「坊ちゃま。お着きで御座います。」
そう言って俺をここまで運んできてくれたのは片谷(かたや)さん。
ドライバー歴20年のベテランで、俺の専属ドライバーだ。
どうも、この人の運転じゃないと落ち着かない。親父の運転手だったのを俺
が無理言って専属にしてもらった。
いざ降りてみるととても広い敷地だ。
全体を見渡す事は出来ない。
「結構キレイな学校じゃん」
と、呟く。
「では、坊ちゃま。私はこれで」
「あ、ハイ」
片谷さんは俺を残し、帰って行った。
「さて、とりあえず学校の名前でも覚えるか。どれどれ・・・」
『聖クライアンヌ女学院』
「・・・・・・。」
数秒間の沈黙が俺を襲った。
そして次の瞬間にいままでにあげたような事の無い声で叫んだ。
「女子高〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!????」
::第1話 - story2::
俺は5分ぐらい硬直していた。我に返るともう一度、看板を見た。しかし、や
はり何度見ても同じである。
「な、何で女子高に来てるんだ。もしかして片谷さん間違えたのか?」
色んな事を考えていると、向こうの方からチェーン付き眼鏡をかけた、いかに
も学園関係者らしき女性がこちらに向かってくる。
「甓尖耀似lですね」
「え、あ、ハイ。そうです」
「お待ちしておりました。理事長がお待ちです。さぁ、こちらへ」
俺は訳がわからずとりあえず付いて行った。
学校の中はとても清潔でピカピカしており、俺はあまりの綺麗さに辺りをキョロ
キョロと見回していると、いつの間にか理事長室の前まで来ていた。
「理事長。甓尖様が起こしになられました」
「お入りになられて」
「どうぞ」
扉を開けられ、中に入れられる。そこにはとても美しい女の人が座っていた。
理事長をしていると言うことはそれなりに歳もいっているとは思うのだが、そのよ
うな事を微塵もさせないような気品に満ち溢れていた。
「初めまして。私の名は吉原。この学園の理事長をしています。あなたが甓尖耀詞Nね」
「ハイ」
「お父様から話は聞いているわ」
「俺は一切聞いていません」
「あら?そうなの?お父様は快く入学させてくださったから話はもう済んでいるのかと思ったの」
あの親父コロす・・・
「じゃぁ、まだ何にも知らないのね?」
「ハイ。送ってもらうとココでしたんで」
「話すと長くなるんだけどいいかしら?」
「構いません。こちらも事情は知っておきたいので」
「分かったわ。実はね、お解かりの通りここは女子高なの。日本のどこからでも来れるのよ。で
もね、ここに来る子は一切男の子に面識の無い子がたくさんいるのよ。さすがにこれには私も
どうしようもないわ。でも急に共学にするのもあれだし、ここの生徒は男の子を汚い生物だと思
い込んでいるのよ」
「ハハ・・ハ・・」
つまりそっち方面の子達がいるって事か・・・
「そこで、色んなところに頼んで一人だけ男の子を編入させて慣れさせて行こうと思ったの」
「つまり、男に免疫をつけさせる為に俺をここに?」
「そうなのよ。勘がいいわね」
「それにしても何で俺なんですか?」
「一番最初に頼んでみたのがあなたのお父さんの甓尖さんでね。訳を話すと間髪入れずにO
Kもらったってわけなの」
ぜってーブッコロス、あのクソ親父。
心に誓った。
「そういうわけでおねがいできるかしら?もちろんずっとという訳じゃないのよ。しばらく様子を見
て結論が出たらあなたを解放するわ」
解放て・・・
断るのもなんだか悪い気がした俺は、心なしとも引き受けてしまった。
「あら、ありがとう。じゃぁ、早速クラスの方に行って貰うわね。橋田、笹川先生を呼んでちょうだい」
「かしこまりました」
どうやら橋田と言う人は俺を最初に迎えた人らしい。
数分後─
理事長室の中からでも聞こえるほど大きな足音を立てて勢い良く入ってきたのは茶色がかった黒
の少しカールをあてている髪の毛の女性だった。
「理事長。お呼びですか」
「笹川先生。この前話した事なんだけど」
「もしかして彼ですか?」
「その通りよ」
「初めまして。きょうからあなたの担任になります。笹川 優美(ささかわ ゆうみ)です。ヨロシクね」
俺は深々と礼をした。
「理事長から話は聞きました。無力ながらもお力にならせて頂きます」
「ウフフ♪それじゃぁ、行きましょう。では理事長。失礼します」
何故笑う?
「後の事は任せましたよ」
「ハイ!」
笹川先生は元気よく返事をし、俺も理事長に向かって礼をしてから部屋をあとにした。
「あなたのクラスは1−C組よ」
廊下を歩きながら笹川先生は俺に話しかける。
「ところで、俺以外に何人ぐらいいます?」
「なにが?」
「なにがって・・・ 男ですよ」
「ヤダ、男の人はあなた1人だけよ」
「えっ!?」
俺は耳を疑った。
「先生とかもですよ?」
「ええ。あなた1人だけ」
「って事は本当にこの学校に男って俺だけなんですか!?」
「そうよ」
痛い誤算だった。
生徒はともかく教師まで全員女性とは明らかに計算外である。
ちょうど休み時間であったらしく、廊下にはたくさんの女子生徒がたまっていた。
その中を俺は笹川先生の後を付いて歩く。
見えるのは女子のキャーキャーと騒ぐ声や、えぇっ!男の人!?等、まるで珍しい
ものを見るような目の女子生徒だ。
きまず〜〜〜・・・
俺はこの場から消えてしまいたかった。
「さぁ、着いたわ。ここがあなたの教室よ」
俺は扉のガラス越しに中の様子を窺う。
大人しそうな子もいればあからさまに活発そうなのもいる。
メガネをかけて本を読んでいる子もいれば、寝てるのも・・・
「うわぁ〜・・・」
「それじゃぁ、先に入って説明するから名前を読んだら入ってきてくれるかしら?」
「ハイ。分かりました」
先生はそう言うとガラガラッと扉を開けて中に入って行った。
もう一度、ガラス越しに部屋の中を覗くと、先生が俺の事を説明している。
「「「ええぇ〜〜!!!!」」」
と叫ぶ声が外にまで聞こえた。
そこまで驚かなくても・・・
「それじゃぁ、甓尖君。入ってきてちょうだい」
ザワザワとクラスの騒ぐ声が聞こえたが、俺は満を持して教室に入っていった。
『ガラガラッ!!!』と勢いよく扉を開け、ズカズカと教卓まで歩いていった。
しかし、予想を遥かに超えた静けさが俺を迎えた。
あれ?意外と騒がないんだな。
女子生徒は俺の顔を食い入るように見る。
むしろ睨まれているかのようでもあった。
「とりあえず自己紹介でもしてもらおうかしら」
「あ、ハイ」
俺は一呼吸置き、覚悟を決めた。
「初めまして。甓尖耀獅ニ言います。ここにきた理由は恐らく先生のほうから聞いていると
思います。とりあえず、一年間皆さんと共に過ごして行くと思いますのでヨロシクおねがいします。」
そう言って頭を下げた。
しかし、沈黙は変わらない。
俺はおそるおそる頭を上げると、火が付いたように狂うように叫びながら部屋の端に逃げる子、
「「「カッコイイ〜〜〜♪」」」と言いながら俺に近寄ってくる子、関係なしに寝ている子、興味が
全くないように無愛想に椅子に座っている子と様々であった。
このクラスは40人で半数近くは男に面識の無い子達ばかりであった。
「ハイハイ。皆さん。席に着きなさい」
「先生!この人本当にうちのクラスなんですか?」
「ええ、そうよ」
「キャー♪」
「ウフフ♪ 食べちゃダメよ」
余計なお世話です。
「ハーイ♪」
「とりあえず甓尖君の席はそこね」
俺は真ん中列のど真ん中の席を指された。
「ハハ・・ハ・・・」
色んな意味で額に汗を垂らしながら俺は自分の席へと向かった。しかしど真ん中というの
はどうも気が引ける。それに隣の席の子はガタガタ震えているし・・・
・・・まいった。
俺は先生に頼んで席を窓側に替えてもらった。
周りは一応免疫がある子達なので一安心だ。
この時間が終わり、俺は教科書やらノートやらを職員室まで取りに来るように言われたので
質問(半分拉致気味)攻めに遭っている中、教室を飛び出してきた。
しかし・・・
やはりこの廊下を歩くのは気が乗らない。
本当に自分が珍獣になった気分だ。
なんとか職員室に辿り着いた俺は扉を開けて笹川先生を呼ぶ。
ところが、笹川先生を見つける前に他の女性教師の人達にあっちこっちに引っ張り
回され、もみくちゃにされた挙句、半ば服をも脱がされかけた中(強姦)で教科書を
受け取った。
制服はほとんどボロボロであった。
「買い替えねぇとな・・・」
早くも俺は嫌気がさしてきた。
その日の授業は終わり、俺は携帯で片谷さんを呼んでおき一目散に教室を飛び出た。
後ろからはけたたましい足音が学校中に響き渡る。
「「待って〜〜♪」」
「「「メルアドと電話番号教えて〜〜♪」」」
という言葉と叫び声しか聞こえない。
俺は顔を引きつらせながら全速力で逃げた。
何とかまいた俺はそそくさとリムジンに乗って帰宅したが、家に着いた途端、俺は疲
労の限界で倒れてしまった。
遠のく意識の中でお袋や執事の鴨川さんに古軒さんの声だけが聞こえた所で俺の記
憶は途切れた。