまま白くなっていた。
その様子を見たルミナは流石に申し訳ないような顔をしていた。
1時限目は英語。
ドイツに留学していたとは言え、基本は英語であったのでなんとか分かるであろう。担当
の先生が入ってきて・・・ って、笹川先生じゃん。
あの人英語だったのか。
そんな俺を他所に、授業は始まる。
「『All things are the one learning more than old.』さて、コレを訳してもらおうかしら?」
先生がみんなの顔を見渡すと、クラス中がゆっくりと顔を背ける。
俺はその様子を見て口を開けたまま呆然としていた。
「じゃぁ・・・甓尖君。訳してちょうだい」
雰囲気を察したのか先生は俺を当てた。
「え〜と・・・『全ての事は古来より学ぶものである』ですか?」
「では有名な四字熟語では?」
「え〜・・・ 温故知新?」
「その通りですね」
クラスから小声で
「「おお〜〜〜」」
という声が聞こえる。
「つまり、ここのone learning とは・・・・」
先生が話を続けるも俺は大勢の視線を感じた。
(なんだこの視線・・・・)
まるで針がチクチクと刺さるように感じる。その休み時間、俺は再度取り囲まれる。
「英語得意なんだ」
「よくあんなのが分かるね」
「私、英語苦手なんだけど教えてくれない?」
「それなら私だって分かんないわ」
「私も!私も!」
次から次へと・・・・
正直ウンザリしてきた。
するとルミナが突然割り切ってきた。
「ヨウライ君って確かドイツに留学してたんだよね?」
「「「ヨウライ君!!!!!???」」」
女子達は俺がドイツに留学していたよりもルミナが俺のことを名前で呼んでいた事に驚い
ていたようだ。
「なんで?なんで恵子ちゃんが甓尖君の事を名前で呼んでるの!?」
ルミナもハッと気づき、すぐさま弁解した。
「ウソウソ!!冗談だよ」
「あ〜、ビックリした」
「そうだよね。名前で呼ぶだなんて深い関係じゃないと無理だもんね」
思い当たる節があったためその言葉がグサグサッと俺の胸に突き刺さる。
「それよりもドイツに留学してたの?」
話を戻してきた。俺としてはそのまま流れて欲しかったが・・・
「え〜!スゴ〜イ!!」
「どれぐらい留学してたの?」
「半年ぐらいかな」
「それでも半年も・・・スゴ〜イ」
「お父さんとかがドイツに住んでたの?」
「いいや。俺一人」
「一人でドイツに住んでいたの!?」
「そうなるな」
「もっとスゴ〜イ!!」
俺はたいして盛り上がるような話ではないと思ったのであまり話しに活気はなく、少しつま
らなくもなってきた。
俺の異変に気付いたのはルミナと美香だけだった。
2時限目、世界史。
「・・・では、1904年に起こった日露戦争で、陸軍と海軍の司令官は誰ですか?え〜と・・・
幸田さん。海軍の司令官長を答えて。」
「あ、ハイ。え〜と・・・・ 東郷平八郎」
「よろしい。じゃぁ、陸軍の司令官長を甓尖君」
「はい。乃木希典」
「よろしい」
「陸軍が攻めた場所の・・・・」
授業がつまらない。
自慢になるかも知れないのだが、このレベルであっては俺は既にもう学習済みだ。
何か復習しているようで・・・
それはそれでいいのだが・・・・
何かが違う。
俺は遥かに超えたものを想像していたようだ。
甘かった・・・
てっきりもっと難易度の高いものと思っていた・・・
結局、この時間も何もせずに終わっていた。
3時限目、音楽。
「今日は、色々な楽器触ってみてみましょう。この音楽室の中にある楽器ならばどれでも
使ってもかまいません」
楽器の種類が豊富である。俺も暗い雰囲気だったのが少し明るくなった。
色々見てまわるとその中からドラムを見つけた。しかもそのドラムは非常に高級なメーカー
で、滅多に手に入らない物であった。
俺は何かに惹かれるかのようにドラムに近づいていった。椅子に座り、スティックを手にとって
感触を確かめる。
「ねぇねぇ、甓尖君がドラムするみたいだよ」
俺がドラムに近づくのを見て一人の女子がそんな事を口走った。
「えっ!本当?」
「見ようよ。見よ」
周囲に集まってくるギャラリーには耳に入らず、大きく息を吸ってドラムを叩きだした。
俺は、このような音楽を演奏するのが大好きである。演奏している最中は風に包まれているかの
ようで、一瞬、まるで俺が俺でなくなる様な感覚すら覚える。
更に、叩いている時の記憶というのはあまりない。
一通り叩き終わって、気付いた時には拍手が起こっていた。
俺は頭に「?」のマークをたくさん付けていた。
音楽の時間はすぐに終わり、ドラムを惜しみながらも教室へと帰る。
