昼食の時間に入り、俺は特製のサンドイッチを口に運ぶ。



「ヨウライ君」



小声で話しかけられ、口に含んだサンドイッチを吹き出しそうになりながら俺は声の主

のほうを向く。と、ルミナが少し深刻そうな顔をしていた。




::第3話 - story3::




「どうしたの?」


「ヨウライ君。今日なんか元気ないね」



俺は一瞬心を見透かされたのかと思った。



「そんなことないよ」


「でも、昨日やおとといの顔じゃないよ」



俺は普段どんな顔をしているのだろうか・・・



「ホントの事言うと、少し疲れたかなぁって」


「大丈夫?」



まるで家族の事を心配するような言い方だ。



「大丈夫だよ。ありがとう」



ルミナは少し考えたような顔をした。



「そうだ、学校終わってちょっと話しようか」


「ん?うん・・・ いいけど」



くしくも俺は心無い返事をしてしまった。

逆にそれがルミナを心配させてしまっている事に気付かず。


午後の授業も終了し、掃除や部活動の声が聞こえる。


今日もまた、玄関前で待ち合わせをしている。


しかし、今日に限って俺の周りには誰も集まらない。


後日聞いた話によると、どうやら不気味なオーラが出ていたとか・・・ 


しばらくするとルミナがやってきた。



「ゴメンね。待った?」


「いいや」


「じゃぁ、行こうか」


「どこに行くんだよ」


「ウフフ♪私のお気に入りの場所☆」



ルミナは不敵な笑顔を見せた。



俺が連れて来られたのは、学園が見渡せる小高い丘だった。


丁度、陽が傾き始めた頃、で茜色の空の下、俺は座って手を付き、ルミナは木に右手を

添えて立っていた。



「ココね・・・私が入学して一番最初に見つけた場所なの」


「へぇ・・・ キレイだな・・・」



それはお世辞でもなんでもなかった。紅く染まった太陽の光が、学院の時計塔に当たっ

て、文字盤が紅く見えるのである。学院内にある池に夕日が映り、水面がキラキラと光

を出している。


「でしょ☆ココに来るとねイヤな事やツライ事なんか忘れさせてくれるんだ・・・ だから・・・

 ヨウライ君にも見せたかったの・・・」



俺はすっくと立ち上がった。



「ありがとう・・・ 少しは気が晴れたわ」


「ヨウライ君!」


「ん? わっ!!!」



突然呼ばれたかと思ったらルミナが俺の胸に飛び込んできた。



「わっ!!!たたた!!!」



さすがに踏ん張りきれずそのまま俺は背中から倒れ、上にルミナが乗るというなんとも

異様な光景になってしまった。



「わ・・・わ!!!こ・・・幸田!!?」


「あ、ゴメンね☆」



ゴメンと言っている割には退く気配が無い。



「の・・・退いてくれませんかね・・・?」


「もうちょっとだけ・・・」


「も・・・もうちょっと・・・!?」



俺はあまりの驚きと焦りでろれつが回らなくなっていた。



「こうさせて・・・」



ルミナは恥ずかしいのか俯きながら答える。



さすがに寝転んだままだとマズイので上半身だけ起こし、ルミナの言う通りにさせてやっ

た。


ルミナは俺の首に手を掛け、胸に顔を当てている。



「そうだ、ヨウライ君!」



突然大きな声を出しながら立ち上がったので俺も驚いた。



「明日、私のウチに遊びに来ない?」


「え・・・?」



このお嬢さんは急に何を言い出すんでしょうね


俺にウチへ来い?

俺は夢でも見てるのか?


いくらなんでも家には誘わないよな・・・


頭の中で色々と考えていると、何も言わない俺に業を煮やしたのかルミナが覗き込んで

くる。



「明日忙しい?」


「そんなことないんだけど・・・」


「じゃぁ、来なよ」


「・・・いいのか?」


「ウン。大歓迎だよ☆」


「どうした?急に・・・」


「昨日の事、ウチに帰ってからお母さんに話したの。そしたら是非お礼が言いたいって言

って・・・」



あ~・・・  喋っちゃったのね。この子・・・



「礼なんていいのに・・・」


「それじゃダメだよ。私だってお礼言いたいのに」


「ハハハ・・・ ルミナはそんな事気にしなくても・・・」


「えっ?」


「何?」


「今、私のこと『ルミナ』って呼んでくれた?」



俺はハッと気付き、口を押さえようとしたが時既に遅し。

ルミナはこれほどと無いようなぐらい喜んでいた。



「ワァ~イ♪ヨウライ君が名前で呼んでくれた~~♪」


「ハハ・・・ハ・・・」



笑うしか他無かった。



「私ね、ヨウライ君に言おうと思ってた事があるんだけど」


「何?」


「耳貸して♪」


「ん」



俺も立って、耳をルミナに近づける。

ルミナは目一杯背伸びをして言ってきた。



「私ね。ヨウライ君の事大好きだよ♡」



さて・・・・   まず何を言われたのかを整理してみよう。



『チュッ・・・』



何?何が起こった・・・?


頬に温かい感触が伝わる。それはまたたく間に体全体に電気が流れるように伝わった。



ルミナはスッと俺から離れ、顔を染めながら


「じゃぁ、明日9時に私のウチまで来てネ☆ バイバイ」


そう言い残して走って帰っていった。



俺はしばらく動く事が出来ず、そのまま立ちすくんでいた。


家族以外の異性から言われた『好き』と言う言葉。ついでに『大』までついている。

おまけにどうやら、俺はルミナにキスを受けたらしい。




初めて受けた告白と頬へのキス。俺の頭は今、状況把握に精一杯であろう。


そして状況把握できたように俺の体から力が一気に抜け落ち、俺はペタンと腰を抜かして

しまった。


そして段々と顔が真っ赤に染まっていき、頭から『ボンッ!!!!』と言う音とともに煙があがった。



10分ぐらい呆けたまま、やっとの事立ち直った俺はすっかり遅くなってしまった事に焦り、急

いで鴨川さんを呼んだ。


すっかり体は冷え切っていたまずなのに、体全体はとてつもなく熱かった。


帰りの車の中でも今日のルミナとの出来事が頭から離れずにいた。


家に着くと、何やら執事やお手伝いがいそいそと忙しそうに動いている。



「耀厲様、おかえりなさいませ。時間もございませんので着替えのほうをお願いいたします」



そういやメシ食いに行くんだったな。すっかり忘れてた・・・



「おかえり耀厲」


「ただいま。お袋」



お袋は勿論、百合華も身支度を整えていた。後は俺の用意と親父の帰宅だけとなった。


俺は死ぬほど急いで着替えに入った。



俺の外食の時の格好は必ずタキシードと決まっている。何故かは知らんが、物心付いたとき

には既にこの格好であった。


ネクタイを締めて革靴に履き替えて降りようとした時、



『ガロロロロロ』



と大きな音が聞こえた。どうやら親父を乗せたリムジンが帰ってきたようだ。


駆け足で下りて親父を出迎える。



「あなた、おかえりなさいな」


「ただいま」


「お帰り♪お父さん」


「ただいま、百合華」


「親父おかえり」


「おお、耀厲か。ただいま」


「あなた、用意なさらなくても?」


「ああ、このまま行こう」


「ワーイ♪早く行こーー♪」


「それじゃ、後の事は任せましたわよ」


「いってらっしゃいませ。お怪我の無いように」



俺達4人は同じリムジンに乗り込んで、目的地へと移動する。