完全に囲まれると改めてイヤな感じだな、おい・・・
「・・・なんか用?」
おそるおそる聞いてみると、
「「「お願い!!! 勉強教えて!!!」」」
一斉に口を揃えて言ってきた。
・・・そんな事だろうと思った。
::第5話 - story2::
「私達、このクラスの中でも特別頭が悪い方なのよ」
「そうそう。私達、スポーツ推薦だから・・・」
「勉強はからっきしダメなの」
「甓尖君なら頭良さそうだし、ね?」
俺『なら』?
『なら』ですか・・・
随分と侮られたもんだ。
「ね?この通り!!」
美香は両手を合わせて眼前で拝むように頼み込んできた。
俺は地蔵か?
所詮俺が勉強を教えた所でお前らの頭が良くなるとは思えんが・・・
なんせ補習も知らんぐらいだからな・・・
しかし、やっぱりここでも出るのだ。俺のクソお人よしが。
「いいけど・・・」
・・・なんてこった。
また言っちゃったよ・・・
額に手を当てて沈んでいる俺を他所にキャッキャとはしゃぐ美香達。
「じゃぁ、今週の日曜日空いてる?」
「あぁ・・・」
完全にヤル気のない俺の声。
「それじゃぁ決定だね。良かったね、心強い味方が出来て」
「ホントホント。これも美香の人徳よ〜?」
・・・・・・。
美香のおかげなのか!!?
もう怒る元気すら湧いてこない。
「ヨウライ君・・・」
ピクッと脳が反応し、声の主のほうに頭を向ける。
そこには小声で俺に呼びかけるルミナがいた。
俺もバレない様に小声で言い返す。
「学校では名前で呼んじゃダメって言わなかったか!?」
「そうだけど・・・」
なぜそんな哀しそうな顔をするの?貴女は・・・
俺はお前のそうゆう所に弱いのだ!!
結局俺の方が先に折れてしまい、落胆しながら話を聞くこととなった。
「んで?何?どうしたの?」
「実はね・・・私もちょっと勉強教えて欲しいなって・・・」
しだいに顔を赤くしながらどんどん俯いていく。
何?そんなことで深刻な顔してたのかよ・・・
「いいよ」
ルミナは予想に反したのかあっさりと答えた俺の顔をまじまじと見てくる。
・・・おいおい。そんな顔で迫って来るんじゃない。理性が利かんだろ。
「本当に?」
「ああ」
「あ、ありがとう・・・」
何?その弱弱しい声わ。
「嫌か?」
と、冗談で言ってみると、ルミナは大慌てで両手と首を振って声にならない声で必死に
何かを訴えかけていた。
何が言いたいのかは分かったので、俺はルミナの反応をみて面白がっていた。
「いつがいい?」
「そ、それじゃぁ日曜日は美香ちゃんの事があるから土曜日でいい?」
「あぁ」
気前よく言ったものの、これでまた俺の休みはナシだな。
ついでに二日連続で百合華を気絶させて一緒に風呂入らないといけないのか・・・
一人で勝手に先読みし始めてしまっている。
相当マズい所まで来ているのだろうか・・・?
来週からテストだと言うのにまったく授業に集中できず、午前中はずっと窓の外を見
ていた。
─正午
昼を告げる鐘が鳴り、教室は一気に昼飯モードに入った。
「さて・・・」
今日は嗜好を変えて、学食。
なので大食堂(パンフにそう載っている)に向かうとするか。
「アレ?ヨウライ君、何処行くの?」
俺は、『パシュッ!!!』っと音を立てて、3m程離れていたルミナの口を押さえる。
その顔は軽く怒気を含んでいた。
どうやら誰にも聞かれていないようだ。
「危なかったね」
時々、本気で引っ叩きたい気分になるのは何故だろう。
「何処行くの?」
「今日は学食」
「そうなんだ。一人で?」
「あぁ」
「寂しそうだから私も行っていい?」
・・・・・・。
殴る準備は出来てますけど?
「構わん」
「ヤッタネ☆」
ルミナは弁当をカバンにしまい込み、財布を手にして俺の後を付いてくる。
「弁当は?」
「帰って食べる」
「さいですか」
ルミナを連れて教室を出ようとしたその時、
「あれ?甓尖君どっか行くの?」
美香が声を掛けてきた。
「学食」
と、素っ気無く話すと
「あたしも行っていい?」
・・・はいはい。
お好きな様に。
「来るなら早く来い」
自分の気付かない内に声が怖くなっていっていたが、他の奴らはたいして気にもしてい
なかった。
「あいよ」
お前はどこぞの職人か!?
「え〜〜!!美香、何処行くのよ〜〜!!」
「甓尖君が行くなら私達も行くよ〜!!」
「あんた達が来たら甓尖君が迷惑するからそこでおとなしく食パンでも食っていなさい」
もはや捨てゼリフであるが、全くその通りである。
いつまでも聞こえるブーイングを後にして、俺達3人は学食へと向かう。
大食堂。
50人の料理人が12時の昼飯時になると慌しく動き出す。
広さ150平方メートルの学生食堂である。
・・・と、パンフレットにはそう載っている。
テーブルは120脚を超え、毎日数十万の売り上げを誇るとんでもない所だ。
メニューは主に洋食を中心にしているが、生徒の声もあって最近では和食、中華も取り
入れているらしい。特にデザートは大人気だと。
基本的にはセルフサービス式で食券を券売機で購入してそれと引き換えに受け取ると
いう方式。
・・・と、パンフレットにはそう載っている。
俺達は大食堂に着くとその広さに驚いた。
(うちの食堂より広いじゃねぇか・・・ 〔甓尖家食堂:100平方メートル〕)
まだ鐘が鳴ってから5分と経っていないのに既に9台もある券売機には長蛇の列が出
来ていた。
「うっひゃぁ〜〜・・・」
美香が声を上げる。どうやら二人とも来るのは初めてらしい。
「とりあえず並ぼうか?」
とルミナが言う。
「いや、この人数だ。3人とも並んでたら席が無くなる」
「それもそうだね」
あっさりと引き下がりました。
「先に席とっててくれ。二人の分は言ってくれたら買ってくる」
「ほんと?」
なんでこんな事に嘘をつかなきゃならんのだ。
「ああ」
「助かるわ」
「ほんとほんと」
二人は口を揃えて言い出す。
えーえー。
私は貴方達のアッシー君ですよ。
「じゃぁ、あたしはグリルチキンとピラフ」
「私もピラフ。あと、カルボナーラ」
よくもまぁ、メニューも見ないで・・・
無かったらどうするつもりなのだろうか。
分かったとだけ答えて、券売機に向かう。
当然、俺の出現により食堂内は騒然。
学園唯一男なので仕方が無いと言えば仕方が無いし、その上長身なので否が応でも
目に付く。
雑言には耳を貸さずに一直線に歩く。
しかし、さっきから気になるのはおもむろに携帯を取り出し、むやみやたらに写真を取り
始める女子達。
俺は動物園のパンダか・・・
何とか辿り着いたが前後の女子は結局俺が食券を買うまでずっと騒いでいた。
「甓尖くーん」
「ん?」
と声のする方を見ると、
『パシャッ!!』
・・・・・・。
誰だよ、デジカメまで持ってきてんの・・・
真正面から写真を撮られた。
もういいや・・・
煮るなり焼くなり好きなようにすればいいじゃん・・・
完全に自分を捨てた瞬間の人間の姿である。
やっと券売機に辿り着いた。
券売機は和・洋・中ごとに分かれていて、和食だけで券売機1台と言う事になる。
つまり、3台でワンセットという事だ。
「そりゃぁ、混むよな」
そんな事を呟きながら言われたメニューがあるかどうか確かめる。
・・・あ。
あった・・・
なんて悪運の強い・・・
軽く舌打ちしながら言われた通りにグリルチキンとカルボナーラとピラフの券を購入しよう
と財布を開けてみる。
が、小銭が無い。
あるのはゴールドカード6枚と現金20万円だけだ。
しかも万札のみ・・・
券売機には1万円は通らないし、もちろんカードを通すはずも無い。
両替機はあるけど遠いので一度列から出ないといけない。
どうしようか・・・
ちょっと物は試しに聞いてみるか。
俺は後ろについていた人に体を向け少し見下ろす感じで話しかけた。
「すいません」
「きゃっ!!」
その人は予想外の展開に戸惑っているようだ。
「申し訳ありませんが5千円札を2枚か千円札を10枚ほど持っておられませんか?」
俺は少し顔を近づけた。
「えっ?えっ?」
その人は、顔を真赤にしながらまだ混乱している。
ダメだこりゃ。
「ご・・・五千円札なら・・・」
「あ、ありますか。すいません。一万円札と交換してもらえませんか?」
我ながら嫌味ったらしい言葉だ。気付いていなかったけど・・・
「い・・・いいですよ・・・」
「ありがとうございます」
笑顔で握手をしておいた。
その後、彼女がどうなったのかは知らない。
とりあえず5千円札で奴らの食い物を購入した。
次に俺の食う物を探す。
何にしようか・・・
券売機を見渡すと、本当に色々なメニューがあった。和食だけでも50種類はある。
中華に目をやると、普段見られないような物まで売っていた。
「ゲッ!!フカヒレまで売ってやがる。しかも高ぇ」
ブツブツと文句を言いながらも決定したのは、『あっさり系』という訳で、俺は鯖の味噌煮定
食を購入した。
俺は食券を持って交換所に向かう。
「あらまぁ。男の子なんて久しぶりよ。前の学校以来だわ」
・・・・・・。
オバちゃん・・・
あんたの経験話はいらん。
